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飯テロ⑧情報戦の顛末

ダンジョンも飯テロも一気に完結です。

「マーラ!!!!!」


クラッグさんが奥さんに呼びかけようとしたら、後ろから声がした。そして、俺達を押し除けてリバリさんが前へ出てくる。どうやら俺達の後をつけてきたらしい。あんな何もない階段で後ろをつけられていることに気付かないとは、俺達ってどんだけ鈍感なのだろうか。


「やはりこいつらの後を尾けてきて正解だった!マーラ、もう大丈夫だ、一緒にティフルへ帰ろう。」

「たわけ!帰るも何もマーラの居場所はここだろうが!」

「煩い!お前が無理やり連れてきたくせに!」

「なにをー!」

「なにをー!!」


いきなりいがみ合うクラッグさんとリバリさん。初めて会うマーラさんはハーフリングだけあって小柄ではあるがすらっとして引き締まった体に金髪の長い髪を複雑に編み込みおだんご、皮素材のジャケットに、ハーフパンツ、スパッツという動きやすさ重視のいかにも冒険者な格好の女性だった。年齢は20代中頃くらいだろうか。失礼な話だが、クラッグさん達から想像していた女性とはまったく違っていた。そして、クラッグさんとリバリさんのいがみ合いを全く気にする様子もなく、俺たちの方に振り向いて話しかけてきた。


「あんた達は?」

「俺達は…クラッグさんの素材採取を手伝ってたものです。俺は楽。」

「こだま。」

「オラ、エティ!師匠の弟子で、ヒーローだぞ!」

「リアともうします。」

「クルはクルだよ。」


マーラさんに自己紹介をしていると遅れてリバリさんの部下達もやってきた。


「マーラ!久しぶり!元気でしたか?」

「あらみんな、こんなところまで遥々どうしたの?」

「俺たちはマーラがここに拐われてきたって聞いたから…。」

「まぁたリバリに唆されたの?あなた達も大変ねぇ…。」


リバリの悪事を察したマーラさんがかわいそうなものを見る目で同郷のみんなを見渡しています。リバリさんまさか初犯じゃなかったの?それにしてはみんな信じてここまで攻めてきたようだしな…。


「ハーフリングは優しくて仲間思いの奴が多いから、真剣に訴えかけるとついつい信じちゃうのさ。まったしょうがない奴だよ、リバリは…。」

「それでマーラさんはここで何してたんですか?」

「私かい?私はこのダンジョンの小部屋の秘密が気になって調査してたんだ。ドワーフは休憩所くらいにしか思ってなかったみたいだけど、明らかに秘密ありでしょ?なんで気にならないのか不思議でしょうがないわ。」

「確かに明らかに怪しいですからね。俺達も部屋の謎解いてここまで来たんです。」

「そうでしょ!この部屋は特になの!みて、いろいろいじってたら変な祭壇が現れたのよ。」


そう言ってマーラさんが俺達に見せてくれたのは宙に浮く黒石の台だった。上から降りてきて、目の前で止まったそうだ。正面やや右側には細長い穴が開いていて、穴の横には丸いつまみが付いている。まるでガチャガチャのコインを入れる穴と回すレバーのように。


「ここに何か入れるんだと思うんだけど、何だと思う?」

「オラいいの持ってるぞ!これ入れてみるんだぞ!」


マーラさんが穴に着目するとエティがどこから持ってきたのか丸い石を差し出します。ん?あれって部屋に入った時の丸い石碑じゃ…。


「エティ、お前まさか部屋の入り口の石碑持って来ちゃったのか?」

「おぉ楽名推理だぞ!よく分かったな!」

「手癖の悪い奴だな…そういうの勝手に持って来ちゃダメなんだぞ。」


エティを叱り付けていると、マーラさんは早速石碑を投入してみています。入れても何も起こらず首を捻っているので横のつまみを回してあげます。ガチャガチャならこうしなきゃだからね。すると石碑の上が丸く光だし小さな白衣の少女が映し出された。


「おめでとなのね〜!光のコインを確認しちゃったのね〜!光の扉オープンしちゃうぜぇ〜!」


ホログラムみたいなものだろうか?前後左右から覗いてみたが宙に浮く白衣の少女は実にリアルだった。口調とテンションが若干鼻につく。手で触ってみようとすると…


「チッチッチだぜぇ!乙女を無闇に触っちゃダメなのね!」

「エティ変なのが現れた。やっつけていいぞ?」

「まてーいだぜぇ!女の子に暴力はよくないって習ってないのか!保育園からやり直せなのね!!」


なぜリアルタイムで会話ができるのか…謎でしょうがない。


「光の扉開けたいよね?開けたいよね?今なら開けくださいってお願いしてもいいぜぇ!」

「せ、折角だし、開けてみてもらう?」


可哀想になったのかマーラさんまで俺に聞いてくるので仕方なく了承した。まぁこの部屋を調べてたのはマーラさんだし俺に気を使う必要はないんだけどね。


「よーし、オープン!なのね!だぜぇ!!」


語尾の定まらない白衣の少女がダサいポーズを決めると、いつの間にか手にしていた石碑をポンと投げる。投げた石碑はまるでそこに見えない道があるかのように宙を転がり、ぐるっと部屋を一回り。そして壁の一か所の前に止まり、スッと吸い込まれた。


「な、何が起こってるんだ?」

「きっとマーラの行いに感銘を受けた神がご褒美を授けてくれるんだ!」


どうやら今までずーっといがみ合っていたらしいクラッグさん達も白衣の少女とのやり取りの途中から気になり出したらしく、漸くこちらに参加して来た。リバリさん、なんでもマーラさんに紐づける癖やめたほうがいいよ?ストーカーっぽくて気持ち悪いし嫌われちゃうから。

少し間があって、吸い込まれた場所から光が走りはじめる。そして光によって四角く縁取りされていく。縁取り終わると一瞬光が強くなったかと思うと光の中の壁が消え入口が開いた。


「おぉ!本当に扉が開いたぞ!オラ一番!」


また真っ先に飛び込むエティ。やれやれと思いつつ後を追っていくと、奥はそこそこ広めの広場になっていた。目に見張るのはその中央。クリスタルが漫画みたいに山積みとなっている。ザ・宝の部屋って感じだ。


「お!光の素材がいっぱいじゃないか!しかもなかなか上もの、マーラこれでいい武器が作れるぞ!」

「マーラ、このクリスタルがあれば君にぴったりの飾りを作ってあげられる!」


興奮するクラッグさん達を横目に、モテモテのマーラさんはエティ達と楽しくクリスタルを物色しています。無視も板についている。クラッグさん達のこの感じ慣れっこなのでしょう。リバリさん、部下達の可哀想な者を見る視線にそろそろ気づいたほうがいいですよ?


「入れる石碑によって手に入れられる素材が違うのかもねぇ。しばらくダンジョンに潜ってて疲れちゃったから、他の石碑を試すのはまた今度にして、今日の冒険はここまでにしようかね。折角だからみんなで持って帰りましょう。」


ざっと調べてみたがこの部屋からさらに先はなさそうだった。一応のゴールということらしい。そこまで確認し、マーラさんが帰還を提案して来たのでその案に乗ることにした。クラッグさんの目的は光の素材だったからここの素材で事足りる。闇の素材も欲しいって言ってなかったっけ?ま、いいか。リバリさん達の目的はマーラさんだからもちろん異論はでなかった。


「え?もう帰っちゃうの??もうちょっと遊んで行こうよだぜぇ!!!!!」


叫ぶ白衣の少女を無視して元来たルートで帰ることに。今回の発見でマーラさんは本格的にこのダンジョン探索する気満々のようなのできっとまた話し相手になってくれるさ。


「この道はいいね!すごいショートカットになってる。あの部屋まで行くのにものすごく時間かかったんだから…。」


階段ルートにもマーラさんは興奮気味だった。次からの冒険に是非活用してもらえればと思う。

長い階段を上り、サクサクダンジョンを進み地上に帰還するとハーフリングの兵達がずらりダンジョンの前に待ち伏せていた。きっとリバリさんが待機させていたに違いない。


「ここまで戻って来たらこっちのものだ!お前達!今すぐマーラを救出!そしてクラッグを拘束するのだ!!!」


兵をみて思い出したように指示を出すリバリさん。しかし兵達は誰も動こうとしない。


「なんだお前達!仲間を助けたくはないのか!!!?」

「隊長、あんまりやりすぎるとまじで嫌われちゃいますから…今回は帰りましょう。ね?」

「な゛…なにを…?」

「今回の出陣、愛の暴走だって俺達知ってるんです。隊長の愛の深さは十分伝わりましたから、ね?もう撤退の準備もできてますんで。」

「な、なぜそれを…それに俺に内緒で準備を進めていたってことか?」

「リーダー抜きでこっそり相談してたんですよ。」

「そんなそぶり誰もしていなかったはず!俺に気づかれずに進められるはずが…」

「こうやってこっそり作戦立ててたんです。」


兵の一人が弁当をリバリに差し出す。


「いつもの弁当じゃないか。これがなんだというのだ?」

「卵に餡かけてみてください。」

「餡をかけるのだっていつも通り…な、なんだこれは!?」


リバリさんが茶碗蒸しに餡をかけると、文字が浮かび上がります。


『しつこい男は嫌われますよ。』


浮かび上がった文字に膝から崩れ落ちるリバリさん。弁当を使ってこっそりやりとりしていた兵達への驚きと、公私混同がバレていた事実と、しつこい男は嫌われると注意された事、全てがドンと突きつけられてなす術なく崩れ落ちたのだった。


「へぇあんた達面白い事考えたじゃない!こんな面白い作戦考えられるなら、たまにはティルフにも帰らなきゃだね。」


冒険者にとっていろんな知識は財産なのだと。戦いが得意な種族の編み出す作戦はとても役に立つので、今一度母国の重要性を再認識したマーラだった。たまには顔を出すと宣言したマーラさんに同郷の面々もすごく嬉しそう。結果オーライですね。

こうしてリバリさん達の奇襲は失敗に終わったのだった。

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