ブラックは即逃亡にかぎる
イルーヴァント篇は何故か外ばかりでイベントが起こるようです。
数日後、俺は逃げ出していた。
爆発的とまではいかないが、エティとクルが取ってくるオーダーと実演販売分、完全に生産が追いつかなくなり「本日休業」の看板を変り箕に街を抜け出したのだ。
「今日は『匂い取る君』作らないのか?」
「俺一人であんなに作るの無理!俺は優良企業での勤務しか経験ないから、ブラック耐性ないの!労働組合の出番、ストライキだ!」
俺が出かけようとしているのを目ざとく察知したエティが、本日は出かけることなく俺についてきている。
「お前、パトロールは?」
「今日はオラもお休みなんだぞ!」
「ヒーローがそんなんでいいのか?」
「助けられることに慣れすぎるのもよくないんだぞ!」
確かに人は慣れる生き物だから、助けられることに慣れてしまったら危機意識が持てなくなる。それだけならまだしも、助けてもらえるものと思って助けてもらえなかった時、怒りを覚える人だって現れることだろう。昔営業時代、次の仕事につながるようにと、初回特別サービスとして破格の価格で仕事を引き受けた結果、次回以降もその価格を強要され、断ったらあっさり斬られるという苦い経験をたくさんした。人は甘い汁を吸いすぎ、それを享受できなくなるとモンスター化する生き物なのだと俺は考えている。
まさかエティがその危険性に気付いているなんて…。感心すると同時に、見直さざるを得ない。
「それで、これからどこに行くんだぞ?」
「そうだなぁ。森の方に遺跡っぽいのがあるって噂を聞いたんだ。街にいて客に捕まるとやっかいだから、遺跡探しでもしようじゃないか。」
「おぉ、面白そうだぞ!早く行くぞ!」
「待て待て!その前にお弁当作るぞ。」
「おぉ!それは大切なんだぞ!今日のお弁当も楽しみだぞ!」
流行る気持ちを抑えきれないエティもお弁当となれば大人しくなる。今日は森で食べるし、弁当箱も面倒だから【スタッフドバゲット】にしよう。
「よしエティ、一緒にお弁当作るぞ。好きなもの入れてオリジナル弁当だ。」
「好きなの入れるのか?」
「そうだぞ。バゲットをくり抜いて好きなのを入れる、それが【スタッフドバゲット】だ。」
バゲットと中に入れる用の様々な食材を用意しながら説明すると、早速入れるものを吟味しはじめるエティ。
「クルも作っていい?」
「もちろんだぞ。今日も友達の分持っていくのか?」
「うん!」
「なら、【パスティッチ】は少なめにするから、3人分作ってあげようか。」
「クル!」
そこで早速みんなで【スタッフドバゲット】作り。
【スタッフドバゲット】
材料
・バゲット(硬めがおすすめ)
・お好みの具材
バゲットの端を切り落とし、中の白い部分に包丁を入れて筒状にくり抜いていく。壁面にバターを薄く塗って、水分が染み込みすぎないようにする。あとは好きな具材を詰め込んでいくだけだ。
俺は【パスティッチ】にも使ったリコッタチーズをさらに壁面に塗り付けて、まずタコスの具材を詰めていく。続いてポテトサラダを詰め、最後はハンバーグを蓋をするように詰め込んでおいた。後は最初に切ったバゲットの端をかぶせ、クッキングペーパーで巻けば完成だ。
「オラはナポリタンがいいぞ!あと卵焼きと唐揚げ!」
「ナポリタンか。なら食べやすいように麺がまとまったナポリタン作ってやるよ。」
そう言うと、ソーセージをちょっと太めに切って中心にパスタの乾麺をどんどん刺していく。
「おぉ、変な形なんだぞ!」
「面白い形だろ?この状態で茹でればソーセージと麺が一塊の状態で茹で上がるから食べやすくなるんだ。この麺でナポリタンを作るぞ。」
「凄いぞ!いっぱい入れるぞ!」
「クルもナポリタン!」
「クルもナポリタン入れたいのか?」
「うん!あとね、チーズケーキ!」
「で、デザート入れたいのか…。それじゃ、ナポリタンとチーズケーキの間には味が混ざらないようにハムとかで仕切りを作ろうか。」
「クル!」
ナポリタンに卵焼きや唐揚げ、さらにはチーズケーキまで作る羽目になったがみんなで好きなものを詰め込むお弁当作りはなかなか楽しかった。クルのお友達用は俺がピザの具材やツナマヨなど万人受けしそうなもので作っておいた。
お弁当を積み込んだクルを見送ったあと、俺とエティも出発することに。
「ホバーボードは早くて便利なんだぞ!もう西の森が見えてきたぞ!さすがヒーローの秘密道具なんだぞ!」
「ホバーボードはいつの間にヒーローの秘密道具になったんだ?でも確かに、もう森が見えてきたな。」
前方には左右に広大な森が広がっている。この森は大陸中央の魔の森につながっているらしいのだが、魔の森まではかなり距離があるようでいたって国に面した部分は普通の森といった感じだ。生態系が無茶苦茶だったりカラフルだったり、変な森が続いていたのでちょっと拍子抜け感がある。
「普通の森だぞ。つまらないんだぞ。」
エティは不服そうだが、こだま、リアが不在でも安心して入れる森、むしろ良い森じゃないか。
「こういう普通の森だからこそ、何か見つけたら凄いと考えることもできるぞ。」
「見つからないところで見つけるから凄い…。そうなのか!よしこの森で絶対見つけるぞ!」
「まぁ、何もない可能性も当然あるんだよ?」
簡単にやる気を復活させたエティはご機嫌で森へと入っていく。追いかけて入った森は、起伏も穏やかだし、程よい感覚で木が生えている。太陽の光もしっかり届いていて明るく、非常に歩きやすい森だった。時たま聞こえる鳥の鳴き声もまるでおしゃべりを楽しんでいるようだ。
「楽、楽、遺跡ってどんなところにあるんだ?」
「さぁ、どんなところにあるんだろうな?」
「楽も解けない難問なのか!これは大変だぞ!」
「難問って…。まぁもし俺がこの森に建物を作るとしたらちょっと開けた場所か、小高い場所か、あ、前見つけた遺跡は崖の壁面にあったなぁ。」
「おぉ、崖だ!絶対崖にあるんだぞ!」
俺の言葉を聞いたエティは、前例のある崖の壁面に遺跡があると確信し、まずは崖探しをすることにしたようだ。
「ちょっと見てくるぞ!」
そう言うと思いっきり上にジャンプする。高く高く飛び上がって上から崖の位置を探すつもりのようだ。
「あっちだぞ!あっちに崖が見えるぞ!」
そして早速崖を見つけたようだ。そんな簡単で良いのだろうか?
俺たちは再びホバーボードで森の中をスイスイ、崖を目指して飛んでいく。機動力重視にした甲斐あってめちゃくちゃ移動しやすい。これなら魔の森の、あの根っこで覆い尽くされた場所でも難なく移動できることだろう。さすが道具作りで名高いドワーフだ。
ホバーボードを楽しみながら奥へ奥へと進んでいくと、エティが言った通り崖を見つけることができた。しかし、崖の形状が思っていたのとはちょっと違っていた。
「これ自然の崖なのか…?」
「崖だぞ!ここにきっと遺跡があるんだぞ!」
その崖は、言うならばこの星にぽっかり開いた穴だった。巨大な巨大な綺麗な円形、そしてとても深い穴。底には湖面が見えるので湖になっているようだった。




