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草原の狩人

今回は草原での探索となります。


 両親との面会が終わると、天宮ソラは閉じられた病室の扉をしばらく見つめていた。


 父と母から教えてもらった情報が、頭の中に残っている。


 冒険者ギルドの指定するクエスト。


 東の森にいる主。


 そして、Fランクへの昇格。


 冒険者ランクを上げれば、透明な壁の向こうへ進める。


 昨日は遠くから眺めることしかできなかった森の先や、街道の続く場所へ飛んでいける。


「森の主を倒す」


 ソラはベッドのそばに置かれたVR端末を手に取った。


 身体を横たえ、慣れ始めた手つきでヘッドギアを装着する。


「ログイン」


 視界が白い光に包まれた。


     ◇


 光が収まると、ウィンダはアステリア中央広場の巨大なクリスタルの前に立っていた。


 石畳の広場を行き交う冒険者たち。


 店の呼び込みをするNPC。


 城門から町へ入ってくる商人と馬車。


 昨日と変わらない、活気に満ちた始まりの町だった。


 ウィンダは頭上に広がる青空を見上げた。


 今すぐ飛び上がりたい。


 けれど、今日は先にやることがある。


 翼を広げることなく、中央広場の正面に建つ冒険者ギルドへ向かって歩き始めた。


 昨日は登録する場所が分からず、最も長い列へ並んでしまった。


 しかし、今日は違う。


 ギルドの扉を開けたウィンダは、受付の列へは向かわなかった。


 広い室内の右側。


 多数の依頼書が貼り出された、大きなクエストボードの前へまっすぐ進む。


「こっち」


 今回は間違えていない。


 ウィンダは少しだけ満足そうに頷いた。


 クエストボードには、冒険者ランクごとに分けられた依頼書が並んでいた。


 上位ランクの区画には、護衛、遺跡調査、危険なモンスターの討伐など、さまざまな依頼が貼られている。


 現在のウィンダの冒険者ランクは、最下級のGランク。


 彼女が受注できる依頼は、ボードの一番下にまとめられていた。


 ウィンダがGランクの区画へ近づくと、貼られている依頼の内容が自動的に表示される。


---


## Gランク指定クエスト


### アステリア周辺草原


『一角ウサギを20体討伐する』


『ウルフを10体討伐する』


『回復草を30本採取する』


『導き虫を5匹採取する』


### 東の森


『ビッグラットを30体討伐する』


『ホーネットを10体討伐する』


『レッサーバグを20体討伐する』


『静め草を30本採取する』


『硬いクルミを20個採取する』


『マジックマッシュを20個採取する』


---


 ウィンダは一枚ずつ依頼書を眺めた。


 父が調べてくれた攻略情報によれば、GランクからFランクへ昇格するためには条件がある。


 まず、アステリア周辺の草原を対象にした四つの指定クエストを、すべて達成する。


 次に、東の森を対象にした六つの指定クエストから、四つ以上を達成する。


 そのうえで、東の森の主である、


『ツインハンドグリズリー』


 を討伐しなければならない。


 それらを終えることで、ようやくFランクへの昇格資格を得られる。


 通常の初心者なら、どのクエストから始めるべきか悩むところだった。


 討伐を優先するか。


 採取を先に進めるか。


 ほかのプレイヤーとパーティーを組むか。


 しかし、ウィンダは迷わなかった。


「草原のクエストは全部」


 翼の爪で、草原の依頼書を順番に触れていく。


『一角ウサギを20体討伐する』


『受注しました』


『ウルフを10体討伐する』


『受注しました』


『回復草を30本採取する』


『受注しました』


『導き虫を5匹採取する』


『受注しました』


 視界の端に、受注した四つのクエストが一覧で表示された。


---


『一角ウサギ討伐 0/20』


『ウルフ討伐 0/10』


『回復草採取 0/30』


『導き虫採取 0/5』


---


「これでいい」


 ウィンダはボードから離れた。


 これから草原へ向かいたいところだったが、その前に準備しなければならないことがある。


 腰のウェストポーチを確認する。


---


『旅人のウェストポーチ』


『収納数:3/3』


『低級ポーション ×3』


『一角ウサギの角 ×1』


『風切り羽 ×1』


---


「いっぱい」


 このままでは、回復草や導き虫を採取しても持ち帰れない。


 ウィンダはギルドの奥にある倉庫受付へ向かった。


「いらっしゃいませ。ギルド倉庫をご利用ですか?」


 受付の男性職員に尋ねられ、ウィンダは頷く。


「全部、預ける」


「お持ちの通常アイテムをすべてですね」


「うん」


 職員がギルドカードを確認すると、ウィンダの前に倉庫画面が表示された。


 低級ポーション三本。


 一角ウサギの角。


 ウィンドイーグルから手に入れた風切り羽。


 ウィンダは、それらをすべて倉庫へ移動させた。


---


『ギルド倉庫』


『低級ポーション ×3』


『一角ウサギの角 ×1』


『風切り羽 ×1』


---


『旅人のウェストポーチ』


『収納数:0/3』


---


「預けた品物は、いつでもこちらから引き出せます」


 ギルドカードやドッグタグは重要品のため、通常の収納枠には数えられない。


 必要な三つの収納枠が、すべて空いた。


 ウィンダは受付の職員へ小さく頭を下げると、冒険者ギルドの外へ出た。


 扉を抜けた瞬間、待ちきれなかったように翼を大きく広げる。


「行く」


 翼が風を掴んだ。


 ウィンダの身体は石畳から浮かび上がり、そのまま建物の屋根よりも高い場所まで上昇する。


 中央広場。


 町を囲む城壁。


 東西南北へ続く四つの大通り。


 昨日も見た景色が、一瞬で眼下へ広がった。


 ウィンダは城壁の外に広がる草原へ身体を向ける。


 一度強く羽ばたくと、始まりの町を飛び越えていった。


     ◇


 アステリア周辺の草原へ到着したウィンダは、すぐにモンスターを探し始めた。


 普通のプレイヤーであれば、背の高い草をかき分けながら広い草原を歩き回らなければならない。


 一角ウサギやウルフは珍しいモンスターではない。


 しかし、クエストに必要な数が多い。


 ほかの冒険者が先に戦っていることもあり、目標数を探すだけでも相応の時間がかかる。


 ウィンダには、その必要がなかった。


 地上からでは草に隠れて見えない場所も、空からなら一目で確認できる。


 さらに、昨日習得したスキル《鷹の目》が、遠くにいる小さな生き物の姿を捉えていた。


 草の揺れ。


 地面を動く影。


 わずかに見える白い毛。


 ウィンダは草原の上をゆっくり滑空しながら、地上へ視線を巡らせる。


「いた」


 少し離れた場所で、三匹の一角ウサギが草を食べていた。


 ウィンダが飛んでいる場所からは距離がある。


 一角ウサギたちは、まだこちらの存在に気づいていない。


『一角ウサギ Lv1』


『一角ウサギ Lv1』


『一角ウサギ Lv1』


 《鷹の目》によって、離れた場所からでもモンスターの姿と情報をはっきり確認できる。


 ウィンダはすぐには近づかなかった。


 翼を動かし、三匹の真上へ回り込む。


 さらに高度を上げていく。


 青空の中に溶け込むような淡い髪と翼を持つウィンダの姿は、地上からでは小さな点にしか見えない。


 一角ウサギたちは何も知らず、草を食べ続けている。


 十分な高さへ到達すると、ウィンダは翼を畳んだ。


 身体を下へ向ける。


 重力に引かれ、一気に落下が始まった。


 風が羽毛の表面を激しく流れていく。


 地上の三匹が、急速に近づいてくる。


 猛禽類が獲物を狙うような急降下。


 標的は、群れの端にいる一匹。


 地面へ激突する寸前、ウィンダは翼を開いた。


 翼が大量の風を受け止める。


 落下の勢いを前方への速度へ変えながら、鳥の脚を突き出した。


「見つけた」


 鉤爪のある両脚が、一角ウサギの背中へ叩き込まれた。


『急降下による強襲に成功しました』


『一角ウサギに23ダメージ』


『一角ウサギを討伐しました』


 一角ウサギの身体が地面へ押しつけられ、そのまま光の粒へ変わっていく。


 突然空から仲間が襲われ、残された二匹はすぐに反応できなかった。


 逃げることも、攻撃することもなく、その場で戸惑うように動きを止める。


 ウィンダは地面を蹴った。


 格闘スキルの補正を受けた身体が、二匹目の一角ウサギとの距離を一気に詰める。


 身体を回転させながら、鳥の脚を横へ振り抜いた。


 鉤爪のついた脚が、一角ウサギの胴体を捉える。


『一角ウサギに14ダメージ』


『一角ウサギを討伐しました』


 二匹目が光となって消える。


 最後に残された一角ウサギが、ようやくウィンダを敵として認識した。


 額の角を向けて、突進しようと地面を蹴る。


 しかし、すでに遅い。


 ウィンダは翼の先にある四本の爪を開き、横から一角ウサギの身体を引っかいた。


『一角ウサギに7ダメージ』


 一角ウサギが地面の上を転がっていく。


 吹き飛ばされたモンスターが体勢を立て直すより早く、ウィンダは翼を広げて低く跳んだ。


 空中で鳥の脚を前へ突き出す。


「もう一回」


 飛び蹴りが一角ウサギの身体へ命中した。


『一角ウサギに11ダメージ』


『一角ウサギを討伐しました』


 三匹目の一角ウサギも光の粒となり、草原の風に溶けるように消えていった。


---


『一角ウサギ討伐 3/20』


---


 ウィンダは地面へ降り立ち、自分が飛び降りてきた空を見上げた。


 敵に気づかれないほど高い場所から発見する。


 真上へ回り込み、急降下する。


 最初の一匹を倒し、混乱した残りの敵を連続で仕留める。


 思ったとおりに身体が動いた。


「うまくできた」


 ウィンダの口元に、満足そうな笑顔が浮かぶ。


 そのとき、一角ウサギたちがいた場所の近くで、何かが光った。


 ウィンダは首をかしげ、光の方へ近づく。


 草の間に、小さな硬貨が落ちていた。


『5ガルドを獲得しました』


「お金」


 ウィンダは翼の爪で硬貨を拾う。


 手に触れた硬貨は光となって消え、所持金へ加算された。


---


『所持金:85ガルド』


---


 昨日の買い物を終えた時点で、残っていた所持金は八十ガルド。


 たった五ガルドとはいえ、初めて自分でモンスターを倒して得たお金だった。


「増えた」


 ウィンダは嬉しそうに呟く。


 草原には、まだ十七匹の一角ウサギがいる。


 ウィンダは翼を大きく広げた。


「もっと狩る」


 地面を蹴り、再び空へ舞い上がった。


     ◇


 ウィンダにとって、一角ウサギは非常に相性の良い相手だった。


 普通のプレイヤーが近づけば、モンスターは足音や姿に気づき、警戒態勢へ移行する一角ウサギ。


 正面から近づけば突進され、横へ回り込もうとしても素早く距離を取られる。


 だが、地上しか警戒していない一角ウサギは、自分たちよりも遥かに高い空から見つめられていることに気づけない。


 ウィンダは《鷹の目》を使い、モンスターがこちらを認識できない距離から姿を発見する。


 そのまま上空へ回り込み、急降下による強襲を仕掛ける。


 最初の一撃で一匹を倒す。


 近くに仲間がいれば、混乱している間に爪とキックで仕留める。


 もし一撃で倒せなくても、上空へ逃げれば、一角ウサギの角は届かない。


 しばらく空から探し、発見すれば急降下する。


 一匹。


 三匹。


 二匹。


 四匹。


 ウィンダは草原の上を飛び回りながら、次々と一角ウサギを狩っていった。


 まさにその姿はウサギを狙う猛禽類そのものであった。


---


『一角ウサギ討伐 6/20』


『一角ウサギ討伐 9/20』


『一角ウサギ討伐 11/20』


『一角ウサギ討伐 15/20』


---


 草原を歩く必要もない。


 障害物に視界を遮られることもない。


 ほかのプレイヤーが狩りをしている場所を避けながら、まだ誰も近づいていない一角ウサギの群れを探せる。


 広い草原を移動する速度も、地上を走るプレイヤーとは比べものにならない。


 最後の五匹は、町からかなり離れた草原の端で見つけた。


 一角ウサギたちは円を作るように集まり、周囲を警戒している。


 ウィンダは正面から向かわず、太陽を背にする位置まで飛んだ。


 強い日差しの中から急降下すれば、地上から彼女の姿はさらに見つけにくい。


「今度は、あそこ」


 翼を畳む。


 ウィンダの身体が、青空から一気に落下した。


 最初の一匹を両脚で地面へ叩きつける。


 その反動で跳び上がり、翼の爪で二匹目を引き裂く。


 三匹目の突進を横へ飛んで避け、その背中を蹴る。


 逃げようとした四匹目の前へ回り込み、翼を振って吹き飛ばす。


 最後の一匹が角を向けて跳びかかってくる。


 ウィンダは翼を一度だけ羽ばたかせ、真上へ浮かんだ。


 一角ウサギの身体が、足元を通り過ぎる。


「そこ」


 空中で身体を反転させる。


 降下の勢いを乗せた蹴りが、最後の一角ウサギへ命中した。


『一角ウサギを討伐しました』


---


『一角ウサギ討伐 20/20』


『クエスト目標を達成しました』


『冒険者ギルドで報告してください』


---


「終わった」


 ウィンダは草原へ降り、討伐数の表示を見つめた。


 クエストボードの前に立ってから、まだそれほど時間は経っていない。


 多くの初心者を苦労させる二十体の討伐クエストを、ウィンダは短時間で終えてしまった。


 倒した一角ウサギたちがいた場所には、何枚かのガルド硬貨が落ちている。


 ウィンダは草の間を歩き、一枚ずつ拾い集めた。


『8ガルドを獲得しました』


『12ガルドを獲得しました』


『6ガルドを獲得しました』


『10ガルドを獲得しました』


『15ガルドを獲得しました』


 最初に拾った五ガルドと合わせ、今回の狩りで手に入れたのは五十六ガルド。


---


『所持金:136ガルド』


---


「136」


 昨日よりも増えている。


 ウェストポーチへ物を入れたわけではないため、収納枠も空いたままだった。


 回復草と導き虫を見つけても、問題なく持ち帰ることができる。


 ウィンダが所持金の表示を眺めていると、身体が淡い光に包まれた。


『経験値が一定値に達しました』


『レベルが上がりました』


『Lv3からLv4になりました』


『HPが3上昇しました』


『STRが2上昇しました』


『DEFが2上昇しました』


 光が羽毛の表面を流れ、やがて消えていく。


 ウィンダは自分のステータスを開いた。


---


 名前:ウィンダ

 種族:ハーピー

 レベル:4

 冒険者ランク:G


 HP:25/25

 MP:34/34


 STR:10

 DEF:6

 VIT:9

 INT:15

 DEX:11

 AGI:33

 LUK:21


 所持金:136ガルド


 受注中クエスト:


『一角ウサギ討伐 20/20』


『ウルフ討伐 0/10』


『回復草採取 0/30』


『導き虫採取 0/5』


---


 レベルが上がった。


 力が増え、防御力も高くなった。


 そして、所持金も増えた。


 ウィンダは翼を開閉し、身体の感覚を確かめる。


 昨日よりも強くなった実感は、まだそれほどない。


 それでも、数字が増えるのは悪くなかった。


「満足」


 残る草原のクエストは三つ。


 回復草と導き虫も探さなければならないが、次はもう一つの討伐対象を見てみたかった。


「ウルフ」


 ウィンダは空へ視線を向ける。


 翼を広げ、地面を蹴った。


 一度の羽ばたきで草原の上空へ上昇すると、《鷹の目》を使って遠くまで見渡す。


 一角ウサギよりも大きな身体。


 群れで行動する、狼型のモンスター。


 草原を吹き抜ける風に乗りながら、ウィンダは次の獲物を探し始めた。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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