匂い取る君製造ライン
リアご帰還です。
「遅い。」
遺跡から戻ってきて宿の扉を開けてみたらびっくり、リアが仁王立ちで待ち構えていた。しかもかなりご立腹の様子。がっちり組まれた腕に指でトントンとリズムを刻んでいる。
「やーい、やーい、楽が怒られてるぞー!」
「うるさい、バカエティ!リ、リアさん?どうされました…?」
正直怒られる理由が見当たらない。しかし、知らず知らずのうちに迷惑をかけている可能性は否定できない。そんなとき、その原因を導き出せるかどうか。これは俺ができる男として成長できるかどうかのチャンスでもあるのだ!リアの放つ無表情のオーラにどうにか思考をフル回転する。帰りが遅かったから?いやまだ夕方である。リア以外のみんなが一緒だから仲間外れにされたと思った?いやなら何故俺だけ怒られているのか…。リアの背後を観察するも部屋は出る前と別段変わって見えない。宿に入る時も特に誰からも声をかけられなかったし…。うん、わからん。
「えっと、何か約束してましたっけ…?」
「別に。」
「違うみたいだぞー!」
「うるさい!だまれバカティ!」
「オラ、バカティじゃないもーんだ!」
ドンっ!
突然の音に、ギギギギ…怖くて固まる首を軋ませ恐る恐る音の方へと振り返ると、リアが壁に紙を叩きつけていた。
「えっと、これは?」
「注文。」
「ち、注文?」
「すごいいっぱい人が来た。お店開いてないって怒ってた。」
なるほど、なるほど。店を閉じたのに客が殺到したと…。そして偶然居合わせたリアが巻き込まれた…。
えぇーそれ俺のせいなのか!?
「看板は…?」
「『やてるん』って木に書いてあるやつ?どう言う意味?」
Oh…俺の識字力…。
「悲しい思いさせる、よくない。」
「そうだぞ!悲しませる、よくないんだぞ!直ぐに作るんだぞ!」
「…はい。…ごめんなさい。」
リアから受け取った注文書に目を通してみると…恐ろしい数の注文が入っていた。特に百単位で注文している人が何名かいる。
「こんなに…?」
「貴族っぽい人はみんないっぱい頼んでた。王族が使ってるのみて、欲しくなったんだって。」
「王族…。まさかサルタンさん達…。」
「あのね、リックがみんなに自慢したって言ってたよ。」
「あぁ…リックー…!」
宣伝するなら人気者に使ってもらうか、上の人たちに使ってもらうのが効果的。くしくも王族に知られてしまったから、一気に噂が広まってしまったようだ。これはなんとかしないと、過労死確定じゃないか。
ワシッ
真っ先に危険を察知したエティが急に無口になりそっと後退りをはじめる。そんな不自然さを見逃すはずがないじゃないか。ノールックで腕をぐりんと後ろに回し、鷲掴みする。
「まさかヒーローが逃げたりしないよな?」
「オラは今はただのエティだぞ!ヒーローにはまだなってないんだぞ!」
「えぇいだまらっしゃい!今からみんなで『匂い取る君』造りだ!喜べ、エンジェルズの初仕事だぞ!」
この難問を切り抜けるには今俺たちの持つ最大労働力を駆使するしかない。エティと格闘していると先に部屋の奥へと入っていっていたクル達から声が上がる。
「ねこさんだ!ねこさんが寝てるよ?」
クルが戻ってきて俺の袖を引っ張る。すると本当に奥から猫のような泣き声が聞こえてきた。その声を聞き慌てて部屋へと入っていくリア。後について部屋に入ってみるとベッドの上に2匹の猫が丸まっていて、こだまとクルを興味深そうにみている。リアが戻ってくるやスクッと立ち上がり、助走なしでリアに飛びついた。リアはそんな2匹を軽々キャッチし、大事そうに抱き抱えている。
「その猫は?」
「猫じゃない。ジャイアントシベットの赤ちゃん。」
「ジャイアントシベット?」
「ジャイアントシベットは森の深いところに生息する、俊敏さと独特の香りを使って相手を錯乱させるのが得意な魔獣。」
「えぇー魔獣なの?でもシベットってジャコウネコのことだろ?どのでっかい版って感じなのかな?あんま大きいイメージないけど、どのくらい大きくなるの?」
「ジャコウネコ?それは分からないけど、ジャイアントシベットは…この部屋くらい?」
「こ、この部屋くらい??そんな大きくなるの流石に飼えないよ?母猫に返してあげた方が…」
「この子達の両親は討伐しちゃった。そしたらお腹の中からこの子達が出てきたの。私のことお母さんと思ってるから、この子達は私のなの。」
討伐大将が身篭っていて、救い出してきたのか。救うという表現が正しいのかはわからないけど。どうやら最終的には2匹とも巨大に育ってしまうようだが、リアは気にならないのか育てる気満々のようだ。きっと何を言っても納得せず、飼うことになるんだろうなぁ…。そう思うと捨ててきなさいと言いづらい。なにより、両親が討伐されているとなると、森に返してもすぐつかまって殺されて、素材にされてしまうのがオチだろう。
「名前は付けたのか?」
「名前はまだない。みんなで決めたい。」
「おぉ!猫に名前つけるのか!?オラ、ヒーとローがいいと思うぞ!」
「ヒーローはエティなんだろ?それだと分かりづらいだろ!?」
「おぉそうなのか。難しいんだぞ!」
早速エティがバカらしい提案をしたことで、みんなで名前決めたい絵画始まった。
「2対となる名前がいいのかなぁ。竜神、雷神ってのも変だし…。」
「和風とイタリアン。」
「こだま、それはハンバーグのことですよ?」
「あのね、濃いのと薄いのだからしめじとえのき?」
「色に着目するのはいいけど、それはきのこの名前だろ?」
みんなの提案に丁寧にツッコミを入れていたら子猫達がミャーミャー騒ぎ出した。
「この子達、お腹すいたみたい。楽、この子達にご飯。」
「…お腹空いた仲間が増えることになるのか。赤ちゃんってことはミルクかな?」
「お肉も少し食べる。」
「じゃあミルクと肉のタルタルでも作るか。」
「オラも!オラも!タルタル欲しいぞ!」
子猫達のご飯を作ろうとしたら、エティまで欲しがってきた。こだまとクルは…よくみたら洋服の裾をがっちり掴んでいる。
「みんなも欲しいのね…。じゃ、夕飯も近いし今夜は【牛肉タルタル】とあと色々、作りますか。」
「楽、『匂い取る君』は?」
「…はい。ご飯作ったらみんなで作ろうね!?」
子猫に紛れてうやむやにできるかと思ったが、結局今日も『匂い取る君』作りに追われることとなりそうだ。
とりあえず、まずは夕食作りからだけど。
【牛肉タルタル】
材料
・牛フィレ肉
・玉ねぎ
・ケッパー
・バター
・卵黄
・塩
・黒胡椒
・オリーブオイル
まずは玉ねぎをスライスし、水にさらしたのちみじん切りにしていく。ケッパーも同様にみじん切りに。
牛肉を包丁で細かく叩き、塩、常温に戻したバターを加えてさらに叩く。
お皿に丸く形成したら中央に軽くくぼみをつくり卵黄を乗せる。
黒胡椒、オリーブオイルを適量振りかけたら完成だ。
もちろん猫ちゃんようは玉ねぎ、ケッパー、塩、胡椒、オリーブオイルなしで。猫だからね。
焼いたバゲットを添えればあっという間に完成だ。
みんなにとってはアペタイザー位のメニューなので、ステーキも作っていく。今日はフレンチなディナーだ。
「さ、子猫達には常温のミルクと味付けなしタルタルだ。召し上がれ。」
皿を子猫達の目の前に出すと、俺に警戒してか近づいてこない。しかしリアが、「大丈夫お食べ。」というとゆっくりと匂いを確認し出し、恐る恐る舐め始める。食べ物だとわかってからは育ち盛りらしい見事な食べっぷりであっと今に完食した。
「さ、俺たちも食べちゃうか。タルタルはそのままでもいいがバゲットに乗せるとうまいぞ。」
「うまうまうまうま。」
「うまいけど、オラはステーキの方が好きだぞ!」
「クルもステーキ好き!」
「でも素材が新鮮でなければタルタルは作れないので、これはこれで贅沢感があるね。」
お子ちゃま舌のみんなは予想どおりの反応だがグルメのこだまとリアはタルタルを気に入ったようだ。俺も生肉はそんなに食べない方だが、タルタルステーキとか牛肉の握りとかたまに食べたくなる。久しぶりの味をみんなと一緒に堪能できて満足だ。先に食べ終わった猫達は俺たちの食べているものにも興味津々の様子だった。味がついていないところならばとステーキも試しに上げてみると、色の濃い子は火が通った肉も好きで、薄い子はレアの方が好みのようだった。
「レアとブルー。」
「どうした、こだま?」
「猫、レアとブルーが好き。名前、レアとブルー。」
「それって焼き加減の?いやそれを名前にするっていうのか…?」
「いいとおもう。レア、ブルーどうかな?」
リアが早速呼びかけると子猫達は理解しているのかいないのか、元気にミャーミャー返事を返す。
「うん。気に入っているみたい。」
「え、そうか?」
俺の疑問を他所に、何故か肉の焼き加減で名前が決まってしまった。今後猫の数が増えたらミディアムとかウェルダンとかになってしまうのか…。まぁ、みんながいいならいいのだけど。子猫達改、レアと、ブルーはお腹一杯になって満足したのかリアの膝の上に押し合いへし合い丸まってスヤスヤと眠りについて行ったのであった。
食後、俺は再びエティを鷲掴みし、広い作業スペースを求めて再び街の外れまでやってきた。暇を持て余したこだまとクルも一緒だ。リアは依頼が終わり、やっと帰ってきたと思ったら人々に押し寄せられ疲れたからと早めにご就寝だそうだ。
「さぁエティ、エンジェルズを出せ。みんなで『匂い取る君』作るぞ!」
「なんでオラが…。」
「いいか、街のみんなが『匂い取る君』を求めている。作ればみんなが喜んでくれるんだ。人々に喜んでもらうのもヒーローの務めだろ?」
「そうなのか?」
「そうだそうだ。『匂い取る君』があれば、臭い人たちが肩身の狭い思いをしなくてよくなって、世界の平和につながるんだぞ。」
「そ、そうなのか…?」
「そうだそうだ。よし、エンジェルズ!初仕事だぞ!」
エティの頭に声をかけると、アンジュがポーンと飛び出し一気に等身大に戻り、俺とエティの前にひざまづく。
「お呼びですか、ご主人様、楽様。」
「街の人たちのためにみんなで消臭剤、『匂い取る君』を作るぞ!」
「消臭剤ですか?」
「そうだ。みんなが臭さに悩まされず、好きな香りを楽しめるようにな。」
「それは素晴らしいです。早速みんなを呼び出します。」
アンジェは早速空間から部下達を呼び出す。黒い忍者テイスト、お揃いの服がずらっと並ぶと圧巻のショッカー感。そこからはグループを3つに分けての流れ作業をすることにした。1つ目がデオドラントウォーター作り班。2つ目が様々な香りとブレンド班。そして3つ目がパッケージング班だ。俺とこだまでデオドラントウォーターの作り方、そしてこの調子だと素材も足りなくなってきてしまうの可能性があるので調達までをレクチャーして行った。2つ目のブレンド班はクルがいろいろな香りを試したいとのことで担当した。好きな香り作りは楽しいのか女子会さながらにキャッキャしながら作業を楽しんでいるようだった。ちょっとあの班楽しそうだな…。そして3つ目、パッケージングはエティが担当した。ヒーローとバレるようなデザインは入れるなよと重々念押しし、こちらもエンジェルズ達と楽しそうにいろいろな香りに合わせたパッケージを作っては詰めていく。俺たちの班はキャッキャはしていなかったが、こだまの知識量に感銘を受けたのか熱心に取り組んでいる。こうして俺は、いや俺たちは『匂い取る君』の取り敢えずの製造ラインを確保することができた。しかし、この国を去るときを考えたらゆくゆくは製造委託先を確保しておきたい。多少の課題は残ったがようやくパーティーメンバーが大御所隊となり、再び揃うことが叶った1日となった。




