エティはヒーロー
ヒーローは大抵子供を救出することになります。
時はさらに少し前に戻る。
入国審査待ちの列に並び始めた頃、こだまとリアに仕事を依頼したいと男達がやってきて、楽達は対応に追われていた。暇を持て余していたエティはヒーローの新しい登場ポーズを研究をすることに。変身したのちに現れるので着地した瞬間できるポーズがいい。今までは両足揃えて両手をライダーポーズのような感じにしていたが、軽やかさを表現して鶴の舞みたいなのも気になっている。しかしこれが意外と難しい。真上にジャンプするなら片足で着地はできるが、斜めから飛んでくるとピタッとは止まれない。試しに遠くまでダッシュしてみんなのところへ大ジャンプ。片足で着地すると勢いに負けてコテっと倒れてしまうエティ。何度かやって、このポーズはだめかな?と地面に寝転がるとふと地下から何か聞こえたような気がした。
「?声がきこえるぞ?」
地面に耳を当てると、確かに声が聞こえる。
「泣いてる?おぉ、つまりエティを呼んでるってことなんだな!」
慌ててヒーロースーツを引っ張り出し着替えるエティ。仮面を装着し、背中には亀の甲羅の形をしたリュック。完全に亀忍者のオマージュだ。
「どこ行くの?」
同じく暇を持て余していたクルが聞いてくる。
「クル、ヒーローを呼ぶ声が聞こえたんだぞ!オラ呼ばれたから行ってくるんだぞ!」
「依頼?」
「そうだぞ!困った人を助けるのがヒーローのお仕事なんだぞ!それじゃ、後は任せた!なんだぞ!」
そう言うや否や、スタートダッシュを決めるエティ。向かうは…地下に入る方法が分からないからとりあえず声のする方向へ。その方角は街ではなく真っ直ぐ北東に広がる森へ向かっていた。
「この下なんだぞ!」
森の中を進みしばらくすると少し開けた場所にでた。突き当たりは崖の下で壁となっている。しかし洞穴などはなく、地下へ行く方法が分からない。
「面倒くさいからそのまま行くぞ!」
そもそも謎を解くという発想を持たないエティは、入り口がないなら掘ればいいじゃんと、自分の出した答えに100%の自信を持って突き進む。
「じゃじゃじゃ、じゃっじゃ、じゃーん、グルグル堀り掘りぃー!だぞう!」
サタデーナイトフィーばさながら、左手を腰にあて、右手を高らかに突き上げ、魔法を発動する。するとハンドミキサーに似た形状の氷の塊が現れ、高速回転をしながら地面へと降りていく。楽が使っていたハンドミキサーを氷で再現したのだ。肉の塊があっという間に柔らかくなる様子は見ていて楽しかった。エティがイメージした通り、ミキサーの先で土がみるみる柔らかくなり、ミキサーの幅でどんどん穴が開いていく。ある程度の深さまで掘り進むと、カクンとミキサーの動きが急に軽くなり、そこが抜けた。
「おぉお!貫通したぞ!」
ミキサーを消し、穴を覗いてみると恐々穴を見上げる人影が見えた。
「だ、誰?」
「おら、ヒーローだぞ!今そっちにいくぞ!」
迷いなく穴に飛び込み、安定のライダーポーズで着地するエティ。そこは真下へのジャンプだから鶴の舞バージョンでもよかったんじゃないの?と思うのだが、ころっと忘れているエティ。
地下の穴は想像以上に広く、そしてとても暗かった。暗くて分かりづらいが体の大きな人たちが所狭しとひしめき合っている。なぜか穴から降り注ぐ光、その光をスポットライトのようにしてポーズをとるエティに近づこうとしない。
「ん?オラはヒーローだから、怖くないぞ?」
「ほ、本当に?僕たちを捕まえた人じゃない?」
「助けてって聞こえたからオラきたんだぞ?みんな閉じ込められているんじゃないのか?」
「う、うん。僕たち閉じ込められてるの。」
「なら、オラと一緒に外に出るんだぞ!」
「本当!?助けてくれるの!?あ、でもね…僕たち太陽の光にあたると動けなくなちゃうの…。」
どうやら近づかない理由は太陽の光にもあったようだ。
「太陽が嫌いなのか?それじゃ、閉じてあげるぞ!」
穴に向かってジャンプしたエティは、近くの木を切って板を作る。板で穴を塞ぎながら再び穴へ入っていった。
「これで大丈夫か?」
「うん!ヒーローさんありがとう!」
「お前達はなんでここにいるんだ?」
「僕はファル…山に住んでるトロルなの。トロルは昼間太陽の光が当たる時は岩になって動かなくなって、夜動き回る種族なんだ。いつもはちゃんと岩になるから見つかることはないんだけど、この前ね走って家に帰る途中に太陽が出てきちゃって…かけっこのポーズのまま岩になっちゃったの。そしたら街の大人に見つかっちゃってここに連れてこられちゃったんだ…。」
「ファルはおっきいけど、子供なのか?」
「うん。僕はまだ5歳だよ。トロルは大人になるとすっごくおっきくなるの。ヒーローさんはちっちゃいけど、子供?」
「オラは80歳だから大人だぞ!」
「わぁ!大人だから助けてくれるんだね!」
「違うぞ、ヒーローだから助けるんだぞ!他のみんなも見つかって捕まったのか?」
辺りを見渡すとファル以外にも子供トロルがいっぱいいた。しかし、トロルだけでなく羽の生えた子供や獣人族の子供も混ざっている。
「みんなは…僕を助けようとしたら捕まっちゃったの。僕のせいなんだ…。」
いいながらシュンとするファル。そんなフィルを仲間の子供トロル達が慰める。
「ファルのせいじゃないぞ!悪い大人がいけないんだ!それにほら、俺たち以外にもいろんな子供が捕まってるんだし。」
聞くと他の種族の子供達も、街の外で突然拐われたり、盗賊に捕まり売り飛ばされここに連れてこられたらしい。
「たまに大人がご飯を持ってきてくれるんだけどね、逃げないようにってちょっとしかくれないんだ。だから僕たちより前からいる子達はあんまり動けなくなってきてる。食べてないから力が出ないんだ…。」
「お腹空いてるんだな。それなら、オラが食べ物持ってきてあげるぞ!」
「本当!?ありがとう…。でも気をつけてね?悪い大人に捕まったらきっと殺されちゃう。」
「ヒーローは強いから大丈夫だぞ!」
「あ、ちょっと待って!!」
エティが再び外に出ようとするとファルが慌てて口を塞ぎます。
「悪い大人が戻ってきた…!ヒーローさん隠れて!」
ファルはエティを抱えて他の子供トロルのところへ合流、みんなでエティをおしくらまんじゅうして隠します。すると地下通路の扉の奥からしゃべり声が近づいてきます。声が扉のすぐそばまで来ると、ガチャガチャ鍵を開ける音が響き渡り、バンッと豪快に蹴り開けられた。扉を開ける大きな音にびくっとする子供達。
「おいガキども、感謝しろ、飯だぞ!」
ドアを潜って入ってきたのは、袋を手に、コスプレの大会だったら優勝レベルのザ・チンピラ男2人。2人ともドアを潜らなければ入れないほどガタイがデカく、筋骨隆々。古傷が目立ち、マッチョ特有の上半身薄着スタイルだ。男が持っていた袋を中央に投げ下ろすと、袋の口が開き堅そうなパンがこぼれ落ちる。お腹が空きすぎて思わず駆け寄る子供達。しかし子供の数に対してパンの数は到底足りない量な上、袋の中はパンのみ。栄養も全く足りていない。
「イヤだ見苦しい!」
ヒステリックな声とともにマッチョなロン毛な男がザ・チンピラの後ろから現れる。こちらはマッチョではあるがこ綺麗な格好で所謂商人といった服装だ。ロン毛のヒステリックな声にパンを掴んだ子供達がビクッとなり、そのまま固まってしまう。
「あーた達は高貴な身分の方達に買い取ってもらうんだから、下品な行動はおよし!商品価値がさがるじゃない!今パンを掴んだ子達、後ろに下がりなさい!」
ロン毛に怒鳴られビクビクしながら後ろに下がる子供達。
「今掴まなかった子達、前へ並びなさい。早く!」
下がった子供達と入れ替わりで奥で怯えていた子供達がすごすご前へ出る。
「今前へ出た子は食べていいから。マナーの悪い子は罰としてご飯抜きよ!」
それを聞いて泣き出す子供達。前へ出た子も怖くて食べ始めようとしない。そんな子供達にザ・チンピラが蹴り飛ばしつつ食えと急き立てる。順番に廻りザ・チンピラが、エティを匿ってじっとしていたファルにも迫ってくると、「あ…」頑張って押さえつけていたファルの拘束をようやく逃れたエティが飛び出していった。
「おめぇ悪いやつだな!ヒーローが成敗してやるぞ!」
「んん?なんだテメェ!?こんなやついたか??」
「へぇ、そんな変なのもいたのね。チン、ピラ、そいつ連れてきなさい!」
ロン毛に指示され飛びかかるザ・チンピラ改チンとピラ。しかしあっさり交わすエティ。何度掴みかかってもエティにとっては何でもない速さ、実に面白味のない攻撃だった。
「ヒーローさん!あぁ…!」
ファルの悲痛な叫びにエティが振り向くと、ロン毛がファルの首を締め上げていた。
「ヒーローさぁん、大切なお友達が酷い目にあわせたくなかったら、大人しく捕まりなさぁい?」
「お前、すげぇ悪いやつだな!漫画みたいだぞ!」
「まんがぁ?それが何かは分からないけど…ヒーローなら子供を見殺しになんて出来ないわぁ。そうでしょぉ?」
「ヒーローは絶対見捨てないんだぞ!」
「じゃぁ、大人しく捕まってくれるわよねぇ?」
「むむ。わかったぞ。ファルを放すんだぞ!」
動きを止めたエティはチンとピラによってあっという間に縛り上げられてします。泣きながらエティに謝るファルに声をかけるエティ。
「オラはヒーローだからな、全然問題ないぞ。だからファルは泣くんじゃないぞ!」
そんな声を残してエティはロン毛達に連れて行かれたのだった。
エティが楽にお弁当を頼みにいくのにはもう少しかかりそうである。




