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空飛ぶ採掘師


 行方不明だったガルムを鍛冶場へ送り届けた後、ウィンダはそのまま再びアステリアの空へ飛び上がっていた。


 目指すのはつい先ほど帰ってきたばかりの、グレイヴ岩山。


「鉄、十個」


 風神フィルネの祠を修復するために必要な《鉄の燭台》二つ。


 それをモルドに作ってもらうには、鉄鉱石を十個集めなければならない。


 幸い。


 アステリアへ戻ってきてから、鍛冶場でモルドたちと話している間にも、町の中で働く自動回復によって消耗していたHPとMPは少しずつ回復していた。


 そして、再び岩山へ向かう頃には。


---


『HP 35 / 35』


『MP 45 / 45』


---


「いっぱい」


 谷底での戦闘で減っていたMPも。


 すっかり元通り。


 これなら、また魔法を使える。


 ばさっ。


 白い翼を大きく羽ばたかせる。


「……軽い」


 ついさっきまで。


 この空を反対方向へ飛んでいた。


 その時は、両脚にガルムをぶら下げたまま。


 今は一人。


 少し翼を動かすだけで高度が上がり、身体を傾ければすぐに進路が変わる。


「楽」


 ウィンダは風を掴み。


 北へ向かって速度を上げた。


     ◇


 しばらく飛ぶと前方に灰色と赤茶色の岩山が連なって見えてきた。


「着いた」


 グレイヴ岩山。


 今日だけで。


 二度目。


 ウィンダはその上空へ入る。


 眼下では、先ほどと変わらず何人ものプレイヤーが採掘をしていた。


 カンッ!


 カンッ!


 大きなツルハシが振り下ろされ。


 岩壁から石の欠片が飛び散っている。


「今度は、掘る」


 前回は人探し。


 今回は採掘。


 ウィンダは近くの岩場へ降りた。


 カツン。


 鉄のカギ爪を装備した鳥脚が、乾いた岩盤を掴む。


 大型ウェストポーチへ翼先を入れ。


 モルドからもらった道具を取り出した。


---


《小型ピッケル》


---


 短い柄。


 頑丈な鉄の先端。


 普通のツルハシよりかなり小さい。


 けれど、腕そのものが翼になっているウィンダでも、翼先の四本の爪で問題なく握ることができる。


「これで掘る」


 近くの岩壁を見る。


 表面には。


 周囲とは僅かに色の違う筋が走っていた。


「ここかな」


 小型ピッケルを振り上げる。


 コンッ。


「……」


 岩の表面が。


 少しだけ欠けた。


 もう一度。


 コンッ。


 コンッ。


 石の破片が落ちる。


「……遅い」


 周囲のプレイヤーたちを見る。


 カァン!


 一振り。


 ガッ!


 また一振り。


 大きなツルハシで、どんどん岩を削っている。


 一方。


 ウィンダは。


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


「……」


 小さい。


 その分。


 削れる量も少ない。


 でも。


 使えないわけではない。


「続ける」


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


 しばらく叩き続け。


 やがて。


 カラン。


「出た」


 岩の隙間から。


 一つの鉱石が転がり落ちる。


 ウィンダが拾うと、システム表示が現れた。


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 1 / 10』


---


「一個」


 あと九個。


 ウィンダは再びピッケルを握る。


 コンッ。


 コンッ。


 別の場所へ移動して。


 コンッ。


 コンッ。


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 2 / 10』


---


「二個」


 次。


 少し上を見る。


 地上からでは届きにくい岩壁にも、色の違う場所があった。


「あそこ」


 ばさっ。


 数メートル飛び。


 岩壁から僅かに突き出した足場へ鳥脚を掛ける。


 カツン。


「届いた」


 小型ピッケルを振るう。


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


 カラン。


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 3 / 10』


---


「三個」


 少しずつ。


 増えている。


 けれど。


「あと七個」


 まだ先は長い。


 ウィンダは鉄鉱石をポーチへ収納すると。


 再び採掘を始めた。


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


 乾いた音が。


 岩場へ何度も響く。


 その時。


 カサッ。


「?」


 小型ピッケルが止まる。


 今。


 岩を叩く音とは違うものが聞こえた。


 ウィンダが下を見る。


「……?」


 何もいない。


 もう一度。


 コンッ。


 カサカサ。


「いる」


 大きな岩の陰。


 そこから、黒いものが這い出してきた。


 六本の太い脚。


 大きな顎。


 身体全体を覆う。


 鎧のような硬い甲殻。


---


《鎧アリ》


《HP 40 / 40》


---


「アリ」


 一匹。


 さらに、後ろからもう一匹。


 そして、もう一匹、三匹の鎧アリが姿を現した。


「……また」


 つい先ほど谷底でも戦った相手。


 一匹の鎧アリが顎を鳴らし。


 ウィンダへ向かって突進してくる。


「……」


 ウィンダは反射的に魔法を使おうとして少し止まった。


「エネルギーボルト……」


 谷底で《エネルギーボルト》を鎧アリへ撃った。


 命中すれば、動きを止めることはできた。


 けれど、倒せなかった。


 硬い甲殻に威力をほとんど受け止められていた。


「硬い」


 なら、まだ使っていない魔法。


 ウィンダの視界に、魔法一覧を呼び出す。


---


《ウィンドスピア》


『消費MP:5』


『風を一点へ圧縮し、鋭い槍として放つ』


『高い貫通力を持つ風属性魔法』


---


「貫く」


 硬い相手。


 ちょうどいい。


「使ってみる」


 迫る鎧アリへ。


 翼を向ける。


「《ウィンドスピア》」


 ヒュウッ――!


「……お」


 風が集まる。


 《ウィンド・カッター》とは違う


 刃のように広がらない。


 《エアーショット》とも違う


 大きな球にもならない。


 風が、一点へ


 細く、鋭く


 圧縮されていく一本の槍。


「いけ」


 シュドッ!


 風の槍が放たれた。


 一直線に飛び。


 鎧アリの正面へ突き刺さる。


 ガッ!


 甲殻が受け止める。


 だが。


 ギギッ――!


 風の先端が硬い表面へ食い込んでいく。


 そして。


 バキッ!


 甲殻に穴を穿ち、風槍が内部まで突き抜けた。


---


『鎧アリに 23 ダメージ』


《HP 40 → 17 / 40》


『消費MP:5』


『MP 45 → 40 / 45』


---


「効いた」


 谷底の時とは違う。


 ちゃんと硬い甲殻を貫いている。


 けれど、鎧アリは倒れなかった。


 甲殻に傷を負いながら再びウィンダへ向かってくる。


「まだ」


 なら、


「もう一回」


 風を集める。


「《ウィンドスピア》」


 シュドッ!


 今度は先ほど亀裂を入れた場所の近くに風槍が突き刺さった。


 バキッ!


---


『鎧アリに 25 ダメージ』


《HP 17 → 0 / 40》


『消費MP:5』


『MP 40 → 35 / 45』


---


 鎧アリの身体が大きく仰け反る。


 そのまま岩盤へ倒れた。


---


『鎧アリを討伐しました』


---


「二回」


 一発では足りない。


 でも、二発なら倒せた。


「硬いのに、効く」


 ウィンダの目が少しだけ明るくなる。


 便利、けれど、


「MP、いっぱい減る」


 2回で。


 10。


 《エネルギーボルト》なら五回使える量だった。


 強い。


 でも、何度も使うとすぐにMPがなくなる。


「考えて使う」


 そんなことを思っている間にも。


 カサカサッ!


 残る二匹の鎧アリが左右から迫る。


「来た」


 ウィンダは小型ピッケルを大型ウェストポーチへしまった。


 地面を蹴る。


 ばさっ!


 一気に上空へ。


 鎧アリたちが、地上からウィンダを追いかける。


「次」


 一匹へ狙いを定める。


「《ウィンドスピア》」


 シュドッ!


---


『鎧アリに 21 ダメージ』


《HP 40 → 19 / 40》


『消費MP:5』


『MP 35 → 30 / 45』


---


 背中の甲殻に亀裂が走る。


 だが、まだ倒れない。


「もう一回」


「《ウィンドスピア》」


 シュドッ!


---


『鎧アリに 22 ダメージ』


《HP 19 → 0 / 40》


『消費MP:5』


『MP 30 → 25 / 45』


---


『鎧アリを討伐しました』


---


「あと一匹」


 三匹目。


 ウィンダは空中で身体を回し。


 最後の鎧アリを真下に捉える。


「《ウィンドスピア》」


 ヒュッ!


 シュドッ!


---


『鎧アリに 27 ダメージ』


《HP 40 → 13 / 40》


『消費MP:5』


『MP 25 → 20 / 45』


---


 甲殻が砕ける。


 それでも、鎧アリは動いていた。


「やっぱり二回」


 もう一度、翼を向ける。


「《ウィンドスピア》」


 シュドッ!


---


『鎧アリに 20 ダメージ』


《HP 13 → 0 / 40》


『消費MP:5』


『MP 20 → 15 / 45』


---


『鎧アリを討伐しました』


---


 三匹目が倒れる。


 しばらくすると鎧アリたちは光の粒へ変わり消えていった。


 ウィンダは地面へ降りる。


「……」


 MPを見る。


---


『MP 15 / 45』


---


「減った」


 三匹。


 それを倒しただけで最大MPの三分の二を使った。


 強い。


 硬い敵にも通用する。


 でも、簡単には連発できない。


「便利だけど、重い」


 覚えたばかりの《ウィンドスピア》。


 どういう時に使う魔法なのか少し分かった気がした。


 そして。


「ドロップ」


 倒した鎧アリの跡。


 いくつかのアイテムが残っている。


 ウィンダが一つ目を拾う。


---


『鎧アリの甲殻を入手しました』


『鉄鉱石を入手しました』


---


「鉄?」


 二匹目。


---


『鉄鉱石を入手しました』


---


「また」


 三匹目。


---


『鎧アリの顎を入手しました』


『鉄鉱石を入手しました』


---


「……」


 ウィンダは手元の鉄鉱石を見る。


 その次に今まで叩いていた岩壁を見る。


 小型ピッケルで。


 何度も、何度も叩いて三個。


 鎧アリ。


 三匹倒して。


 三個。


「……掘らなくても出る」


 ウィンダは新しい事実を知った。


 鎧アリが鉱石を食べているのか。


 巣へ運んでいるのか。


 それは分からない。


 ただ、倒せば鉄鉱石を落とすことがある。


---


『鉄鉱石 6 / 10』


---


「六個」


 あと四個。


 ウィンダは周囲を見る。


「アリ」


 いない。


「……残念」


 少しだけ翼が下がった。


 鎧アリを探して倒せば、採掘より早いかもしれない。


 でも、今のMPは。


 15。


 《ウィンドスピア》なら。


 三回分。


「もう一匹、倒せないかも」


 基本的に二発必要。


 二匹いたらMPが足りない。


「……掘る」


 ウィンダは素直に小型ピッケルを取り出した。


     ◇


 それから、ウィンダは岩山のあちこちを飛び回った。


 地上。


 崖の途中。


 岩柱の側面。


 普通のプレイヤーなら簡単には近づけない場所にも。


 ウィンダなら。


 飛んで直接向かえる。


 《鷹の目》を使い。


 遠くの岩肌を見る。


「……あそこ」


 周囲とは僅かに色の違う岩壁を見つけた。


 ばさっ!


 崖へ向かって飛ぶ。


 人一人が立つには狭すぎる足場。


 けれど、鳥脚なら、


 カツン


 岩の出っ張りを掴める。


「ここ」


 小型ピッケルを翼先で握る。


 コンッ


 コンッ


 コンッ


 カラン


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 7 / 10』


---


「七個」


 次。


 細い岩柱の中腹へ。


 ばさっ。


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 8 / 10』


---


「八個」


 さらに、谷を挟んだ反対側。


 地上からなら谷を避けて大きく迂回しなければならない。


 ウィンダは、


「近い」


 そのまま飛んだ。


 ばさっ!


 数秒で向こう側へ渡る。


 岩壁へ鳥脚を掛け。


 再び採掘。


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


 カラン。


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 9 / 10』


---


「あと一個」


 再び、空へ。


 ウィンダは岩山を見渡す。


「どこ」


 《鷹の目》。


 遠くまではっきり見える。


 灰色。


 赤茶色。


 黒。


 ほとんどが岩、けれど、何度も採掘をしたことで、どんな場所に鉱脈があるのか少しずつ分かってき


た。


「……あ」


 かなり高い崖。


 その途中、他の岩とは僅かに色の違う筋がある。


「あそこ」


 ばさっ!


 ウィンダは一気に高度を上げた。


 崖へ近づく。


 足場はほとんどない。


 普通ならここで採掘するのはかなり難しいだろう。


 でも、ウィンダは岩壁から突き出した僅かな出っ張りへ。


 カツン


 鳥脚を掛けた。


「届いた」


 大型ウェストポーチから小型ピッケルを取り出す。


 コンッ


 コンッ


 コンッ


 岩を削る。


 そして、


 カラン


「出た」


---


『鉄鉱石を入手しました』


『鉄鉱石 10 / 10』


『必要素材が揃いました』


---


「十個」


 終わった。


 必要な鉄鉱石が全部揃った。


「帰れる」


 あとは、アステリアへ戻ればいい。


 モルドもウィンダが採掘から帰ってくる頃には、祭壇を完成させておくと言っていた。


 鉄鉱石を渡せば燭台も二つ作ってくれる。


「祠、直せる」


 ウィンダが小型ピッケルをポーチへ戻そうとして。


「……?」


 手を止めた。


 今、鉄鉱石を掘り出した穴。


 その奥に何かが見える。


「……違う」


 灰色の岩。


 そのさらに奥。


 青みを帯びた。


 僅かな光沢。


「違う石」


 鉄鉱石ではない。


 ウィンダは再び小型ピッケルを握る。


「掘れるかな」


 コンッ。


 コンッ。


 コンッ。


 周囲の岩を削る。


 少しずつ。


 青白い部分が姿を現す。


 さらに。


 コンッ。


 コンッ。


 ころん。


「出た」


 小さな鉱石が転がり落ちた。


 ウィンダは翼先の爪で拾う。


「……」


 普通の鉄鉱石とは明らかに違った。


 青みがかった灰色。


 角度を変えると内部に細かな光が流れているようにも見える。


「きれい」


 アイテム情報を開く。


---


『未鑑定の鉱石を入手しました』


---


「未鑑定」


 名前は分からない。


 何に使えるのかも分からない。


 けれど、 ウィンダは少し前に聞いた話を思い出した。


 珍しい鉱石を探していたドワーフ。


「……ガルム」


 あのドワーフなら。


 何か知っているかもしれない。


「聞いてみよう」


 ウィンダは未鑑定の鉱石を大型ウェストポーチへ収納した。


 鉄鉱石。


 十個。


 不思議な鉱石。


 一個。


 採掘は終わり。


「帰る」


 ウィンダは岩壁を掴んでいた鳥脚を離した。


 ふわっ。


 身体が、一瞬だけ真下へ落ちる。


 次の瞬間。


 ばさっ!


 白い翼が大きく開いた。


 風を掴み。


 落下が止まる。


 そのまま岩壁から離れていく。


---


『現在MP 15 / 45』


---


 眼下にはごつごつとしたグレイヴ岩山。


 今度は誰も掴んでいない。


「軽い」


 ウィンダは翼を羽ばたかせ。


 祭壇と燭台を受け取るため。


 そして、偶然見つけた不思議な鉱石をガルムたちに見せるため。


 再びアステリアへ向かって飛び立った。


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