回遊植物で遊ぼう2
中途半端なところでうっかり大分あいてしまいました。
楽さんごめん。
そうこうしている間に、来客のようです。
「それにしてもこんなにうまくいくとは。爆発のひとつやふたつ起こるかと思った。」
こだまのドラゴン型炎を操る様子を眺めながら、俺は食べる花火が上手いこといった状況に浸っていた。現在こだまは生み出したドラゴン型の炎のクオリティを上げるべく回遊粉の配合を試行錯誤している。クルとエティは他の形が作れないかにチャレンジ中だ。エティが回遊粉入りのパンを火に放り込んだ時は爆発したけど、ボーロは火をつけても爆ぜることなく火がついた。きっとパンは、これでもかと量を詰め込んだのがいけなかったのだろう…。
「爆発するぞ!」
「え?」
何故か得意げなエティが片手に乗せた様々な色のボーロに火をつけ、いっきに口に放り込む。
ボフッ。
すると、音と共に口が爆発により膨らみ、カラフルな炎が漏れ出る。ありえないくらい膨らんだのだが、熱くも痛くもないようで、口が膨らむのが楽しかったのか、エティは笑いながら次々に入れては爆発させていく。赤や黄色、時には黒い炎が口から漏れ出てまるで夜間まで営業しているヨーロッパの遊園地のアトラクションのようだ。実に不気味悪い。色によって、炎の量によって炎の形が変わったり、爆発してはケタケタ笑うあたりが特に。
「いっぱい入れると爆発するのかな?それともいろんな色を混ぜるからか…?」
「口がゴンボみたいになって面白いぞ!いっぱい食べて腹も膨れるし一石二鳥なんだぞ!」
「ゴンボが何かは分からんが、まぁ、楽しいならよかったな。でもお腹壊すからあんま食べすぎるなよ?」
「はいほふなんだぼ、ひっはいひれふと…ボフゥゥゥ!…たのしいぞ!」
「口に物を入れて食べるなよ。ハハ…。」
そんな調子で食べる花火作りを楽しんでいたのだが、今度はドラゴンの炎や鳥、馬などの形の炎を吹き出しならがら移動を開始することに。ずっと止まっていてもしょうがないというのもあるが、
「こだまそっちだぞ!」
「クル、先回り。」
「クル!あれ、リアは?」
「上は任せて。」
何時の間にかこだま達は派手な炎を使って追い立て漁を始めていた。炎のドラゴンに驚き、近くに潜んでいた牛みたいな魔物が逃げ出したのをみて狩へと移行したのだ。外、めちゃくちゃ寒いのに元気なもんだ。リアの影にレアとブルーもちらほら見える。全員総出で狩に勤しんでいるようだ。対して俺は一人ホバーボードハウスでくつろいでいる。寒い中遊び続ける元気を俺は持ち合わせていないからな。
「今のうちに赤の回遊粉でピリピリもどきを作ったり、後回しにしていたことを片付けておくか。後は折角だしお菓子だけでなく花火も作っておくか。」
紙に細長く回遊粉を置き、包んでは火をつけてどんな色で燃えるか試していく。この年になると妙に好きになる線香花火もいろんな色で作ってみる。線香花火にはティッシュくらい薄い紙に同じく回遊粉を短めに置き、こよりを作る要領で捻っていく。こちらは儚さはそのままに、いろいろな色の線香花火ができあがり日本で作ったら売れるのではと心躍らされた。もしかしたらおっさんが知らないだけで既にあるかもしれないが。更に熱くないことをいいことに長い棒に花火を仕込んだバトントワリング型。これは火をつけた状態で真ん中を持ってクルクル回すとカラフルな円状に火が噴き出す。いろいろな色が層になった円形の花火に紐をくくり付けたやつは火をつけて紐をクルクル回せば、巨大な円の色がどんどん変わっていく。量を入れすぎなければ燃えずに安心だから俺みたいな初心者なのに花火作りはうまくいった。
「スマホもSNSもないから披露する場がないのが残念だが、今度パタタに戻ったら子供達にでも見せるか?いや、あいつら宣伝に使えるとか言い出して純粋に楽しんではくれなさそうだな…。」
商魂たくましい子供達を思い出し思わず苦笑いしてしまう。
コンコンコン。
「ふぇ?」
場違いなノックオンが聞こえ、思わず変な声が出てしまう。音のした方へ振り返ると…いかにも悪魔な見た目の4人がガラスのような壁に顔を引っ付け俺の作業に釘付けになっていた。
「呼んだ?ねぇねぇそれより、それ何、何?」
「お前仲間?それより、その格好寒くないのか?」
「助けてほしいの?でも困ってるように見えないわね?」
「それ楽しい?それ楽しい?」
寒い外でガラスなんかにほっぺたをくっつけたら、肌、ガラスにくっついちゃわない?なんて思っていたら案の定、顔がひっついてしまったことに気づきバタバタ暴れだす4人。
「い、痛いぞ!取れないぞ!」
「罠なの?これは悪魔族を捕まえる罠なのね?」
「ねぇねぇ、助けるから、助けて?」
「それ楽しい?それ楽しい?」
やはり悪魔族だったようだ。しかし子供みたいに騒ぐ4人の姿には怖さのかけらもない。見た目は殺したい名前を書き込んだら叶うノートを持ってると見える系の悪魔に近いのだが如何せん小さい。大体小学生位の背丈だから悪魔のコスプレした子供達のようだ。トリックオアトリート。お菓子上げた方がいいのかな?
「「「お願い…。これ取って…。」」」
「それ楽しい?それ楽しい?」
呆気にとられているうちにどうにもならなくなり涙ながらに訴えてくる4人…いや3人か。1人は今だキラキラした目で食い入るように俺の手元で燃える花火を凝視している。
「まぁ、その、害はなさそうだし、なによりちょっとかわいそうだから助けてあげるか…。」
俺はタオルに熱湯を染み込ませ、頬が張り付いてしまった壁の内側、つまり俺側に当てる。すると壁が一瞬暖まり、凍りつき張り付いた皮膚の表面が解けたことでスルッと外れていく。
「おぉ、取れたぞ!助かった…。」
「危なかった…。どうやってここで暮らしていくか考えずに済んだわ。」
「お前命の恩人!だから助けてやるぞ!」
「それ楽しい?それ楽しい?」
ここで暮らすって…前向きな悪魔だな。しかし4人目だけ溶かしてやってもおでこをくっつけたまま離れようとしない。仕方なく花火を消すと漸く視線を俺に向ける。すると何が恥ずかしかったのかスススと隣の悪魔族の後ろに隠れてしまった。でもよくみると後ろでペコリと頭を下げている。夢中になると周りが見えなくなるシャイキャラのようだ。それにしても、近くで見てみて気づいたのだが、4人は小刻みに震えていて寒そうにしている。俺はため息をつき、入り口の方を指差し行くように仕向けると、自らも入り口へ移動しドアを開けてあげた。
「すごい!ここあったかいぞ!あ、お邪魔します。」
「本当、天国ってここにあったのね。あ、お邪魔します。」
「さぁ早速助けるぞ!何を助けてほしいんだ?あ、お邪魔します。」
「ぉ…ぉじゃまします…。」
悪魔族の4人は全員律儀に挨拶しながら丁寧に入ってくる。ちゃんと入り口で靴を脱いで。どうやら俺が靴を履いていないのと、入り口横に靴が置かれているのに気づいたようだ。きちんと自分たちの靴を俺の靴の横に並べている。俺が4人を案内し、ソファーをすすめるとと素直に並んで席につく。そしてソファーのふかふかさに驚き、目を閉じ堪能しだす。俺はその様子に笑いを堪えつつお客様に紅茶を用意してあげることにした。牛乳と蜂蜜、更に茶菓子として回遊粉入りでない普通のクッキーあたりで良いだろう。
「紅茶、お好みで牛乳。甘いのが好きな人は蜂蜜を入れて飲んでね。甘いお菓子は好き?クッキーいっぱいあるから足りなかったら言ってね。」
俺がお手本として紅茶に牛乳、蜂蜜を入れて飲み、更にクッキーを一つ口に放り込むと、初めて見たからなのか紅茶もクッキーも見様見真似で口に運ぶ4人。そして口に入れた瞬間同時に目を見開きすごい勢いで紅茶を飲み干す。続いて皿のクッキーも一瞬で食べ尽くしてしまった。そして4人が一斉に泣き出す。
「え、え、無くなって悲しくなったの??ちょ、ちょっとまってて…。」
急な涙に俺は慌てて奥からありったけのクッキーを持ってきて机に出す。するとそれを見た4人は更に泣き出しクッキーを手に取る。しかし今度はなぜか食べようとはしなかった。
「大丈夫?口に合わなかったかな?無理に食べなくていいよ?」