海底脱出
新たな国に到着します。
人は慣れる生き物です。
泳げない。ヤドカリの上に透明な殻を背負わせただけ。そんな巨大ヤドカリに乗り込むことにあんなに抵抗していたのに、現在は海底でお茶を楽しんでいる。空気問題は魔法で何とかしろとアルは言っていたが、おうちYEAHを開けておけば空気が薄まることはなかったし、海底の中は穏やかな雰囲気。たまにクラゲが漂っていたりして今のところ危険を感じていない。やることもないので、まったりティータイム中なのだ。
「しかし、こんなにゆっくりまったり進んでると、いつになったらイルーヴァントに辿り着けるのやらって感じだな。」
「楽!オラ飽きてきたぞ!」
「エティもじっとしていられなくなってきてるし…。」
地図から推測するにイルーヴァントまでの道のりはかなり遠い。早くも飽きてきている一向には非常にきついものがあった。
「もういっそのこと精霊コンビ呼び出すか?」
「楽、精霊様は乗り物じゃない。」
「え…リアだって…」
反論しようと振り返るとジトッと見てくるリアに寒いものを感じ、口を慎むことに。解せぬ。
そんなしょうもないやりとりをしていたら、頭の上のクルが落ちてきた。
「おいクル、気をつけろー。」
キャッチすると、クルはどこかに向かって手を振っています。手を振るのに夢中で落ちたようです。クルが手を振っていた方向を見ると、なんと魚が手を振っていた。目がおっきくて背鰭がモヒカンみたいで、尾っぽはロン毛、可愛いチンピラみたい。体に手足が生えていて、二足歩行。辛うじてアミタイツは履いてないけど、奇妙なキャラ感を醸し出している。
「えーと、お友達かな?」
「ううん。知らない。手を振ってたから振り返してたの。」
「楽!あの魚変!」
リアの声に驚いて視線を戻すと魚から黒いオーラみたいなのが漂い始めています。あれ、絶対やばいやつ。
急いでヤドカリの餌を倍増。更にこだまに後ろからの水流ジェットで加速してもらう。やばいやつを見かけたら逃げるに限る。しかし、二足歩行の魚走ってついてくる…。肘を直角に猛スピードでふる、美フォームで。見た目シュールすぎて怖さが倍増。そうだよね、チンピラが可愛いわけないよね。可愛いとチンピラ、一番くっつけちゃいけない言葉だよね…。俺にはできることが何もないのでひたすらこだまとヤドカリを応援する。応援を遊びと勘違いしたエティとクルまで応援に加勢している。
「楽、いっぱいきた。」
ヒッ!!見ると魚が大量に加勢して、大群で走って追いかけてくる。なんでそんなに冷静でいられるの、リア?ゾンビに追いかかけられた時のパニック感を一人味わいながらも何とか撃退法をといろいろ試してみる。囮の肉を落としてみたり懐中電灯で光を当ててみたり。ちょっとは効果があるものの、魚いっぱいすぎて焼け石に水。どっか逃げ込んで隠れたりしないと埒が明かなさそうです。
「どっか逃げ込める場所は…。」
「あそこ穴あるよ?」
「こだまでかした!リア穴方向に面舵いっぱーい!……ん?」
こだまが見つけた岩場に開いた穴に飛び込む瞬間、違和感を感じる楽。穴が明らかに人工的なものだったのだ。そして、狭い穴なら、追いかけてくる魚を狙いやすくなるから迎撃しながら逃げようと考えていたのだが、何故か魚達は穴の中までは追ってこない。そこにも違和感&不安を覚える。すると奥へと進むスピードが明らかに早くなった。
「!?」
驚いたヤドカリは元来た方向に逃げようと方向転換しようとしていますが、吸い込まれて奥へ奥へと進んでいきます。
「楽!楽!これ楽しいぞ!」
エティひとり楽しそうだが、クルは頭にしがみついてるし、こだまもリアも俺にしがみついている。いや、俺とリアがこだまにしがみついているが正しいが。
シュポン、ヤドカリの抵抗空く吸い込まれた先には長く長ーく上に伸びた水流の竜巻が待っていた。よく見ると地面に丸い魔法陣みたいなものが描かれていて、その中心から巻き起こっています。そのまま一気に竜巻に吸い上げられ、信じられない速さで急上昇。途中何か幕のようなものを突き破る感覚があり、水面から空高く打ち上げられてしまった。
「ひぃやぁぁああぁぁあああああぁぁぁあぁーーーー!!!!」
急降下前のふわっと感に情けない悲鳴を上げると、こだまがぽわっと光だし、ヤドカリごと中に浮かび上がる。魔法で宙に浮かし、そしてゆっくりと下へ降りていく。
「こだまーー!!!」
頬擦りする楽を邪魔そうにしながらもきっちり制御するこだま。流石です。
下を覗いてみると、岩が均等に円状に並び、その中心にうずしおのような渦が起こっています。打ち上げられた時にはあんな円状に柱なんかなかったような…と思って周りを見てみると片側には広大な海、もう反対側には港が見える。まっすぐ上に飛ばされたはずなのに、森がなくなり、明らかに知らないところへ飛んできています。とりあえず、何が起こったのか分からないが、とりあえず港に向かうことに。港があるということは人がいるということ。みられては面倒なので、念のためおうちYEAHもしまっておきましょう。
「楽!楽!船がいっぱいあるぞ!」
「本当だな。大きくはないが、どれも立派な作りをしているようだが、漁業の町なのかな?」
「楽、人が出てきた。」
港に近づいていくと、がたいの良い、ずんぐりむっくりした男たちが何人も出てきた。革を細工して作った頑丈そうな服に、ブーツ、巨大な鶴橋や斧を持っている。誰もが矮躯でありながら屈強、豊かな髭を生やしている。髪型は個性豊か。剃り込んでいるものやモヒカン、スキンヘッド、長く伸ばして後で縛っているものもいる。初めてみるが絶対ドワーフだと思う。突然シュポンと現れた巨大ヤドカリに警戒心たっぷりで待ち構えている。なんとか穏便に済まないかなぁと思いつつ海岸に上陸。透明な殻を外し久々の外へ出ると、ヤドカリにお礼の人参を与え、更には海の方へ帰るように誘導してあげた。元の場所には帰れないかもしれないが…。こうして改めてドワーフの方へ向くと、全員が武器をこちらへ突き出しています。まるで敵を見るような表情で。
「人族、お前いったいどこから現れた!?いったい何の用だ!?」
おぉ、最近そのイベントなかったから忘れてたけど、人族は全ての種族の敵だった…。
「俺、人族じゃ…。」
「だまれ!!馬鹿にするんじゃない!その見た目で人族じゃないなんて誰が信じるものか!」
「楽は人族じゃないよ?」
「オラも人族じゃないぞ!」
こだまとエティの言葉にも聞く耳を持ちません。
「この男は本当に人族ではない。エルフが人族と行動を共にするはずがないでしょう?」
「ふん、粗方弱みを握られているか、洗脳されているか、信用できんな。」
リアが前へ出て声を上げます。しかし一向に武器を下げてくれる気配がありません。すると特にがたいの良い男が前へ出てきた。
「言っておくがな、のこのこ現れたんだ。逃しはしねぇ。お前ら、捕らえろ!」
そうして武器を携えた男達が一斉に近づいてきた。変に抵抗する気はないのだが…あっという間に捉えられ、よほど警戒してか簀巻レベルで縛り上げられてしまった。俺だけ。他のみんなは優しく手枷のみ。久々に人族って…とため息を溢してしまった。




