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10/29

草原のクエスト


 一角ウサギ二十体の討伐を終えたウィンダは、次の獲物を探すため、再び草原の上空へ飛び上がった。


 次の討伐対象は、ウルフ。


 名前から考えれば、おそらく狼のようなモンスターだろう。


 現実のソラは本物の狼を見たことがない。


 けれど、テレビや図鑑で姿を見たことはあった。


 灰色の毛。


 尖った耳。


 鋭い牙。


 群れで獲物を追いかける肉食獣。


「狼、探す」


 ウィンダは翼を広げ、草原の上をゆっくりと滑空する。


 城壁に近い場所では、一角ウサギやほかの冒険者の姿が多かった。


 そこから東の森へ近づくにつれて草丈が高くなり、モンスターの種類も少しずつ変化していく。


 ウィンダは《鷹の目》を使い、遠くまで視線を巡らせた。


 風に揺れる草。


 岩陰。


 わずかに窪んだ地面。


 地上を歩いて探すよりも、遥かに広い範囲を一度に確認できる。


「いた」


 森の手前。


 灰色の獣が二匹、草原の中を並んで歩いていた。


 身体の大きさは、一角ウサギよりもずっと大きい。


 尖った耳を動かし、ときどき地面の匂いを嗅いでいる。


『ウルフ Lv3』


『ウルフ Lv3』


 名前を確認したウィンダは、静かに高度を上げた。


 ウルフは二匹とも地上へ注意を向けており、空にいるウィンダには気づいていない。


 一角ウサギと同じように、上空から奇襲できる。


 ウィンダは二匹の真上へ回り込む。


 翼を畳み、身体を下へ向けた。


 風を切りながら、一気に急降下する。


 狙うのは、後ろを歩いていた一匹。


 地面が近づいた瞬間、翼を開いて落下の勢いを前方へ変える。


 ウィンダは翼の先にある四本の爪を広げた。


「見つけた」


 勢いを乗せた爪が、ウルフの背中を深く引っかいた。


『急降下による強襲に成功しました』


『ウルフに18ダメージ』


『ウルフに裂傷を与えました』


 灰色の毛が散り、ウルフの身体が地面の上を滑る。


 しかし、一角ウサギのように一撃で倒れることはなかった。


「生きてる」


 倒れたウルフはすぐに身体を起こす。


 低いうなり声を上げながら振り返り、大きく口を開いた。


 並んだ牙が、ウィンダの脚を狙う。


 ウィンダは地面を軽く蹴った。


 噛みつきが届く寸前、身体を横へ滑らせる。


 ウルフの牙は空を噛み、ウィンダの羽毛をわずかに揺らしただけだった。


 そのまま翼を広げ、相手から距離を取る。


 だが、ウィンダが最初の一匹に気を取られている間に、もう一匹のウルフが動いていた。


『ガウッ!』


 横から勢いよく飛びかかってくる。


 ウィンダは迫るウルフへ顔を向けた。


 地上で避けるより、飛んだ方が早い。


 翼を一度大きく羽ばたかせる。


 身体が真上へ浮かび、ウルフの前脚が足元を通り過ぎた。


 ウルフは着地しようと身体を伸ばす。


 その無防備な背中へ、ウィンダは空中から脚を振り下ろした。


 鉤爪のついた足が、背骨の近くへ叩き込まれる。


『ウルフに15ダメージ』


 ウルフの身体が草の上へ倒れ込む。


 それでも、まだ消えない。


 二匹のウルフはすぐに立ち上がると、互いに少し距離を取りながらウィンダを挟もうとした。


 一角ウサギとは違う。


 攻撃を受けても逃げず、二匹で連携して襲いかかってくる。


「強い」


 けれど、怖くはなかった。


 ウィンダの口元には、わずかな笑みが浮かんでいる。


 二匹のウルフが同時に地面を蹴た。


 ウィンダは翼を広げ、そのまま上空へ舞い上がる。


 二匹の牙は、どちらも彼女へ届かなかった。


 遠距離攻撃を持たないウルフたちは、空を見上げながら吠えている。


 ウィンダは安全な高さで翼を広げた。


「ウィンド・カッター」


 詠唱を始めると、飛行中の身体へ強い制動がかかる。


 空中に固定されるように速度が落ち、その正面へ圧縮された風が集まっていく。


 二匹のウルフが真下を走り回る。


 だが、いくら跳び上がっても届かない。


 最初の風の刃が完成した。


「飛んで」


 三日月形の風が地上へ放たれる。


『ウルフに14ダメージ』


『ウルフを討伐しました』


 最初に奇襲を受けたウルフが切り裂かれ、淡い光の粒となって消える。


 残ったウルフは仲間が消えた場所を一瞬見たあと、再びウィンダへ牙を向けた。


 逃げる様子はない。


「もう一つ」


 ウィンダは再び詠唱を始めた。


 風が集まり、二つ目の刃を作り出す。


「ウィンド・カッター」


 放たれた風の刃が、残ったウルフの胴体へ命中した。


『ウルフに16ダメージ』


『ウルフを討伐しました』


 二匹目も光となり、草原から消えていった。


---


『ウルフ討伐 2/10』


---


 ウィンダは地上へ降りようと翼を傾けた。


 その瞬間、全身が淡い光に包まれる。


『経験値が一定値に達しました』


『レベルが上がりました』


『Lv4からLv5になりました』


『MPが2上昇しました』


『DEXが3上昇しました』


『INTが1上昇しました』


『LUKが1上昇しました』


 続けて、新たな通知が表示された。


『《魔法(初級風魔法)》の熟練度が一定値に達しました』


『《魔法(初級風魔法)Lv1》が《魔法(初級風魔法)Lv2》へ成長しました』


『新たな魔法《エアーショット》を習得しました』


『新たな魔法《ウィングブースト》を習得しました』


 ウィンダは空中に浮かんだまま、二つの魔法の説明を開いた。


---


『エアーショット』


 バスケットボールほどの大きさに圧縮した風の塊を射出する。


 対象へ風属性の衝撃を与え、命中した相手を後方へ押し戻す。


---


『ウィングブースト』


 自身の翼と周囲の気流を魔力で補助する。


 一定時間、AGIと飛行速度に補正を得る。


---


「新しい魔法」


 ウィンダは嬉しそうに翼を動かした。


 しかし、すぐに別のことへ気づく。


「さっき、上がったばかり」


 一角ウサギを二十体倒し、レベルが四になった。


 そのあとウルフを二体倒しただけで、もうレベル五になっている。


 ウィンダは少し首をかしげた。


 同じモンスターでも、得られる経験値が違う。


 一角ウサギよりもウルフの方が強かった。


 倒すのに必要な攻撃回数も多い。


「ウルフの方が、強くなる?」


 父が見せてくれた初心者向けの情報に、強いモンスターほど多くの経験値を得られると書かれていた。


 ウルフを倒せば、早くレベルが上がる。


 さらに、一角ウサギよりも高額のガルドを落とす可能性がある。


「もっと探す」


 ウィンダのやる気が、目に見えて増した。


     ◇


 ウルフは一匹では行動していなかった。


 二匹から四匹ほどの小さな群れを作り、草原を移動している。


 一角ウサギよりも身体が大きいため、空から探すのも簡単だった。


 ウィンダは《鷹の目》を使い、森の近くを飛び回る。


「三匹」


 岩陰を歩くウルフの群れを発見する。


 ウィンダは上空へ移動すると、新しく覚えた魔法を試すことにした。


「ウィングブースト」


 詠唱が始まり、一瞬だけ身体が空中で固定される。


 魔法が完成すると、淡い緑色の風が翼の周囲を流れ始めた。


 羽毛の一本一本が、風に押されるように軽くなる。


 試しに翼を一度羽ばたかせた。


「速い」


 ウィンダの身体が、普段よりも鋭く前へ飛び出す。


 予想以上の加速に一瞬驚いたものの、すぐに翼の角度を調整した。


 上空で旋回し、三匹のうち一匹へ狙いを定める。


 翼を畳み、急降下。


 地面へ向かって速度を上げていく。


 そこへ《ウィングブースト》の補正が加わった。


 周囲の景色が一気に流れる。


 ウルフが上空の気配に気づき、顔を上げた。


 しかし、もう遅い。


「そこ」


 加速した飛び蹴りが、ウルフの身体へ直撃する。


『ウィングブーストによる速度補正』


『急降下による強襲に成功しました』


『ウルフに29ダメージ』


『ウルフを討伐しました』


 一撃だった。


 ウルフの身体が吹き飛び、光の粒へ変わる。


 残された二匹が同時にウィンダへ飛びかかってきた。


 ウィンダは速度の上がった翼を使い、二匹の間をすり抜ける。


 急旋回し、少し離れた場所へ着地した。


 二匹のウルフがこちらへ向き直る。


 ウィンダは正面に翼を構えた。


「エアーショット」


 風が球状に集まっていく。


 ウィンド・カッターの鋭い風とは違う。


 押し固められた大量の空気が、目の前にバスケットボールほどの風の玉を作った。


 ウルフが真正面から突進してくる。


 ウィンダは完成した魔法を放った。


「飛んで」


 風の玉が突進してきたウルフの胸へ命中する。


『ウルフに17ダメージ』


『ノックバックに成功しました』


 鈍い衝撃音とともに、ウルフの身体が後方へ吹き飛ばされた。


 地面を何度も転がり、岩へ背中をぶつける。


 もう一匹のウルフが横から襲いかかる。


 ウィンダは《ウィングブースト》の速度を生かして跳び上がると、すれ違いざまに翼の爪を振った。


 ウルフの横腹を切り裂き、そのまま上空へ逃れる。


 あとは、敵の攻撃が届かない場所から魔法を撃つだけだった。


 ウィンド・カッター。


 エアーショット。


 再びウィンド・カッター。


 地上しか走れないウルフたちは、空から降り注ぐ魔法に対抗することができない。


 風の刃に切り裂かれ。


 風の玉に吹き飛ばされ。


 一匹ずつ光となって消えていった。


---


『ウルフ討伐 5/10』


---


 それからも、ウィンダは次々とウルフを見つけた。


 二匹の群れ。


 四匹の群れ。


 森の近くを巡回していた三匹の群れ。


 最初の一匹には、《ウィングブースト》を使った急降下攻撃。


 残った敵には、上空から魔法を放つ。


 ウルフが散らばれば《ウィンド・カッター》で一匹ずつ狙い、まとまって突進してくれば《エアーショット》で正面から吹き飛ばす。


 新しい魔法は、どちらもウィンダの戦い方と相性がよかった。


 飛行速度を高める《ウィングブースト》。


 近づいてくる敵を押し戻す《エアーショット》。


 使えば使うほど、攻撃へ入る角度や、魔法を放つ距離が分かってくる。


 ウルフは一角ウサギよりも強い。


 だが、ウィンダに攻撃できるのは、彼女が地上へ降りてきた瞬間だけだった。


 奇襲が終われば、ウィンダはすぐに空へ戻る。


 遠距離攻撃手段を持たないウルフたちは、空を見上げて吠えることしかできなかった。


---


『ウルフ討伐 8/10』


『ウルフ討伐 10/10』


『クエスト目標を達成しました』


---


 目標数へ到達しても、ウィンダはすぐに狩りをやめなかった。


 ウルフは経験値が多い。


 落とすガルドも、一角ウサギより高額だった。


 必ず硬貨を残すわけではないが、落とした場合は三十から五十ガルドほど手に入る。


「もう少し」


 そのまま新しい魔法を試しながら、さらに三匹のウルフを倒した。


---


『ウルフ討伐 13/10』


---


 十三匹目のウルフが光となって消える。


 その直後、ウィンダの身体が再びレベルアップの光に包まれた。


『レベルが上がりました』


『Lv6からLv7になりました』


『レベルアップにより、能力値が上昇しました』


『HPが合計2上昇しました』


『MPが合計2上昇しました』


『STRが合計1上昇しました』


『AGIが合計4上昇しました』


 ウルフを倒している内にレベルが2も上がったいた。


 ウィンダは現在のステータスを表示する。


---


 名前:ウィンダ

 種族:ハーピー

 レベル:7

 冒険者ランク:G


 HP:29/29

 MP:40/40


 STR:12

 DEF:8

 VIT:9

 INT:21

 DEX:18

 AGI:41

 LUK:24


 所持金:275ガルド


 スキル:


『飛行』

『魔法(初級風魔法Lv2)』

『格闘』

『軽業』

『鷹の目』


 使用可能魔法:


『ウィンド・カッター』

『エネルギーボルト』

『エアーショット』

『ウィングブースト』


---


「七」


 一角ウサギを狩り始めたときは、レベル三だった。


 今はレベル七。


 翼を動かすと、以前よりも身体が軽く、力強く空気を押し返せる。


 レベルが上がり、所持金も増えた。


 ウィンダは満足そうに頷いた。


     ◇


 ウルフを倒した場所には、ガルド以外にも素材が残されていた。


 鋭い狼の爪。


 灰色の毛皮。


 ウィンダは草原へ降り、翼の爪を使って一つずつ拾い集めた。


 一角ウサギの討伐で手に入れた角も、同じ種類ごとにまとめられている。


---


『旅人のウェストポーチ』


『収納数:3/3』


『一角ウサギの角 ×20』


『ウルフの爪 ×18』


『ウルフの毛皮 ×5』


---


「いっぱい」


 三種類の素材で、三つの収納枠がすべて埋まっていた。


 これでは、回復草や導き虫を採取できない。


 ウィンダはアステリアの方角へ身体を向けた。


「戻る」


 翼を広げ、草原から飛び立つ。


     ◇


 冒険者ギルドへ戻ったウィンダは、倉庫受付へ向かった。


 昨日預けた低級ポーションや風切り羽と一緒に、今回手に入れた素材を保管するつもりだった。


「素材、預ける」


「承知しました」


 職員はウェストポーチの中身を確認したあと、ウィンダへ尋ねた。


「こちらの素材は、すべて倉庫へ預けますか? 当ギルドでは、モンスター素材の買い取りも行っていますよ」


「買い取り?」


「はい。武器や防具の材料になる物を、ギルドがガルドで買い取ります」


 ウィンダは現在の所持金を確認した。


『275ガルド』


 昨日、小さなウェストポーチを買ったため、持ち運べるアイテムは三種類しかない。


 もっと大きなポーチがあれば、何度も町へ戻らなくて済む。


「売る」


「すべて売却してよろしいですか?」


「うん」


 倉庫に預けていた一角ウサギの角一本も取り出し、今回得た二十本とまとめる。


---


『一角ウサギの角 ×21』


『ウルフの爪 ×18』


『ウルフの毛皮 ×5』


---


 職員が素材を一つずつ確認し、買い取り額を計算した。


『素材を売却しました』


『375ガルドを獲得しました』


『所持金:650ガルド』


「650」


 所持金が一気に増えた。


 ウィンダは表示された数字をじっと見つめる。


「大きいポーチ、買える?」


「十五枠ほど収納できる物でしたら、武器屋で400ガルドほどで販売されていますよ」


「買う」


 ウィンダはすぐに冒険者ギルドを出た。


     ◇


 以前訪れた武器屋へ入ると、ウィンダは革製品の並ぶ場所へ向かった。


 小さなウェストポーチの隣に、複数の袋を一つのベルトへ取りつけた大型のポーチがある。


『冒険者の大型ウェストポーチ』


『価格:400ガルド』


『アイテム保有数:15』


 同じ種類のアイテムはまとめて収納されるため、十五種類のアイテムを持ち運べる。


 これまでのポーチの五倍だった。


「これ」


「ありがとうございます」


 店員は古いポーチを外し、新しい物をウィンダの腰へ巻いた。


 飛行の邪魔にならないよう身体へ密着する作りだが、以前の物よりも明らかに大きい。


 ウィンダが身体を動かすと、腰にずっしりとした重さを感じた。


「重い」


「容量が増えた分、ポーチ自体も少し重くなっています。飛行時のバランスには気をつけてください」


「わかった」


 古いウェストポーチは、ギルド倉庫へ送られた。


 四百ガルドを支払い、残った所持金は250ガルド。


---


『所持金:250ガルド』


『冒険者の大型ウェストポーチ』


『収納数:0/15』


---


 ウィンダは腰の重さを確かめるため、店の中で翼を少し広げた。


 何度か身体を左右へ傾ける。


 少し重い。


 けれど、飛べないほどではない。


「平気」


 これなら回復草と導き虫を集めても、十分な空きがある。


 ウィンダは武器屋を出ると、再び草原へ向かって飛び立った。


     ◇


 草原へ降り立ったウィンダは、周囲を見回した。


 残っているクエストは二つ。


---


『回復草採取 0/30』


『導き虫採取 0/5』


---


「草」


 どれが回復草なのか、まだ分からない。


 見渡す限り、地面には似たような緑色の草が生えている。


 上空から眺めただけでは、違いを見つけるのは難しかった。


 ウィンダは地面から少しだけ浮かび上がる。


 足が草へ触れそうなほど低い高度で、ゆっくり飛び始めた。


 速く飛びすぎれば、細かな形を見落としてしまう。


 翼を小さく動かしながら、草の一本一本へ目を向ける。


 丸い葉。


 細長い葉。


 白い花。


 地面を這う蔓。


 しばらく進んだところで、ほかとは形の違う草を見つけた。


 肉厚な葉が四方へ広がり、葉の中央には淡い緑色の筋が通っている。


「違う草」


 ウィンダは地面へ降りると、翼の爪で根元を摘んだ。


 ゆっくり引き抜く。


『回復草を採取しました』


『回復草採取 1/30』


『冒険者の大型ウェストポーチ』


『収納数:1/15』


『回復草 ×1』


「これ」


 形を覚えた。


 ウィンダはもう一度、回復草をよく観察する。


 葉の大きさ。


 色。


 中央を走る薄い筋。


 生えている場所。


 特徴を覚えると、再び空へ上がった。


 今度は最初よりも少し高い位置を飛ぶ。


 《鷹の目》を使い、地面に生えている草の形を一つずつ見分ける。


「二つ」


 少し離れた場所に、同じ形の草が見えた。


 ウィンダはすぐに降り、回復草を摘み取る。


 また上空へ戻り、次の草を探す。


 見つけては降りる。


 摘み取っては飛ぶ。


---


『回復草採取 5/30』


『回復草採取 11/30』


『回復草採取 17/30』


---


 地上を歩くプレイヤーなら、草を一本ずつ確かめなければならない。


 ウィンダは一度形を覚えてしまえば、《鷹の目》を使って上空から探すことができた。


「20本目」


 ウィンダは見つけた回復草の前へ降り立った。


 翼の爪を伸ばしかけ、動きを止める。


 回復草の葉の上に、何かがいた。


 カブトムシほどの大きさの虫。


 丸い身体は淡い金色で、背中に青白く光る筋がある。


 虫は回復草の葉を食べることなく、じっと一方向へ顔を向けていた。


「虫」


 ウィンダが顔を近づけると、情報が表示された。


『導き虫』


『魔力の流れを感じ取り、濃い方向へ身体を向ける習性を持つ』


「これだった」


 最後まで姿の分からなかったクエスト対象。


 導き虫とは、この虫のことだったらしい。


 ウィンダは翼の爪で、潰さないよう慎重に摘み上げた。


『導き虫を採取しました』


『導き虫採取 1/5』


『冒険者の大型ウェストポーチ』


『収納数:2/15』


『回復草 ×19』


『導き虫 ×1』


 導き虫は回復草の近くにいる。


 生息場所が分かれば、探すのは難しくなかった。


 ウィンダは回復草を見つけるたびに、その葉や根元を確認していく。


 二匹目。


 三匹目。


 四匹目。


 そして五匹目。


---


『導き虫採取 5/5』


『クエスト目標を達成しました』


---


 残る回復草も次々と摘み取っていく。


---


『回復草採取 24/30』


『回復草採取 28/30』


『回復草採取 30/30』


『クエスト目標を達成しました』


---


 ウィンダは最後の回復草を大型ウェストポーチへ収めた。


---


『冒険者の大型ウェストポーチ』


『収納数:2/15』


『回復草 ×30』


『導き虫 ×5』


---


 草原の指定クエストが、すべて達成済みになっている。


---


『一角ウサギ討伐 20/20』


『ウルフ討伐 13/10』


『回復草採取 30/30』


『導き虫採取 5/5』


---


「全部、終わった」


 ウィンダは翼を広げた。


 次はギルドへ戻り、クエストを報告する。


 そのあとは、東の森。


 透明な壁の向こうへ進むために必要な、次の場所だった。


 ウィンダは腰に新しいポーチの重さを感じながら、アステリアへ向かって空へ飛び上がった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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