珍獣発見
ピクサーに出てくるような仲間が欲しいと思ってました。
行きには気づかなかったけど、アロスから王都の道のりは絶景だった。
北側を臨めばまるでアラスカのデナリ公園のように美しい湖と雪をかぶったいかにも標高の高そうな山がそびえ立つ。南側を臨めばまるでタンザニアの果てしなく伸びる地平線に、所々見える木々の存在感がすごい。いっぺんに2箇所世界旅行しているみたいで得した気分だ。
「綺麗な湖だなぁ。ちょっと寄ってく?」
「魚食べたい。」
「女性にはマイナスイオン必要。」
満場一致で寄り道決定。
こっちの世界でもマイナスイオンは正義なんですかね?
ともかく、あんな美しい湖でキャンプやったら絶対気持ちいい。
というわけで湖の辺りへ。そこはもう映画の世界の中に入ったみたいに綺麗で、気持ちいい場所だった。
うーんと伸びながら、ありったけのマイナスイオンを感じていく。
確かにマイナスイオン最高。
もしかしたら、異世界きて今が一番リラックスできている気がする。
ドボン。
音に振り返ると、こだまが豪快に湖に飛び込んでいた。この季節じゃ湖冷たくない?どんだけはしゃぐんですか、こだまさん。
海女さんでも心配するレベルで潜ったのち、巨大なエビと共にシュポンと飛び出てきました。こだまの体の倍以上あるエビ。果たしてそれは捕まえてるのが捕まってるのか…。
それにしても立派なエビだ。そうだよな、湖キャンプの醍醐味は釣って食べる。
よし、俺も釣りしよ♪
しかし、釣りなんてしたことない。ここにきたばっかの頃一度チャレンジしたが、手作り釣竿は殆ど釣れないと実証済みだ。そこで俺流の釣りをすることに。
沿岸に転がっているなるべく大きな岩を探し、そこに飛び乗る。高い位置からじーっと湖面を見つめ待つ。
チャプンと音がした瞬間矢を放つと、湖面が騒がしくなる。
予め矢に結んでおいた紐を引っ張り引き上げると、見事に矢が貫通した魚が上がった。
「うん、やっぱり釣りは創意工夫が大切だな。」
「それは釣り…なの?」
振り返ると首を傾げたリアがいた。
「狩り?いややっぱり釣りなのか…。でも、面白そう。私も挑戦する。」
あまりの発想にリアも釣れました。
そしてリアも矢に紐をくくりつけ、弓矢で魚を狙い始めた。なんかパートナーを見つけたみたいで楽しいな。
結論から言うと、リアも俺も大漁だった。
釣り、すげぇ楽しい。
お腹も空いてきたし、めちゃくちゃ豪勢なディナーにしちゃおう。
そう思って拠点に戻るとこだまがおかしなものを仕留めていた。
「こだま、…多分それは食べれないよ。」
「?」
「シクシクシクシクシクシク…。」
「絶対食べちゃいけないやつ。だってほら、泣いてるし。」
そう、こだまが捕まえ、逃げないように上に座って押さえつけているそいつはシクシク泣いていた。
全体的に白くてふわふわした毛並み。
丸っこい体、大きい耳の内側、 顔面、肉球が蒼く、目は黒く大きく、涙でうるうるしている。
大きさはこだまよりちょい大きい。そのサイズ感ならこだまくらいなら払い退けられません?
「くすん。オラうまくねぇぞ?」
「えっしゃべれるの?」
「オラ、イエティのエティ。しゃべれるに決まってるぞ。」
「こら、こだま!今すぐ捨ててきなさい!」
「え、オラを捨てないで!捕まえて!」
「ほら、こだまが変なやつ捕まえてくるからー。ぜってーこいつ面倒くさいやつじゃん。」
泣いていたかと思えばドヤ顔したり、ワナワナしたり、テンションがコロコロ変わる変な生き物を前に頭を抱える。
「でも可愛いよ?」
「そう、オラかわいいんだぞ!」
女の子はちっさいモフモフが基本好き。だからリアも気になってるようだが、食い気味でのっかってくるこいつにちょっとイラッとするな。自己評価が高すぎるやつは基本嫌われてますよ?と言うわけで、即捨て決定。
頭をワシッと掴み、「?」顔のエティとやらを湖目掛けて投げた。
手をパンパンはたきながら、「変な生き物は拾ってきちゃだめですからね」とこだまに説教垂れてると、俺の真横にスチャッと着地するエティ。
えっ、と思いつつもう一度、ワシッ、からの大きく振りかぶってポーンする。
すると湖に着水する寸前、エティの手が光ると着水面が凍り、スチャッと着地する。
ご丁寧にヒーローのようなポーズ付きで。
そしてアイススケートみたいに水面を滑り、よく見ると滑る足の周りだけ凍っているのだが、沿岸ギリギリまで滑ってジャンプ。
再びヒーローポーズで俺の真横にスチャしてきた。
無言で大きめの石を持たせ、ワシッポーンしたが、今度は着地の際手からこぼれた石で氷が割れ、無事湖に落ちた。
フッようやく変なのがいなくなった。
気を取り直してバケツコンロに火をセッティング。
こだまもリアも今見たものは忘れることにしたのか、気にせず準備を手伝ってくれる。
巨大エビを下茹でするために水を入れた鍋を置く。
先に釣った魚の下処理もしちゃおうかなとテーブルとまな板、包丁を取りに行き戻ってくると、ブルブル震えながらコンロの火で暖を取るエティがいた。
「お前、なんなの?」
「オラ、エティだぞ。」
「名前はさっき聞いた。俺たちになんか用?」
「オラを助けて欲しいんだぞ。」
「すみません、人助けは請け負っていないもので。」
「おねがいだぞ。お前だけが頼りなんだぞ。」
「そういうことは、こだまにお願いしてもらえる?」
するとこだまの方に振り向くエティ。
「オラを助けてほしいんだぞ。」
「面倒くさい。」
またこちらを向く。
「ダメだったぞ。」
「さいですか。じゃ、リアに頼んでみたら?」
今度はリアの方に振り向くエティ。
「オラを助けてほしいんだぞ。」
「私はこだまの指示にしか従わない。」
全く粘らずまたこちらに振り返る。
「ダメだったぞ。」
「さいですか。」
しょうもないお喋りしながら魚の下処理を済ませ、同時に巨大エビも下茹でが終わった。
網の上に半分に切った巨大エビと魚を乗せていき、塩、胡椒する。
新鮮だからシンプルに塩胡椒にレモンでいただこうと思う。
更に別で火を熾してた焚き火に、鉄串に刺した魚をくべていく。
トマトをベーコンで巻いたものも串に次々刺していき、くべる。
後は、豪勢に鶏肉のトマト煮を作ろうかと思う。
【鶏肉のトマト煮】
材料
・鶏肉
・玉ねぎ
・じゃがいも
・オリーブオイル
・トマト
・砂糖
・コンソメ
・塩
鶏肉にフォークで穴を開け、大振りにカットする。
鍋に、鶏肉、一口大にカットした玉ねぎとじゃがいもを入れ、オリーブオイルで炒める。
火が通ったらカットトマト、砂糖、コンソメを入れじっくり煮込む。
煮込み終わったら最後に塩で整えるだけだ。
「お腹すいたな。早くできないかな♪」
エティが隣で俺以上にワクワクしてる。
「お前まだいたの?」
「えっ!だってまだご飯食べてないぞ!」
「しゃーないなぁー…。」
煩いエティを加えてディナータイムだ。
「うまうまうまうまうま」
「エビぷりぷり…!」
今日もこだまリアに高評価をいただけたようです。
「あちっあちっ!トマトすごい熱いぞ!でもバカウマだぞ!」
「さいですか。おぉ、魚の直火焼き、このシンプルさでこのうまさ、感動だな。」
「ほんとか!それくれ!すげー、うめーぞ!」
ものすごい賑やかになったな。
でもみんなの食べっぷりは見ていて気持ちがいい。
マジ幸せご飯だな。
3人はまだまだ料理にがっついてる。
若いね、みんな。
寒くなってきたので、紅茶を牛乳で煮出して砂糖とシナモンをたっぷり入れる、いわゆるチャイもつくりまったり。
そこに青白い光が飛んできた。
蛍?にしては一直線にこっちに向かってきているような…。
光はエティのところまで飛んできて顔の前で止まった。
その光を見たエティは、俺のところにやってきた。
「おかわり。あと、オラを助けてほしいんだぞ。」
「それ、おかわりしながら言うことか?」
「おかわりもすごく大事なんだぞ。」
「さいですか。」
「お願いだぞ。お前だけが頼りなんだぞ。」
「はぁ…。」
チャイをすすって一息。もう一口すすろうとしたら、
「オラにも!オラにも!それくれだぞ!」
「わかったわかったって。ほら、皿がこぼれそう。」
「おぉ危ない危ない、だぞ。大切なおかわりが。」
慌ててトマト煮をかっこんだエティの空の皿をうけとり、チャイを入れたコップを手渡す。
「おぉぉ、体の芯からとろけるようだぞ!」
「さいですか。で、助けはいいの?」
「おぉぉ!忘れてた!」
ひっついてくるエティにちょっと愛着が湧き始めてきた。まぁこいつの話くらいは聞いてやるか。
エティのなすがままになっているとこだまがやってきて、そこは俺の場所とばかりに膝の上に座ってきた。
うん、こだまの可愛さは最強だな。