お弁当作り
あぁパスティッチが食べたい。
時は一週間ほど前に戻る。
なんとか入国を済ませ宿のベッドに倒れ込んだ翌日、久々に一人遅い朝を楽しんでいた。依頼を受けたこだま、リアはもちろん、エティもクルも戻ってきていなかった。朝ごはんで叩き起こされることもなく自然に目覚めるまで寝坊する。久々の惰眠を堪能しまくった。
窓からは爽やかな風が入り込んでいて朝シャンで使ったペパーミントオイル配合のシャンプーの香りがふわっと風に乗って広がる。完璧な朝だ。こんな幸せがあったんだとしみじみ噛みしめ、優雅にコーヒーの豊潤な香りを楽しむ余裕まで見せている。誰もいないし、今日くらいはゆっくり読書でも楽しもうか。もしくは初めて訪れたこのイルーヴァントの街を散歩するのもいい。そんな幸せな考えに浸っていたらふと影が落ちる。雲が太陽にかかったかな?と窓の外を覗いた瞬間空からヒーロースーツに仮面、背中には亀型リュックを背負った完全装備のエティが飛び込んできて豪快に俺へダイブ。見事に吹っ飛ばされ、扉を打ち破り廊下まで転がっていく。
「こら、エティ、てめぇ!!!!」
這って部屋に戻りエティをワシッするとエティから変な匂いが立ち込める。
「エティお前臭いぞ…一体何やってたんだ?」
「エティは臭くなんかないぞ!楽、楽、お腹が空いたからお弁当作って欲しいんだぞ!みんなの分もだぞ!」
「弁当?みんなって?」
「みんなはみんなだぞ!地下にいっぱい子供がいて、みんなお腹が空いてるんだぞ。あ、みんなもエティと同じ匂いだから、エティは臭くないぞ!」
「いや、ならそれはみんな臭いんだ。地下に子供か。ストリートチルドレンかな?しゃーない、作ってやるからとりあえずお前風呂入れ。その服も洗ってやるから脱いでけよ。」
「らじゃ、だぞ!作ってる間暇だからお風呂入ってくるぞ!」
慌ただしく風呂に向かうエティ。ご自慢のヒーロースーツはやはり忍者亀モチーフのものだった。脱ぎ散らかしたヒーロースーツを洗濯機に突っ込み、何を作るか考える。
するとそのタイミングでクルも窓から帰ってきた。
「楽、楽、クルお弁当が欲しいの。」
「おークル。無事お菓子は配れたのか?」
「うん!それでねおじいさんを届けてあげたの。そしたらね、今日もお届けお願いしたいって!」
「おじいさんを届けた?よく分からないけど依頼が来たのか。良かったな!」
「うん!それでね、今日は遠くに届けるからみんなでお弁当食べたいの。」
「そーかそーか。丁度エティのために飯作るところだったから、クル達の分も作ってやるな。何人分欲しいの?」
「んーとね、クルとおじいさんとリックの分!」
「リック?」
「リックはおじいさんの子供の子供なの。」
「孫かな?あー、昨日あったあの2人か。」
「うん!」
「じゃー作っとくから、クルも風呂入ってきな。昨日入ってないだろ?」
「うん!」
クルもお風呂に送り出しご飯を作ることに。みんなに配るみたいだし、さくっと食べれるお手軽グルメにしようかな。そうとなれば俺の好物でもある食事系パイ、【パスティッチ】にしよう。久しく食べてなかったから俺も食べたいのと、リコッタチーズはこの宿場でも手に入るらしいから。【パスティッチ】はマルタのソールフードで安くてボリュームがあって嫌いな人は絶対いないだろう激うまファストフードだ。マルタにはテイクアウト専門のパスティッチショップが至る所にあって、小腹が空いたら直ぐ買える。夜はたくさん買っていき食卓に並ぶおかずにもなり、日本で言うところのコロッケみたいな存在だ。初めて食べたその日から俺はこの【パスティッチ】の虜。正直コロッケより好きだ。日本にもパスティッチショップがあればいいのにとよく考える。
話が逸れたが今回はノーマルな【パスティッチ】とスパイスの国に合わせたアレンジバージョンも作ろうと思う。
【パスティッチ】
材料
・リコッタチーズ
・卵
・塩胡椒
・強力粉
・薄力粉
・バター
・氷水
まず最初にパイ生地を作る。強力粉と薄力粉を振るって混ぜ合わせる。冷やして角切りしておいたバターを入れ、切るように混ぜていく。混ざったら氷水を入れひとまとめになるよう混ぜていく。氷水を使うのはバターが溶けきらず粒が残るくらいがベストだからだ。ひとまとめになったら打ち粉をして伸ばしていく。何度も重ねては伸ばしを繰り返しミルフィーユ状に生地を練っていく。5・6回くらい重ねて伸ばせばパイ生地の完成。細長くまるめ、5cm幅で切り分けたら、バターが溶けないように冷蔵庫で寝かせておこう。
次に、ボウルにリコッタチーズ、卵を入れ混ぜていく。塩胡椒をして味を整えたらパイ生地の出番。
5cm幅で切り分けたパイ生地を丸く伸ばしリコッタチーズを入れて閉じていく。
最後は200℃のオーブンで25分焼くだけだ。
アレンジバージョンはカレー風味のミートパイ風にしようと思う。
【カレーミートパスティッチ】
材料
・挽肉
・玉ねぎ
・カレー粉
・塩胡椒
玉ねぎをみじん切りしてフライパンで炒める。玉ねぎが透明になったらひき肉を加える。しっかり火が通ったらカレー粉、塩胡椒をして味を整える。後は【パスティッチ】に混ぜていく。
丸く伸ばした生地にリコッタチーズとカレーミートを半々で入れて閉じる。
ストリートチルドレンはきっとすごいお腹を空かせていることだろう。これでもかと言う量作っていった。
「楽、楽、凄いいい匂いがするぞ!」
「うん、クルお腹が空いた!」
第一弾が焼けたタイミングでエティとクルがお風呂から戻ってきた。
「丁度いいタイミングで戻ってきたな。味見がてら食べよっか。」
テーブルに【パスティッチ】を出すと早速エティとクルが手を伸ばす。
「おぉ!うまいぞ、楽!」
「クル、これ好き!」
「うまいだろ?俺の好物の一つだからな。カレーミートバージョンはどうだ?」
「カレーは正義だ!もっとくれだぞ!」
「これも美味しい!」
ほぉら、【パスティッチ】を嫌いな人なんて絶対いないって言っただろ?がっつくエティとクルの様子に俺も満足だ。後はどんどん焼いていくだけ。ある程度焼けたところで、先にクルにお弁当を持たせてあげるとクルは嬉しそうに飛んで行った。
「エティは【パスティッチ】どうやって持っていく?」
「オラもホバーボードに乗せていくぞ!」
「そっか、じゃあおっきい箱につめておくな。あと、デオドラントウォーターもいっぱい持ってけ。」
「なんでだ?」
「みんなもさっきのエティと同じ匂いなんだろ?匂いもエチケットだからな、みんなにかけてあげな。いい匂いの方がみんなも喜ぶと思うし、ご飯も美味しく感じる。」
「分かったぞ!みんなをいい匂いにしてあげるぞ!」
乾燥機のヒーロースーツが仕上がる頃には大量の【パスティッチ】も焼き上がり、エティも慌ただしく出ていった。
「まぁ、楽しそうでなによりだな。こだまとリアはどうしてるんだろ…?」
再びひとりになり静かになった部屋を見渡し、賑やかさに体が馴染んでしまった自分に気づく楽だった。
うん、ひとりも寂しいので散歩にでも出かけよう。おやつの【パスティッチ】を片手に街へ繰り出していった。




