飯テロ⑩旨いは飽きる
失敗したっていいじゃない。それもいい経験と思えばいい。
「完全に敗北だな。」
いつの間にか現れ、【ビリヤニ】や【フェタチーズとミニトマトのハンバーグパスタ】、【トマトのかき氷パスタ】を三角食べしながらガルゥボーイが言い放った。
「敗北とは?」
「そりゃお前、人族が全く食いついてこなかったじゃないか。敗北だろ?」
「確かに、初日以降は追いかけ回されることもなかったわけだけど、俺たちはうまい匂いで羨ませられればそれでいいというか…。」
「あいつらは飯で満足していた。そりゃ物珍しい匂いを気にしていたが、それまでだったわけだ。」
「でも…。」
ガルゥボーイの言う通りだった。2日目以降、人族は毎日とはならないが旨そうな飯を食っていた。しかもいい感じで焦げた味噌の匂いを撒き散らして。味噌は人族にとっても貴重な調味料なのだとばかり思っていたがあいつらは普通に使っていた。その翌日には「お、今日はむらさき飯か!」と湧き立つ声と共に、醤油香る焼き飯まで披露され、味噌と醤油の偉大さを再確認させられてしまった。醤油だって高級品なはずなのに。
昔寿司屋で醤油のことをむらさきと呼ぶのだと教わったことがある。これは江戸時代に紫色の染料が高級で、同じく高級な調味料であった醤油を粋な人がむらさきと呼んだことに始まるらしい。人族の騎士達を見ていると、位の高そうなリーダー的ポジションの騎士の鎧に紫色の装飾が施されていた。どう言うわけかこの世界でも醤油をむらさきと呼んでいることから、醤油が高級品であることが予想される。
「もし味噌や醤油が自由に使える状態だったら…そこまでうまいものに飢えていないってことになるな。同じうまいものなら、慣れ親しんだ好物の方が好まれる。苦労してまで俺達の食い物を奪う必要もないのか…。」
「そう言うことだ!まぁ、俺は旨いにありつけて満足だがな!」
山盛りの【ビリヤニ】を掻き込みながら満足そうなガルゥボーイ。しかし、実はこの食事を食べているのはガルゥボーイだけだった。他のみんなはハンバーグに白飯と味噌汁、ポテトサラダに肉野菜炒め。食べ慣れたものが一番なのだそうだ。
「豪華な食事はたまにが一番だからな。」
「でも【ビリヤニ】も【フェタチーズとミニトマトのハンバーグパスタ】も【トマトのかき氷パスタ】も家庭料理なんですけどねぇ。」
「お前のところの奴らは米に合うハンバーグを食べ慣れてるし、ノマディも野菜炒めや芋が多いから、スパイスや冷たいもんより良かったんだろうよ。チーズとトマトのやつはしっかりとした味してるから、単純に飽きたんだろう。」
「家庭料理だから飽きないはずなんですけどねぇ…。」
家庭料理が飽きない理由は科学的にもある。家庭で料理をする場合、大雑把に味付けをしたり、季節に応じて味を調整するからいつも全く同じ味にはならない。だから脳は同じと捉えず、毎日食べても飽きないのだという。そう考えると、いくら家庭料理とは言え、食べ慣れてないものは味のインパクトが強く、脳も毎日同じものを食べている感覚になってしまうのかもしれない。多少の味変などではごまかせないくらいに。
そんな感じだったからか、人族も毎日食べられる家庭料理の好物に満足し、わざわざカロリーの高い“襲う”行為をしてまでこちらの食事を奪う必要がなくなってしまったのだ。チラチラこちらを気にするものも確かにいたのだが、3000人の一行は数日かけて俺達の横を素通りしていったのだった。
「しかし、敵には賢いリーダーがいるようだな。飯を使ってあっという間に部下達の心をコントロールして、余計な被害を回避しおった。まるでお前みたいだ。」
「…コウウか。」
通り過ぎていく途中、一度足を止め、こちらに視線を向ける姿に楽もしっかり気づいていた。前回潜入していたときとは姿が違うし、あの距離から俺達の容姿を確認できていたかもわからないが楽達には見えていた。あの大豆の村、ソッジャでも、コウウは飯の重要性に気付き、飯を使って部下達の士気をコントロールしていた。どこでもYEAHにある地球の知識と技術があればイージーモードだと思っていたが、どの世界にも天才は現れるものだ。方や義務教育で教えてもらっただけの知識、方や自ら思考したどり着いた知識、劣等感を感じざるを得ず、嫉妬と羨望と恐怖と興味、複雑な気持ちを覚える楽だった。
そんな楽とガルゥボーイの下にノマディ族の爺さん達がやってきた。
「わしらそろそろ村に帰ることにするよ。」
「人族も行ってしまったしのぉ。」
「そうですか…。なんか、すみません。もっと人族に仕返ししたかったんですけど…。」
「そんなことないぞ!悔しがる顔は拝めたし、旨い飯も食えた。何よりお前さん達のおかげで十分な食料を確保できたんじゃ、感謝してもしきれんわい。」
「でも…。」
「それに、意趣返しなんぞ頑張っても虚しくなるだけじゃ。次は嫌な思いしないよう考えればいいんじゃ。よい勉強になったっちゅうもんよ。人族にも感謝じゃな、わっはっは!」
「こんな少ない人数なのに奴らわしらの事を捕まえることができなかった。実に爽快じゃったよ。ふぉっふぉっふぉ!」
帰ると決めてからの爺さん達は早かった。こだまに作ってもらった食料運搬の荷台に村へと持って帰る食材を積み込み、クルに荷台全体を冷蔵庫へと変えてもらい、エティ作の防犯装置まで搭載し、昼食を食べたらさっさと旅立って行った。
「移動の速さこそ、ノマディ族の強さなのかもね。」
「遊牧民は技術を極振りしているからな。」
「そう考えると、爺さん達の逃げの技術で一泡吹かせることはできたけど、料理での嫌がらせは完全に不発だったなぁ。」
「まぁ、これもいい経験。次は思考をこらせばいいんじゃないか?面白いの期待しているぞ。」
ガルゥボーイと並び、去っていくノマディ族を見送りながら今回の戦いを思わず噛み締める。ガルゥボーイはどこか俺達の活動をエンターテインメントとして楽しんでいるようだ。話題いらずのエティが俺達と行動を共にしてしまっているので、たまに現れて俺達の変な戦い方を面白がる。だったら次はもっと俺も楽しんで飯テロしないとだな。飯に満足したのか、ガルゥボーイ達も仕事へ戻ると言った途端ふわっと姿が消え、ただただ広がる大地に向かって思わず呟いた。しかし、ボーッとしていても始まらない。気を取り直し昼食の片付けをしていたリア達の下にもどる。
「さて、俺達も出発するか!」
「ん?どこへ行くんだぞ?」
飽き性のエティがワクワクした表情で聞いてくる。
「リックのお父さんのとこ行くの?」
クルは、友達のおとうさんを助けに行くのかと、期待の目を向ける。
「トラムンターナ?」
そしてこだまは、俺の思考を読んでか的確な推理。
「うん、こだま正解。トラムンターナに先回りしようと思う。」
「リックのお父さんは?」
「3000人の兵が合流しちゃうし、追いかけても止められないかもしれない。だったらトラムンターナに先回りして、戦いが起こらないように、起こったとしてもリックの父さん達が怪我しないように準備した方がいいと思うんだ。」
「そうなの?リックのお父さん危なくない?」
俺の説明に不安を感じたのか、リアに質問を投げかけるクル。くぅ、リアの方が信用されている、ちょっと嫉妬しちゃうぞ。
「戦いにならなければ多分危なくない。でも戦いになったら最初に怪我するのはリックのお父さん達になると思う。だったらトラムンターナに先回りして準備するのがいいと思うよ。」
「な、な、先回りした方がいいだろ?」
「オラは人族のところに行って目を覚まさせた方がいいと思うぞ!」
「あのな、目を覚まさせても人族に囲まれた状態だったら逃げ出せないだろ?」
「そんなの、バーンでドーンでバーってすれば問題ないぞ!」
「いや全然わかんないんですけど?こだまはどう思う?」
必要以上に胸を張ってクルに視聴するエティ。こうなったら困ったときのこだま様だ。
「トラムンターナの魔族凄くつよい。魔族に戦ってもらったらすぐ終わる。」
「ほら、こだまもこう言ってるし。」
「…うん。」
「でもトラムンターナって動くの嫌いなんでしょ?戦ってくれるの?」
「まぁ、そこは、…なせばなる!とにかく出発だ!」
リアの疑問はさておいて、悩んでいても始まらない。いざ先へ進むとしよう。




