恋敵の襲来
ドワーフといえば鍛冶とお酒ですが、恋だってします。よね?
突然の轟音に、何事!?と慌てて外に出てみると港が何隻もの船で埋め尽くされていた。街の中心の方で煙が上がっているのが見える。どうやら大砲を打ち込まれたようだ。
「な!あれはハーフリング族の船…!さてはマーラを連れ戻しに来たな!!」
「え、ちゃんとマーラさんの家族を説得して結婚したんじゃ…?」
「男なら駆け落ちだろ!」
「えー誠意を見せるなら説得してみせてよー。」
そうこうしているうちに大量の戦士がなだれ込んでき。
街を縫うように武装した男達が突撃してきて、街のはずれだというのにクラッグさんの家にまで押し寄せてきた。
「お前ら来い!痛い思いをしたくなかったら抵抗しないことだな。」
「はーい。投降しまーす。」
あっという間に捉えられてしまった。最近捉えられてばっかだな。まぁ、俺たちは部外者だし、そのうち疑いが晴れるかなって思って抵抗していないけど。
「何をする!離せ!!それに、街の者達は関係ないだろ!まずそっちを解放しろ!!!」
一生懸命抵抗するクラッグさんと共に連れてこられたのは一際大きい船の中の牢屋。牢屋らしく簡素ではあるが程々に広く、汚くもないので偉い人がやってくるのをのんびり待つことにした。
「おぉ楽じゃないか。お前達も捕まったのか?」
「あれ、クアワさん…。王なのに捕まってていいんですか?」
「道具作りに夢中になってたら、気がついたら縛られておった!ガッハッハ!」
「笑い事じゃないような…。女性や子供達も捕らえられているんですか?」
「女衆は、いてらっしゃいって手を振って送り出していたらしいから、男だけだな。ガッハッハ!」
隣の牢屋にはなんと王のクアワさんが捕らえられていた。
流石に街の人全部を捉えるわけにはいかなかったのか、どうやら王をはじめとした偉い人と脅威になりうる戦士を中心に拘束したようです。しかし、捕らえられているというのに呑気な人だ。
しばらくクアワさんと談笑していたら、筋肉もりもり、ガチムチ男達がやってきた。ドワーフと比べると若干肌が浅黒く、エルフほどではないが耳がトンガリ気味。ドワーフの髪は黒が多いが、ハーフリングは金髪やオレンジ、赤など明るい色の髪で、ギッチリ編み込まれた髪型だ。細かい文様が刺繍された布で作られた服を着ていてガチムチだけど清潔感を感じる。そしてガチムチの中でリーダーっぽい服装の男が話しかけてきた。
「クラッグ、マーラはどこだ?」
リーダーらしき金髪の男、クラッグさんの知り合いでしたか。
「マーラは俺の嫁だ!教えるわけがなかろう!」
「だまれ!マーラはドワーフなんかに嫁いでいい女ではないのだ!お前達、マーラの居場所を吐け!」
「知らぬ。知っていたとしても、マーラはクラッグの嫁だ。俺たちが教えることはできん!」
ハーフリングのリーダーはクアワさん達にも尋ねますが、有益な情報は聞き出せなさそうです。そもそも知らないようですし、果たしてクラッグさんも知っているのかどうかですが…。
「お前達は…お前達は何者だ?マーラの居場所を知っているか?」
漸く俺たちにも質問が回ったきました。しかし残念ながら居場所知りませんが。
「俺達はクアワさんに道具制作を依頼しにきた旅の者です。残念ながら俺達もマーラさんという方の居場所はわからないです。」
「そうか…。お前達、街を隈なく探しマーラを救出するんだ!」
直ぐに居場所が吐かせられないと理解したのか、部下達に捜索命令を下すと、ハッ!とよく訓練された返事をし、そばについていたオレンジ髪と赤髪のハーフリングが出て行った。
「何が救出だ!マーラは俺のところに自分の意思で嫁いできたんだぞ!」
「煩い!マーラは私の妻になるべき女性、お前など好きになるはずがないのだ!!」
「ふん、まだ諦めてなかったのか。諦めの悪い男よの。たとえ見つかったとしてもマーラはお前なんぞについて行かんぞ。」
部下がいなくなった途端、語気を荒げ始めるリーダー。まさかリーダーもマーラさん狙いだったとは。
「クアワさん、あの人って…。」
「リバリはマーラの事が諦めきれずちょこちょこやってくるんじゃ。今までは一人だったが、まさか軍を引き連れてくるとは、しょうがない男じゃのう。」
「うわー職権濫用じゃないですか。部下はどう思ってるんですかねー?」
「リバリのことじゃ、マーラが拐われたことにでもしてるのじゃろ。仲間を助けるとなれば、これだけの兵も集まるじゃろ。」
「そんなことしてるようじゃ、女性にも嫌われちゃいそうですね…。」
「うるさーーーーーーーーい!!!!!!お前らマーラを助け出すまでここから出られると思うなよ!!!」
クアワさんと楽しくお喋りしていたら、真っ赤な顔してリバリさんが地団駄踏みつつドカドカ出て行ってしまった。リバリさんの恋は前途多難のようですね。しかし、ガチムチは筋肉にしか盲目じゃないと思ってたけど、恋でも盲目になるんですね。はい、偏見。世界では先入観をなくそうっていう、アンコンシャスバイアスが叫ばれる昨今、おれもまだまだですね。
リバリさんが去っていくと、いい休憩時間じゃわいとクアワさん達は昼寝を始めてしまう。クラッグさんもしばらく寝てなかったからかあっという間に寝息を立てている。
俺たちは暇になってしまったので、折角だから船の中を探索することにした。牢屋?こだまがいれば牢屋はもはやだたの部屋ですよ。
俺たちが捕らえられた船が一際大きかった理由は直ぐ分かった。この船は巨大な厨房を有していてどうやらここで一気に弁当を作り、他の船に届けているようだ。
「へー変わってますねー。他の船には厨房ないんですか?」
「簡易的なのは一応あるが、他の船は機動力、火力重視だからな。ん、お前達だれだ?」
「あ、俺たちたまたまドワーフの国に来てた旅人です。面白そうだったんでお邪魔してますー。」
「そうかそうか。どうだ、ここの厨房はすごいだろ?」
厨房を覗いたら、中で作業している恰幅の良いハーフリングがいたので話しかけてみたら快く答えてくれた。ハーフリングはドワーフと同じで基本人が良く、さっぱりとした種族のようだ。戦いにおいては機動力と火力が重要なので、役割を分散する戦略スタイルなのだそうだ。創意工夫をしているあたり、戦いが得意な種族でもあるようです。
そして見せてくれた厨房は確かに非常に立派だった。棚には大量の缶でできたお弁当が積み上げられている。懐かしい感じのデザインだ。小学校の時好きなアニメのキャラクターがプリントされた缶のお弁当箱使っていた。昭和感満載のレトロなやつ。
「仲間にはうまい飯を食ってもらいたいからな!メニューもいろいろ工夫してるぞ!」
「もしかして、この厨房の料理長ですか?」
「おう!料理長のビットだ、よろしくな!」
「俺は楽です。こっちがこだま、エティ、リア、頭の上にいるのがクルです。」
「へーみんな種族がバラバラなんだな。仲良きことはよいことだ!」
そう笑うビットさんは嬉しそうにバンバン背中を叩いてくる。おっとクルが落ちた。あぶないあぶない。
「ハーフリングとドワーフは仲悪いんですか?」
「そんなことはなかったんだがな。マーラが拐われたらしいから…俺たちは仲間にひどいことする奴は許さない!マーラがお腹空かせてないか心配でしょうがないよ。」
「え?マーラさんってドワーフと恋に落ちて自らここに来てるって話ですよ?」
「そんなバカな。リバリは拐われたって言ってたぞ。」
「俺もマーラさんに会ったことないから、真偽の程はわからないですけど、どうなってるんでしょうねぇ?」
「いや…確かにマーラはよくクラッグを褒めていたしな。クラッグが拐うってのは変だなとは…。まさかリバリのやつまだマーラを諦めてなかったのか??」
「『マーラは私の妻になるべき女だ』って言ってたし、まさか諦めの悪い男の暴走…?」
「な゛…そんなこと言ってたのか?はぁあいつは…。」
俺の話を聞き頭を抱えるビットさん。完全に思い当たる節があったようです。
「しかし困ったもんだ。リバリは妙に仲間に好かれているからな。みんなマーラ奪還を信じ切ってるしな。」
「あらあら大変ですねぇ。」
「お前、なんかいい案ないか?」
「え、俺?」
「そうだ。俺は考えるのが苦手だからな!」
然もありなんといった表情で赤の他人の俺たちに丸投げしてくるビットさん。まぁ要するにハーフリングのみんなにこの状況をしらせれば大事にはならなさそうだ。お熱なリバリさんに知られたら邪魔されそうだから、リバリさんに知られることなく。だったら意外と簡単かもしれない。
じゃぁはじめますか。リバリさんに贈る飯テロを。