こだまへの依頼
職人としてもこだまは優秀。
「こだまさん、いかがですか??」
「うま。」
「お口にあってよかったです。ささ、デザートも是非。」
男たちに連れられて、こだまはまず屋敷でごちそうに舌鼓を打っていた。大きなテーブルに所狭しと並べられた料理の数々はイルーヴァント名物のスパイス料理を中心に鳥の丸焼き、ステーキ、スープからパエリアのような米料理まで多種多様。驚くべきはマチュール王国で流行ったじゃがいも料理やオムライスなども再現されていて、パッパさんに披露したカレーまである。商売をするにあたって情報は命、とリアの依頼者も言っていた。この商売への貪欲さがこの国を象徴する行動理念なのかもしれない。しかし、そんなこと、こだまは考えるはずもなく、出される料理をかたっぱしから食べている。
こだまと食事を共にした商人たちはこだまの食べっぷり、さらには美味しいものだけを的確に食べるその舌にただただ驚愕していた。しかしちゃんと目の端にきらりと光るものがある。また商売のアイディアでも思いついたのだろう。
どこに入っているのかは謎だが、体以上の量の料理を平らげたのち、デザートまで堪能したこだまはようやく本題である依頼の内容を聞くこととなった。
「実はこだまさんに依頼をするにあたって、中庭にぜひご覧になっていただきたいものがあります。」
そう言って案内された中には巨大な人形の岩が鎮座していた。
「トロル?」
「ご存知でしたか。そうです。この岩はトロルです。ご存知かもしれませんがトロルは山脈に囲まれた、人里離れた湿地帯に生息する種族。日中はこうして岩へと変わり、夜になると動き回る巨人族です。実はこだまさんにはこのトロルが昼間でも活動できる道具を開発していただきたい。」
「昼間も?」
夜活動するのに昼まで活動したら疲れるのに。昼夜逆転した種族が昼も活動したいと言い出すとは思わなかったので、少し驚くこだま。
「そうです。実はトロルを戦力に迎え入れたいという依頼主さんから昼間も活動できる道具を頼まれたのですが、どうにもうまくいかず…非常に薄い鉄の紙や様々な調理器具を開発している凄腕の職人がこの世にいた!とのお噂を聞きまして、ぜひお願いしたいと考えたのです。」
「トロルが戦う?」
「その辺は…詳しくは知らないのですが、依頼主とトロルは仲が良いらしいのです。作れそうですか?」
トロルはどちらかと言うと臆病な種族である。戦い慣れてないし強そうじゃないけど、一応巨人。友達のために立ち上がろうとしているなら手伝ってあげた方がいいのかな。
「ん。やってみる。」
少し考えて、この依頼を受けることにしたこだま。
「何か必要な材料はありますか?可能な限りご協力しますが。」
「トグある?」
「トグってあのダンジョンに生息するスライム系の魔物のトグですか?」
「そう、トグ。」
「トグは素材になることもないですし、街で買えるところはないですね…。」
「なら、捕まえに行く。」
「その捕獲作業、私たちも同行してもいいですか?」
「?」
「トグを捕まえているところを見たことがなく。興味がありまして…」
勉強というより技術を盗む気満々の商人達。
「みたいの?いいよ。」
「では街から一番近いダンジョンまでご案内します。少しお待ちください。」
こうして道具開発依頼を受けたこだまはリアとは別方向、北に位置するダンジョンへと向かうことになった。商人たちがダンジョンに向けての準備する間、庭に置かれたトロルの岩を眺めながら待つこだま。トロルは太陽が落ち始めると蹲るか、本物の岩に寄り掛かり岩へと同化していく。たまに遊びに夢中で走っている姿のまま岩になるおっちょこちょいもいるが、立ち尽くしたままの状態で岩になるなんてよほどボーッとしていたのだろうな。そんな愉快な想像をしながら、仁王立ちのトロルを見上げ、しばし満腹のまどろみを堪能していた。
ダンジョンまでの道のりは商人たちが用意してくれた小型の馬車で移動となる。空を飛べるこだまとしては飛んでいけばすぐだったのだが、着いていきたいという商人達を置いていくわけにもいかずのんびり運ばれることを選んだ。急いでいるわけでもないので特に気にならないしいいかと。その結果、ダンジョンまでは6日間もかかってしまった。
「ダンジョン遠い。」
「そうなんです。我が国は一番近いダンジョンでも6日はかかってしまう。ここから更に北へ行ったところや、東方向にはまだいくつかダンジョンがあるんで、数は豊富なんですけど移動距離が難点なんですよ…。」
素材探索への技術向上が追いついていない現状に、どれほどの商機を逃したことかと憎々しい表情でつぶやく商人達。
しかしそんな声はとどかず、帰りは飛んで帰ろう、そう心に誓うこだまだった。
気を取り直してダンジョン。
崖の側面にぽっかり穴が開き、入り口までは山を切り崩して道が作られていた。
「ここはイルダムと呼ばれるダンジョンで、地下50階以上ある大きいダンジョンです。その大きさから未だ到達されていない未開部分も多いですが、スタンビートなどはもう何百年も起こっていない初心者から上級者まで訪れるダンジョンになります。トグですと、15階以降に確認されているので、10階まではショートカットで移動してそこから歩いていきましょう。」
商人と護衛として雇った冒険者、連れ立ってワープゾーンを使い一瞬で10階まで移動。そこから早足ペースで移動しあっという間に目的地までたどり着いた。
「こだまさん、トグです。トグいましたよ!」
冒険者が早速トグを見つける。しかし、そのトグを無視しスタスタ歩いていくこだま。不思議に思いつつもこだまの後を追っていくと、まるで道を知っているかのように通路を選んで進んでいく。やがて一見道とは思えない細い通路に入り、行き止まりとなる。
「こだまさんここは?」
疑問だらけの商人達を無視して地面に手を当てるこだま。すると地面が光だし、ぽっかりと穴が開く。冒険者達がその穴を覗き込むと穴は真下に広がる空洞に繋がっていて…、うじゃうじゃトグが蠢いていた。
「な!これは??気持ち悪!」
「トグの巣。ここで捕るのが早い。」
「トグの巣なんて初めて見ました。それにしても…こんなにいっぱいいるなんて…。」
穴を開けたこだまは更に手を掲げ透明な空気の球を生み出し穴にポトリと落とす。すると巣の中に落ちた空気の球はぐんぐん大きくなっていき、トグを取り込んでいく。根こそぎトグを取り込んだら再びしぼみ始める空気の球。楽の家の布団圧縮袋を見て思い付いた、こだまオリジナルの捕獲魔法だ。そのまま大量のトグを一塊にまとめ再びこだまの前まで浮かび上がってくる。こだまはすかさずアイテムボックスを開き空気の卵とトグを収納してしまった。
「あの量のトグを一瞬で…!す、すごい…。」
「こだまさんのアイテムボックスは一体どれだけの量が入るんですか?ものすごい量だったのに…。」
捕まえ方もさることながら、巨大なドグの塊を一瞬で収納したアイテムボックスの量にも驚く商人と冒険者。6日かけて漸く到着したダンジョンでの捕獲作業が一瞬で終わってしまい呆気にとられてしまいます。
「終わった。帰る。」
「え、あ、もう…ですか?」
「トグ捕まえた。もう用ない。」
ダンジョンに入ったと思ったら直ぐに出てきたこだま達を見てダンジョンの管理者もすごく驚いていた。
「こだま先帰るね。」
「え、先って…?」
「ダンジョン遠くて時間かかる。あと、早く終わらせて楽のハンバーグ食べたい。だから、こだま飛んで帰る。」
そう言い残しふわりと浮かび上がるこだま。商人たちが声をかける間もなくスッと飛び去ってしまった。これに慌てたのは商人。こだまに同行して少しでも技を盗みたい。作り方さえ分かれば自分達でもたくさん作ることができると踏んでいただけに、置いてけぼりは非常にまずいのだ。街の仲間達に状況を伝えるためメッセージバードを飛ばしたり、1秒でも早く街に戻る手段探しに軽いパニックに陥っていたのだがもちろんこの状況をこだまは知る由もない。
6日かかった道のりもこだまの飛行速度で数刻後には街に戻ってきていた。街に戻ったこだまはトロルのいる庭に戻り早速道具作りを開始した。
まずは捕まえてきたトグ。トグはヒキガエルのような頭を持つスライムで毒のあるトゲを出して敵を攻撃する。狩りをする能力があるから、他のスライムと違いダンジョンの少し深いところに生息していることが多い。頭を引っ込め、トゲを出していない時は一見するとただのスライムだが戦闘能力は雲泥の差だ。こだまはトグの中からうっすら青紫色をした変異体を選び取り、魔石を取り出していく。魔石を砕き様々な鉱石とブレンドしていった。ふと視線が気になって顔を上げるこだま。人形の岩になっているトロルと目があったこだまはしばし考え、重曹も混ぜてみることにした。換気の行き届いた大地にいる時はいいが、街にいるトロルはいつものような自然の香りがしなくなっている。国が変われば匂いも変わり、環境によってそこに住む人の匂いも変わるんだな。森で一人で暮らしていた頃にはたどり着かなかった発想に少しうれしくなるこだま。同時に匂い対策はエチケットだぞ、楽の言葉も思い出したのだ。
「こだまさん、こちらでしたか。」
ダンジョンからの連絡を受け、街に残っていた商会の人達とそのお抱えの職人がこだまの元へやってきた。
「さっそく道具作りですか。見学させてもらっても構いませんか?」
「うん。」
「ありがとうございます。ちなみにそれは…?」
「これ?トグの魔石と鉄を混ぜたの。」
「なるほど、それを原料にするわけですね。」
本当はいろいろ混ぜているが面倒だったから鉄ですませるこだま。トグに至っては変異体を使っているのだがそれも面倒でトグの一言。いずれは自分たちで作れるようにと目論んでいた商人達は重要なポイントを見逃してしまっているのだが本人達は気付いていなかった。
変異体のトグと各種鉱石をブレンドしたものをこだまは魔法で熱していく。やがてどろりと溶け出しすと魔法で激しく練り込まれていく。ここでこだまはアイテムボックスからジクロブ・ハフナで手に入れたクリスタルを取り出す。
「そのクリスタルは?」
「光のクリスタル。純度がすごく高いからこれ使う。」
「これは…本当にすごい純度ですね。イルーヴァントでは見たことない品質です…。」
ダンジョン攻略が進んでいれば…ここでも商人達が自国の現状を嘆いてしまう。
「あとはこうして…完成。」
クリスタルを砕いて混ぜ入れて魔法で形成していくと机の上に、いくつもの小さなリング状のアクセサリーが出来上がっていた。
「これは…?」
「耳につけたら昼間でも動けるようになる。試してみて。」
「わかりました。ですが今日は日も落ちかけてきているので明日実験することにします。お食事ご用意しているので…。」
「いらない。こだまハンバーグ食べたいから帰る。」
「え、あ、こだまさーん!!??」
道具も作り終わり、さっさと飛んでいくこだま。慌てて窓の外に手を伸ばす商人達だが既にこだまの姿は見えなくなっていた。こうしてこだまの道具作成依頼は無事?完了したのだった。




