41歳からの仕事探し
仕事のヒントは入国審査の日にありました。
入国2日目、夜帰ってきたのは、お弁当を持たせたエティとクルだけだった。
エティは、ヒーロー大活躍だったぞ!と何やら自慢げにしていて、クルはお仕事頑張ったの!とこちらも褒めてモード。しょうがないから2人の好物で褒めてあげるとするか。
「オラ、明日からパトロースするぞ!お弁当が必要なんだぞ!」
「それを言うならパトロールだがな。」
お弁当持ちのヒーローとは随分家庭的なヒーローだこと。
「クルもお弁当欲しいの!おじいちゃんとリックのも!」
またおじいちゃんとリックか。本当に仕事なのかは分からないけど友達ができることはいいことである。
「お弁当、なんかリクエストはあるか?」
「オラ、今日と同じのがいいぞ!他の味も食べてみたいぞ!」
「あのね、リックも好きって言ってたの。だからクルも同じのがいい。」
「そうかそうか。イルーヴァントの人達のお口にも合いましたか。んじゃ、明日も【パスティッチ】だな!」
そう思って材料の在庫を確認する楽。
「ぐぬぬ。」
まさかこの言葉を自分が発することになるとは。
稼いだお金も殆ど入国費として使ってしまい、今日の大量【パスティッチ】で何もかもが底をついている。残っているのは辛うじて明日のお弁当分のみだった。
人生で2度目の一文無しである。もちろん1度目はこの世界に来た直後である。
「この世界にハローワークってあるのかな…?それと、今日はみんな大好きもやしのお好み焼きだぞ!」
「えー、オラ、ロースカツが食べたいぞ!」
「だまらっしゃい!もやしは栄養満点なんだぞ!」
こうして、もやしのフルコースと胸に抱えた不安と共に2日目を終えた。
そして、翌日。とりあえず今何か売れるものがあるなら、売ろう。俺一人だとたかがしれているので、出かける2人にも商売を手伝ってもらわなければ。そう考え、エティとクルにはデオドラントウォーターを持たせることにした。爽やかなレモンの柑橘系バージョンだ。
「臭くて困っている人がいたらそれを助けるのもヒーローの仕事だぞ!」
「そうなのか!そうか、デオドラントウォーターもヒーローの秘密道具だったんだな!」
秘密道具?また漫画の読みすぎだろうけど、簡単に納得してくれるところがエティである。
「クル、お友達にこの商品売れるか聞いてみてくれるか?」
「うん、聞いてみる!」
ついでに宣伝にもなるといいな。そんな期待も込めつつ2人を送り出した。
「俺は俺でできること考えてみるか。」
デオドラントウォーターをありったけ用意して現地販売と洒落込もう。
向かうのはもちろんあの場所だ。
「なんだお前、何しに来た?」
モヒカンリザードマンの横にせっせと店を広げる。今回は食べ物がないから興味を集めるための香りづけにアロマオイルも持参した。瓶に水とアルコールを入れたらペパーミントオイルを数滴垂らし、木の棒を数本差すだけ自作ディフューザーで香りを立てる予定だ。
「まさかここで商売する気か?」
「いやー、ここしか思いつかなくって。あ、これ『匂い取る君』って言うんですけど、使ってみます?立ち仕事だと靴の匂いキツくなりませんか?いい男がもったいないですよ?」
デオドラントウォーター改『匂い取る君』。商売成功にはわかりやすいネーミングが鉄則だ。わかりやすいネーミングが定評の某製薬会社、小林さんのところからヒントを得てみた。
ぐいぐい&よいしょ攻撃に気を良くして『匂い取る君』を受け取るモヒカンリザードマン。後で教えてもらったが、彼はモハウクさんと言う名前らしい。
「おぉ!すげーなこれ、確かに匂いが和らいだ。」
「気に入っていただけました?夜寝る前に振り掛けておくのがおすすめです。1本試しにどうぞ。」
デオドラントウォーターに気を良くしたモハウクさんは特別だぞって言いながら、隣で商売することを許してくれた。いつの世も人は賄賂に弱いものだ。
「しかしこの国に来るのは珍しい種族が多いとはいえ、お前人族そっくりだから、商売やってもうまくいかんだろ?前は食べ物だったから匂いに釣られてうまく行ったが、言っちゃ悪いが警戒されるだけだぞ?」
「安心してください。そこんところも考えてきてます!」
返信道具といえば例の仮面。モハウクさんの前で仮面をつけて見せる。
「おぉ、それ凄いな!確かに人族っぽい見た目より、そっちの方がいいかもな。」
「モハウクさんのお墨付きなら安心ですね!ではお隣お借りします!」
許可も下りたので早速商品を並べていく。香りごとに並べ、ディフューザーも設置。最後によっこいしょとクーラーボックスを机の前にスタンバイする。
「さぁ、入国審査待ちでお並び中の皆さん、長時間の移動と立ちっぱなしで汗臭さ気になってませんかー?そのお悩み簡単に解決できちゃいますよー!」
「急にうるさいねぇ。何の騒ぎだい?」
列の前の方、つまり長時間並び倒してイライラ最高潮の一行が早速食いついた。
「こっちは並び疲れてイライラしてるんだよ。あと少しで入国なんだ、最後くらい気持ちよく入国させておくれよ。」
ため息まじりで訴えてくる女性。その後ろ、一行の馬車には遊び疲れて泥だらけのまま寝ている子供と、何故かひたすら腕立てしているゴリマッチョ。すると丁度列が前へ進んだ。しかしゴリマッチョはひたすら腕立てを続けている。女性はため息混じりにゴリマッチョの元へ行き、蹴飛ばして、前へ進むようけしかける。戻ってきてみれば先ほどよりイライラが増しているようだ。察するに、筋トレに夢中で気の利かない夫と自由奔放すぎる子供にイライラさせられっぱなしだったのだろう。
「分かります、分かります、気持ちよく入国したい。そんなあなたにピッタリな、お薦めの商品があるんです!」
「気持ちよく?」
「そう、汗臭さも、泥臭さもすっきり消臭。しかも爽やかな香りでイライラまでスッキリ解消。」
「確かに汗臭さと泥臭さには悩まされてるけど…。」
「こちらご覧ください。」
ちょっと興味を持ち始めればこっちのもの、すかさずクーラーボックスを開け昨日から仕込んでおいた布を取り出す。
「うわっ…雨の日の洗濯物の匂い!なんてもの出すのさ!?あたし、その匂い苦手なのよ!」
クーラーボックスを開けた瞬間ムワッと広がる匂いに思わず顔を背ける女性。ちょっと怒り気味に叫ぶ。
その声を聞いてか、暇を持て余していた他の列の人たちも騒ぎに注目し始める。
「そう、これは生乾きの布です。俺もこの匂いが苦手で…」
「ならさっさとしまっておくれ!あたし、本当その匂い苦手なのよ…。」
「そこで便利なのがこちら、『匂い取る君・ペパーミントの香り』。これを生乾きの布に振りかけ、乾かします。」
乾かす時間がないため布をバサバサ仰いでいく。すると仰いだ風に乗りペパーミントの爽やかな香りが辺りに広がる。
「あんたそんなの仰ぐんじゃ…ん?ミントの香り?」
「この布、騙されたと思って嗅いで見てください。」
「その布を嗅げって…?嫌に決まってるでしょ!」
何とかお願いし倒すと、しぶしぶ布を受け取る女性。周りの人達が興味深そうに見ているため断りづらくなりしぶしぶ顔を近づけていく。
「!?生乾きの匂いがしない!むしろ爽やかないい香りじゃないか!へぇそれ凄いねぇ。なんなのそれ?」
「『匂い取る君』です。匂いが気になるところに振りかけるだけで嫌な匂いを取ってくれる。それが、『匂い取る君』!ペパーミントの香り以外にもレモンの香り、花の香りもありますよ。」
「こりゃいいねぇ。しょうがない、買ってやるよ。一ついくらだい?」
「60ポルトです。」
消臭スプレーって300円くらいのイメージだったから、300リロ。ポルト換算なら60ポルトにしてみた。
「へぇ、安いじゃないか。なら3種類全部貰ってくよ。」
「本当ですか!?毎度ありー!」
女性が買ってくれると、見ていた人達の中からも何人か買ってくれた。こうして俺の消臭スプレーの実演販売がスタートした。めざせレジェンドだ。
結果から言うと、『匂い取る君』の売り上げはそこそこだった。レジェンドって呼ばれた人凄かったんだなぁってしみじみ感じる。モハウクさんには偶に出店させてもらえることを『匂い取る君』詰め合わせを贈呈することで了承を得たので、毎日とはいかないが不定期で開催しようと思う。
また来ますときちんと挨拶し宿に戻るとタイミングよくエティとクルも帰ってきた。皆定時で帰宅。実にホワイトな職場だ。
「楽、楽、今日お助けした人たちが『匂い取る君』欲しいって言ってたぞ!明日街の入り口行けば買えるって教えておいたぞ!」
「おぉ、宣伝してくれたのか!でかしたエティ。しかし明日も行かなきゃなのか…。明日は休もうかなって思ってたのに…。」
2日目にして休もうと目論んでいた不真面目思考をしっかり潰されてしまった。
「あのね、おじいちゃんも売って欲しいって。明日お弁当と一緒に300個持ってきてって。」
「さ、300!?すぐ作らないとじゃないか…!」
まさかの大量注文。クルは商才があるのかもしれないが、一瞬でブラックへと転落する楽。
「楽、楽、お腹すいたぞ!オラご飯食べたいんだぞ!」
「クルも!」
くぅ、俺もお腹空いたしまずはご飯にするか…。
その後『匂い取る君』作りに追われたのは言うまでもない。




