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鍛冶屋からの依頼



 蒼風平原を離れたウィンダは、風に乗ってアステリアへ戻ってきた。


 城壁を越え。


 見慣れた街並みの上を飛び。


 やがて中央広場の近くへ降り立つ。


「……どこで買おう」


 必要なのは。


---


『綺麗な石の祭壇 ×1』


『鉄の燭台 ×2』


---


 道具屋。


 市場。


 いろいろな店がある。


 けれど。


「祭壇……作るもの?」


 完成した祭壇が普通の店に並んでいるとは、あまり思えなかった。


 それなら。


「作るところ」


 ウィンダが思い浮かべたのは、一つ。


「鍛冶屋」


 武器や防具を作っている場所。


 石の祭壇を作れるかは分からない。


 けれど、鉄の燭台なら間違いなく関係がありそうだった。


「行ってみよう」


 ウィンダは再び翼を広げると、アステリアの鍛冶屋へ向かった。


     ◇


 長い煙突を持つ、黒く平たい建物。


 扉を開ける前から。


 カンッ!


 カンッ!


 と金属を打つ音が聞こえてくる。


 ウィンダが中へ入ると。


 むわっ。


「……暑い」


 炉から放たれる熱気が身体を包んだ。


 中では人間やドワーフ、オーガたちが忙しそうに働いている。


 真っ赤になった鉄を叩く者。


 炉へ石炭を放り込む者。


 完成した武器を確認している者。


 ウィンダが店内へ足を踏み入れた。


 その瞬間。


 ポン。


「?」


 目の前へシステムウィンドウが現れた。


---


『Fランク到達により鍛冶屋の新機能が解放されています』


### 《装備製作》


『必要な素材を鍛冶屋へ持ち込むことで、新たな武器・防具を製作できます』


『製作可能な装備は素材、冒険者ランク、鍛冶屋の技術によって変化します』


### 《装備強化》


『必要な素材と費用を支払うことで、現在所持している武器・防具を強化できます』


『装備によって強化可能な回数・必要素材が異なります』


---


「強くできる」


 ウィンダは自分の鳥脚を見る。


 そこには《鉄のカギ爪》が装備されている。


 ツインハンズグリズリーとの戦いでも役に立った武器だ。


 どうやら。


 素材を持ってくれば、これもさらに強化できるらしい。


「……あとで」


 ウィンダは説明を閉じた。


 今は武器の強化をしに来たわけではない。


 必要なのは祭壇と燭台。


 店内を見回す。


 すると。


「……あ」


 巨大な炉の隣。


 そこに、一際大きなオーガが立っていた。


 太い腕。


 分厚い革の前掛け。


 片手には、ウィンダの頭ほどもある大きな鍛冶用ハンマー。


 他の職人たちへ指示を出している様子からして。


 どうやら、この鍛冶場の親方らしい。


 そして。


 その頭上に。


---


『!』


---


 見覚えのあるアイコンが浮かんでいた。


「サブイベント」


 ウィンダは迷わず、そのオーガのところへ歩いていった。


「ん?」


 近づいてきたウィンダに気づき、オーガが太い眉を上げる。


「おう。珍しい客だな。何か作りたいのか?」


「これ」


 ウィンダはクエスト情報を表示した。


---


『綺麗な石の祭壇 ×1』


『鉄の燭台 ×2』


---


「祭壇、直したい」


「祭壇?」


 オーガが表示を見る。


 そして。


「ほぉ……」


 顎へ手を当てた。


「風神様の祠か」


「知ってる?」


「話くらいはな。この辺りには昔から神様を祀った小さな祠や遺跡が残ってる。だが、ほとんどは今じゃ誰も手入れしちゃいねぇ」


「壊れてた」


「そりゃ長いこと放っておけばそうなるだろうさ」


 オーガは腕を組む。


「綺麗な石の祭壇だったな」


「うん」


「作れなくはねぇ」


 ウィンダの目が少しだけ明るくなる。


「作って」


「ただし」


「?」


 オーガが太い指を一本立てた。


「こっちにも頼みたいことがある」


「頼み?」


「ああ。その依頼を引き受けてくれるなら、祭壇は俺たちで用意してやる」


「……」


 ウィンダは少し考える。


「燭台は?」


「そっちは材料があれば作れる。鉄を十個持ってきな。二つ作ってやる」


---


『鉄の燭台×2』


『必要素材:鉄×10』


---


「鉄」


「ああ」


 祭壇は依頼。


 燭台は鉄。


「分かった」


「よし」


 オーガが頷いた。


「なら先に俺の頼みを聞いてくれ」


 その表情が。


 少しだけ真剣なものへ変わる。


「この鍛冶場で働いてるドワーフが一人、戻ってきてねぇんだ」


「ドワーフ」


「ああ。同僚でな。腕のいい鉱石採りでもある」


 オーガは近くの作業台へ手をつきながら続けた。


「数日前、素材を探しに北へ向かった。最後に姿を確認されたのが――」


 ウィンダの前に簡単な地図が表示される。


 アステリア。


 そして。


 そこから北へ。


「グレイヴ岩山だ」


「岩山」


「あの辺りは鉱石が豊富だ。その分、魔物も多い。崖も多いし、奥まで入り込めば迷う奴もいる」


 オーガは眉間へ皺を寄せた。


「いつもならとっくに戻ってくる奴なんだが、今回は連絡もない」


「探す?」


「ああ」


 オーガが頷いた。


「俺が行ければいいんだが、ここの仕事を放り出すわけにもいかねぇ。注文も溜まってるし、職人連中の面倒も見なきゃならん」


 後ろでは。


「親方ー! こっちの温度見てくれ!」


「親方! この剣の焼き入れどうする!」


「今行く! 少し待て!」


 オーガが怒鳴り返す。


 そしてウィンダを見る。


「……見ての通りだ」


「忙しい」


「そういうこった」


 ポン。


 新しいウィンドウが現れた。


---


『サブイベントが発生しました』


### 《帰らぬ鉱夫》


『アステリアの鍛冶屋で働くドワーフが、グレイヴ岩山へ向かったまま帰ってこない』


『グレイヴ岩山へ向かい、行方不明となったドワーフを捜索せよ』


### 報酬


『風神の祠修復用・石の祭壇』


---


「どうだ?」


 ウィンダは表示を見る。


 北。


 まだ行ったことのない場所。


 岩山。


 しかも。


 そこへ行けば、祠を直すための祭壇も手に入る。


「行く」


 返事は早かった。


「助かる」


 オーガの表情が少し緩む。


---


『サブイベント《帰らぬ鉱夫》を受注しました』


---


「それとな」


「?」


「どうせグレイヴ岩山へ行くなら、鉄もそこで集めてこい」


「鉄、ある?」


「岩山だからな。露出してる鉱脈もある。場所さえ見つけりゃ採れる」


「取る」


「そう言うと思ったよ」


 オーガは近くに立て掛けられていた一本の道具を掴んだ。


「だったら、こいつを持っていけ」


 ごとっ。


 ウィンダの前へ置かれたのは。


 長い木製の柄。


 その先に鋭い鉄の刃。


「ツルハシだ」


「……」


 ウィンダは見る。


 かなり大きい。


「鉱脈を見つけたら、それで――」


 オーガがそこまで言ったところで。


 ウィンダが翼を伸ばした。


 翼の先の爪で柄を掴む。


「ん」


 持ち上げようとする。


「……」


 ぐらっ。


 重い。


 それ以前に。


 長すぎる。


 翼そのものが腕になっているウィンダでは、普通の人間のように両手で構えて振り下ろすことができない。


 無理に持とうとすれば、翼の動きまで邪魔される。


「……持てない」


「……あ」


 オーガが固まった。


 ウィンダの翼を見る。


 大きなツルハシを見る。


 もう一度翼を見る。


「すまん」


 素直に謝った。


「普通の冒険者用を渡しちまった。お前さん、腕が翼だったな」


「うん」


「ちょっと待ってろ」


 オーガはツルハシを回収すると、鍛冶場の奥へ入っていった。


 しばらくして。


「これならどうだ?」


 戻ってきたオーガの手には。


 先ほどとは比べ物にならないほど小さな道具が握られていた。


 短い柄。


 先端には、小型ながら頑丈そうな鉄の刃。


「ピッケル?」


「ああ。岩登りや細かい鉱脈を削るのに使う小型の奴だ。普通のツルハシほど効率は良くねぇが、お前さんでも扱えるだろ」


 ウィンダが翼の先で掴む。


「……軽い」


 今度は問題ない。


 四本の爪で柄をしっかり掴める。


 長さも翼の動きを邪魔しない。


「それなら鉱石くらいは掘れる」


「うん」


「持っていきな」


---


『小型ピッケルを入手しました』


『採掘可能な地点で使用することで鉱石を採取できます』


---


 ウィンダは小型ピッケルを大型ウェストポーチへ収納した。


 これで。


 やることは決まった。


 北のグレイヴ岩山へ行く。


 行方不明になったドワーフを探す。


 その途中で鉄を十個集める。


 戻ってくれば。


 石の祭壇。


 そして鉄の燭台二つ。


 風神の祠を直すために必要なものが揃う。


「行ってくる」


「おう。頼んだぞ」


 ウィンダは鍛冶屋を出る。


 外へ出ると。


 今度は北の空を見た。


「岩山」


 まだ一度も行ったことのない場所。


 どんな景色なのか。


 どんな風が吹いているのか。


 それを考えただけで。


 少しだけ胸が弾んだ。


 鳥脚で石畳を蹴る。


 ばさっ!


 白い翼が大きく開く。


 アステリアの建物を越え。


 城壁よりも高く。


 ウィンダは高度を上げていった。


「北」


 風神の祠を直すため。


 行方不明になったドワーフを探すため。


 そして。


 まだ見たことのない場所を見るために。


 ウィンダはグレイヴ岩山を目指して、北の空へ飛び出した。


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