ワノナ国エゾ村
一方その頃敵陣は。って話です。
ーコウウ視点ー
「コウウ様、ここを抜けたらエゾなんですが…」
「うむ。だが、様子が変だな…。」
大陸の最北西に位置するエゾは高い山脈に隔たれた辺境の地。ワノナ国の村であるにもかかわらずあまり交流がなく情報も少ない。というより、もう何年も大都の人間が訪れたことがなかった。年貢を取り立てるにも、回収にかかる移動費で足が出てしまうことから事実上放置状態だった。アイファという面倒くさい姫を連れているのでさっさと兵糧を確保したいのだが、山の麓に見えてきているエゾの様子がおかしい。人の姿が見当たらないのだ。
「人の気配がないわねぇ。本当にこんなところに村があるのかしらぁ?」
呑気に思ったままをいうアイファに、今はまだ機嫌を損ねていないのだとホッと胸を撫で落とす反面、村の不穏な空気に嫌な予感が止まらないコウウ。もしここで兵糧が手に入れられなかったら…見つからなかったで大都に帰れるはずはなく次なる目的地を考えなくてはならなくなる。嫌な考えを振り払い、重くなる足取りを奮い立たせエゾへと入っていった。
「コウウ様、本当に人の気配がしませんね。しかも…家も井戸も畑も、かなり長いこと使われていない様子です…。」
「一体この地に何が起こったんだ…?」
「あら、そんなの簡単じゃなぁい?」
「アイファ様、何かお気づきになられたのですか?」
「畑の作物が刈り取られずに枯れてるじゃない。放棄されたのに魔物に食べられていないのは不自然だわ。きっと疫病でも流行って作物が取れなくなったのねぇ。」
「な゛!疫病…だが、たしかに畑の状況は不自然だな。」
「それと、船着場があるのに船が見当たらないしぃ、他の地に移ったぁ?」
「なるほど…。まさかそんな事態になっていたとは。無駄足だったか…。」
コウウ達が落胆していると、アイファが何か気になったのか、船屋のひとつに入っていく。何かあってはいけないので慌てて後に続くコウウ。何の変哲もない船屋である。きれいに片付いていて、塵ひとつ落ちていない。
「妙だな。長い間放置された割にはきれいすぎる。」
「拠点を移しただけで、ここにはたまに来ているようねぇ。近くに島でもあったりしてぇ。」
「コウウ様、船を用意いたしますか?」
「あら、必要なさそうよぉ?」
会話を聞いていたレイキョウが提案してくるがアイファは即座に要らないという。そうして船屋をでて村から離れた小さな小屋へとまっすぐ向かうアイファ。
「アイファ様?」
「村の者はきっとあそこねぇ。」
訳もわからずアイファについていくと、小屋はなかなかに不自然だった。今で言うところのダメージ加工が施された、しかし頑丈そうな小屋。そして不自然なサイズの立派な南京錠がかけられている。
アイファは魔法でちょちょいと南京錠を外してずんずん入っていく。鍵を外す魔法って使える人ほとんどいないはずなのに…。思うがままに行動するし、行動できてしまう有能さ。何を隠そう、この能力の高さもアイファの厄介なところの一つだ。
鍵を開け中に入っていったアイファは、小屋の中には何の変哲もない船具が置かれているだけだったが、まるで最初から知っていたかのように床板を開け、地下へと続く通路を見つけてしまう。
「私とバチョウが先に行きます。アイファ様は私たちの後に続いてください。レイキョウ殿は任せたぞ。あ、アイファ様…!」
慎重に行こうとするのにマイペースにどんどん進んでしまうアイファ。慌てて追いかけていくと、地下通路はなかなかの広さがあり、北方向、海の方向へと伸びている。
「この方向は海のはずなのにねぇ。面白いじゃないのぉ。」
何もない地下通路を1時間位だろうか、歩いていくと入ってきた時と同じような出口が見えてきた。しかも、今までなかった、人の気配までする。用心しつつ上に上がると、村と同じような小屋に出て、小屋を出るとそこには村が広がっていた。そして、伝統的な紋様を携えた人族と白熊族が武器を手に待ち構えていた。
「な!なんだお前達は!?」
レイキョウが真っ先に声を上げると、村長と思しき男性が前に出てくる。
「私たちはエゾのものだ。訳あって村を出なければいけなくなり、手を差し伸べてくれたこの者達と今はここに村を移して住んでいる。あなたは…コウウ殿に、アイファ姫でいらっしゃりますな。」
「如何にも、第九騎士団長のコウウだ。そして、こちらが…。」
「堅苦しくっていやねぇ。私はアイファ。ただのアイファよぉ?」
「よくこの場所がお分かりに…。今まで誰も見つけることはできなかったのに…。」
「そう?割と簡単だったわよぉ?」
「それで、この者達は…」
「白熊族は私たちの命の恩人だ。コウウ様アイファ様の命令であろうと、差し出すことはできません。」
「なるほど。その者達を庇う為にこの地に隠れているのだな?」
「それは少し違います…。」
村長から話を聞けば、数年前に疫病が流行り村が瀕死の状態に陥った。大都に助けを求めようにも山脈を越えなければならない。現に何年も大都との交流はなかった。困り果てていると、白熊族が船でやってきたという。村の様子に偶然にも気づき、この地にい続けると人にも害が及ぶかもしれないと手を差し伸べる為に。白熊族はエゾから北に行ったところにある、陸地からは視覚阻害のような現象が起きていて見えないが割と近い距離にある離島で暮らす少数種族。疫病の効果が薄まるまで避難させてもらうことになったのだが、お互い少数だったこともあり、手を取り合うこととなったそうだ。
大都では獣人族への侵略はもちろん、見つけたら捉える状況。滅びたように見せかけて、この島に移り住んだそうだ。
「ふぅん。面白いじゃなぁい。でもね私たち白熊さん達にはようはないのぉ。」
「その通りだ。私たちはエゾに兵糧のヒントがないかと来たまでだ。」
「兵糧のヒントですか?」
「そうだ。以前エゾの血を引く者に出会ったのだが、その者は変わった料理を作っていた。そこで、兵糧に良いものはないかと足を運んだ次第だ。」
「変わった料理ですか…。ここで昔からあるものと言えば、糒や干し餅ですかね?」
「糒に干し餅…それはどんな食べ物だ?」
「見てもらった方が早いですかね。こちらへどうぞ。」
緊張を解いた村の人達が案内したのは村の備蓄庫だった。そこには乾燥した米と乾燥した餅のようなものが吊るされていた。
「糒は炊いた米を洗って天日干しした保存食です。水や湯を入れると柔らかい米みたいになるので長い漁の時などはこれを使っています。船の上では飯を炊くのも大変ですから。」
「そんな保存方法があるとは。これは軽くて良いな。」
「干し餅も似たような保存食で、餅を凍らせてから1・2ヶ月かけてゆっくり干したものです。作るのに時間がかかるからあまりたくさんは作れませんが、そのまま食べれるし、これも水で戻せば餅になるんです。」
「本当ぉ。そのまま食べれるわぁ。ほんのり甘くて意外とおいしいわねぇ。糒の方は直接食べるのはあまり美味しくないけどぉ。」
話を聞きつつ早速味見するアイファ。
「こちらも素晴らしい。特にそのまま食べれるところがいい。戦時中でも手早く食事がすませられる。これをたくさん作ることはできないのか?」
「凍らせるだけなら魔法でできるのですが、寒い場所でゆっくり乾かさないといけないんです。1・2ヶ月魔法をかけ続けることはできないので次の冬を待つしか…。」
「なるほど。そううまくは行かぬか。でもよい。ここに来た甲斐があった。この保存食を譲ってはもらえないだろうか?」
「…はぁ、譲るのは構わないのですが…」
「分かっておる。私たちはここでエゾの者にしか出会っていない。これで良いか?」
「いいんでしょうか?」
「正直大都の他種族に対する考え方は好かないのでな。他種族には会ってないのだから、報告する必要などないだろ?」
実はコウウ、大っぴらに反対こそできる立場ではなかったが非人道的な行為を良く思っていなかった。そのためか、協力し合うエゾと白熊族の姿に嬉しい気持ちを抱いていた。
「おいしぃご飯ありがとうねぇ。これ、おだちん。」
「…これは?」
「それアイファのものっていう証拠よぉ。この村はもぉアイファのものよぉ。誰が来ても私が許さないからって追い返しなさぁい。」
「!!あ、ありがとうございます!」
「別にぃ。美味しいものには対価が必要だものぉ。それとぉ、あっちの村の小屋の入り口、藁でも敷いておいた方がいいわよぉ。バレバレなんだものぉ。」
笑いながら、もうようはないとばかりにさっさと行ってしまうアイファ。コウウ達も急いで食材をアイテムボックスへと詰め込み後を追う。
美味しいものにしか興味がないアイファは、美味しいものが汚されるのを許さない。白熊族になど興味はなかったが結果この村を保護することにしたようだ。アイファという後ろ盾を得たエゾの面々はアイファの後ろ姿が見えなくなるまで頭を下げ続けるのだった。
この村で出会った糒は卑弥呼の時代からある保存食で現代でいうところの非常食アルファ米。干し餅は、場所によっては凍り餅とか凍み氷とも呼ばれる寒冷地で生まれたフリーズドライの保存食だ。少なくとも鎌倉時代にはあった保存食らしい。日本人は調理法開発の天才だね。
こうしてコウウ達は、奇しくも楽と同じフリーズドライの食材を手に入れることとなったのだ。




