ねずみ退治
ホーネットの討伐を終えたウィンダは、森の中を流れる風に乗りながら、次のクエスト対象を探していた。
現在、達成している東の森の指定クエストは二つ。
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『硬いクルミ採取 20/20』
『ホーネット討伐 10/10』
『ビッグラット討伐 0/30』
『レッサーバグ討伐 0/20』
『静め草採取 0/30』
『マジックマッシュ採取 0/20』
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Fランクへの昇格条件として必要なのは、この中から四つのクエストを達成すること。
つまり、あと二つ終わらせればいい。
「マジックマッシュ」
ウィンダが次に選んだのは採取クエストだった。
理由は単純だった。
「マッシュ……キノコ?」
名前にマッシュと入っている。
ならば、探すのはおそらくキノコだ。
確信があるわけではない。
けれど、他にそれらしいものも思いつかなかった。
ウィンダは地上から数メートルほどの高さを、ゆっくりと飛んでいく。
森の飛び方にも、かなり慣れてきた。
翼を大きく広げる必要はない。
木々の間を抜ける風へ羽毛を乗せ、必要なときだけ翼の角度を変える。
進路上に幹があれば、その横へ流れる風に乗る。
枝が邪魔なら掴んで身体を振る。
勢いが足りなければ、鳥脚で幹を蹴る。
さらに《曲芸飛行》を覚えたことで、急な旋回や高度変更も以前より遥かに滑らかになっていた。
「キノコ……」
ウィンダは《鷹の目》で地面を観察する。
倒木。
苔。
落ち葉。
木の根元。
しばらく探していると。
「白い」
一本の大木の根元に、細長い白色のものが生えているのを見つけた。
ウィンダは風から降り、木の根元へ着地する。
そこには、真っ白な柄の先に小さな傘をつけた細長いキノコが生えていた。
「これ?」
翼の爪で一本摘み取る。
『マジックマッシュを採取しました』
『マジックマッシュ採取 1/20』
「当たり」
ウィンダの表情が少し明るくなる。
一度形が分かれば、あとは探しやすい。
しかも周囲を見れば、同じ木の根元にまだ何本か生えていた。
「いっぱい」
もう一本。
ウィンダがマジックマッシュへ手を伸ばした。
その瞬間。
ぞくり。
「!」
首筋から背中へ、冷たい感覚が走った。
『《危険感知》が発動しました』
頭で考えるよりも早く、ウィンダは伸ばしていた翼を引いた。
両脚で地面を蹴り、後方へ飛び退く。
直後。
ガサッ!
頭上の枝葉が大きく揺れた。
何かが落ちてくる。
ドサッ!
つい先ほどまでウィンダがいた場所へ、灰色の塊が着地した。
「ネズミ」
ただし、小さくはない。
中型犬ほどの大きさがある。
太い前歯。
長い尻尾。
灰色と茶色が混ざった荒い毛。
四本の脚で地面を踏みしめながら、ウィンダへ鋭い視線を向けている。
『ビッグラット Lv4』
「探してた」
ウィンダは少し嬉しくなった。
わざわざ探すつもりだった討伐対象の方から来てくれた。
「ラッキー」
『ギギィッ!』
ビッグラットにとっては、あまりにも理不尽な感想だった。
大きな前歯を剥き出しにしながら、地面を蹴る。
身体ごとぶつかるような勢いで、ウィンダへ突進してきた。
ウィンダはその場で軽く跳んだ。
ただ、それだけ。
ビッグラットの身体が足元を通り抜ける。
「下」
空中で身体の向きを変える。
そして――。
ドンッ!
通り過ぎようとしたビッグラットの背中を、両脚で思い切り踏みつけた。
『ビッグラットに20ダメージ』
『ビッグラットを討伐しました』
「……え?」
ビッグラットが光の粒となって消えた。
ウィンダは、その場へ着地する。
しばらく何もなくなった地面を見つめた。
「終わり?」
これまで戦ったモンスターは違った。
一角ウサギも。
ウルフも。
ホーネットも。
最初に戦ったころは、攻撃を二回以上当てて倒すことが多かった。
なのに。
「一回だった」
念のため、戦闘ログを開く。
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『ビッグラット』
『最大HP:15』
『受けたダメージ:20』
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「15」
自分が与えたダメージより、ビッグラットの最大HPの方が低い。
ビッグラットは、本来一匹で戦うことを前提にしたモンスターではなかった。
多数で群れを形成して冒険者へ襲いかかる。
その分、一匹一匹の耐久力は低く設定されている。
だが今回は、たまたま一匹だけでウィンダの前へ飛び出してしまった。
当然、一瞬で終わった。
もちろん、ウィンダはそんな事情までは知らない。
「弱いネズミ」
それだけだった。
ビッグラットが消えた場所には、小さな牙が残されている。
『ネズミの牙 ×1を獲得しました』
ウィンダはそれを拾う。
続けて、先ほど見つけたマジックマッシュも採取した。
二本。
三本。
四本。
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『マジックマッシュ採取 4/20』
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すべて大型ウェストポーチへ収納する。
ウィンダは現在の所持品を確認した。
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『冒険者の大型ウェストポーチ』
『収納数:6/15』
『低級ポーション ×3』
『硬いクルミ ×30』
『ハチの翅 ×4』
『ハチの針 ×6』
『ネズミの牙 ×1』
『マジックマッシュ ×4』
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『所持金:410ガルド』
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「まだ入る」
十五枠の大型ウェストポーチへ買い替えたおかげで、以前の三枠ポーチとは比べものにならないほど余裕がある。
ウィンダは満足して表示を閉じた。
「キノコ探す」
再び地面を蹴る。
風を掴み、森の中へ飛び込んだ。
◇
マジックマッシュの特徴は覚えた。
白く細長い。
木の根元や倒木の近くに生えていることが多い。
ウィンダは《鷹の目》を使いながら、木々の間を低空飛行していった。
「いた」
降りる。
摘む。
『マジックマッシュ採取 7/20』
飛ぶ。
探す。
「また」
降りる。
『マジックマッシュ採取 11/20』
少しずつ数が増えていく。
木々の間を飛び回ること自体が楽しいため、採取クエストであるにもかかわらず、ウィンダは退屈していなかった。
むしろ。
「次、どこ」
宝探しでもしているような気分だった。
そんなとき。
「急げ!」
人の声が聞こえた。
ウィンダは一本の木の枝へ止まった。
森の奥から、数人の冒険者が走ってくる。
剣を持った男。
杖を抱えた女。
盾を背負った大柄な戦士。
全員が必死の表情をしていた。
「なんだよ、あの数!」
「いいから走れ!」
「止まるな!」
「死んだらアイテムロストだぞ!」
「分かってるって!」
ウィンダのいる木の下を、冒険者たちは一目散に駆け抜けていった。
「?」
ウィンダは首をかしげる。
何から逃げているのだろう。
森の奥を見る。
ザザザザザザザッ――!
大量の落ち葉が擦れる音。
地面そのものが動いているようにも見える。
次第に、その正体が木々の向こうから現れた。
「ネズミ」
一匹。
二匹。
五匹。
十匹。
さらにその後ろにも続いている。
「……いっぱい」
軽く三十匹はいる。
『ビッグラット Lv4』
『ビッグラット Lv4』
『ビッグラット Lv4』
『ビッグラット Lv4』
視界へ次々と同じ名前が表示される。
大量のビッグラットが一つの波のように群れとなり、森の中を走ってくる。
先ほどの冒険者たちは、この群れから逃げていたらしい。
通常であれば、初心者が一人で相手をするような数ではない。
一匹一匹が弱くても、これだけの数に囲まれれば話は別。
前から牙。
横から体当たり。
後ろからさらに別の個体。
一度倒されれば、群れに取り囲まれる。
だから冒険者たちは逃げた。
しかし。
ウィンダの青い瞳は、少しだけ輝いていた。
「いっぱい」
クエスト欄を見る。
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『ビッグラット討伐 1/30』
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もう一度、迫ってくる群れを見る。
「ちょうど来た」
逃げるという発想はなかった。
◇
ウィンダは木の上から飛び降りた。
ビッグラットの群れ。
その先頭へ狙いを定める。
翼を畳む。
急降下。
《曲芸飛行》の補正によって、狙った場所へ身体が吸い込まれるように落ちていく。
「一匹」
ドンッ!
先頭のビッグラットを踏みつけた。
『ビッグラットに21ダメージ』
『ビッグラットを討伐しました』
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『ビッグラット討伐 2/30』
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やはり一撃。
ウィンダは踏みつけた反動で跳び上がり、近くの枝へ着地した。
『ギギギギギッ!』
突然仲間を倒されたビッグラットの群れが、一斉に足を止める。
そして。
何十匹ものネズミが、一斉に上を向いた。
「……」
『ギィィィィ!』
『ギギギギッ!』
『ギシャァァ!』
大量のビッグラットが牙を剥き、木の上にいるウィンダへ威嚇する。
地面はネズミだらけ。
「うるさい」
ウィンダはあまり気にしなかった。
それよりも、先ほどの戦闘結果を見る。
ビッグラットのHPは15。
自分の踏みつけは20以上。
現在の自分なら。
爪でも。
蹴りでも。
強襲でも。
ほとんど何をしても一撃で倒せる。
「何しても、一回」
そこで。
ウィンダは地面のビッグラットを見る。
次に、自分の鳥脚を見る。
翼の先にある四本の爪を見る。
「……掴める?」
試してみたくなった。
枝を蹴る。
ビッグラットの一匹へ向かって低空飛行。
『ギギッ!』
群れの数匹が一斉に飛びかかろうとする。
だが《危険感知》が、その動きをウィンダへ知らせてくれる。
少しだけ身体を傾ける。
牙の間をすり抜ける。
そして一匹の背中へ、両脚を伸ばした。
鳥脚の鉤爪が、ビッグラットの身体をしっかり掴む。
『ギッ!?』
「持てた」
翼を羽ばたかせる。
ビッグラットを一匹掴んだまま、ウィンダの身体が持ち上がった。
一メートル。
三メートル。
五メートル。
ビッグラットは空中で足をばたつかせている。
ウィンダは下を見る。
真下にも別のビッグラットがいた。
「落とす」
鳥脚を開く。
『ギィィィ!?』
掴まれていたビッグラットが落下した。
その真下。
別のビッグラットが上を見た。
ドンッ!
二匹が激突する。
『ビッグラットAに落下ダメージ 18』
『ビッグラットBに衝突ダメージ 16』
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
ウィンダは空中で目を瞬いた。
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『ビッグラット討伐 4/30』
---
「二匹」
一匹を使ったら、二匹倒れた。
ウィンダは眼下の群れを見る。
まだ、たくさんいる。
「これ、楽」
ビッグラットたちにとっては、悪夢の始まりだった。
◇
ウィンダが低空へ降りる。
『ギギッ!』
ビッグラットたちが一斉に飛びかかる。
だが、届く直前に高度を上げる。
牙が空を噛む。
その隙に一匹を掴む。
「一匹」
上昇。
狙う。
落とす。
ドンッ!
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
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『ビッグラット討伐 6/30』
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「もう一回」
急降下。
一匹を掴む。
そのまま勢いをつけて持ち上げる。
今度はただ落とすだけではない。
近くの木を中心に、大きく旋回。
掴んだビッグラットも一緒に振り回される。
『ギィィィィィ!?』
十分に速度が乗ったところで、脚を離した。
ビッグラットが横方向へ飛んでいく。
その先には二匹の仲間。
ゴロゴロゴロッ!
『ビッグラットAに衝突ダメージ 19』
『ビッグラットBに衝突ダメージ 15』
『ビッグラットCに衝突ダメージ 15』
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
「三匹」
ウィンダの顔が明るくなる。
完全に新しい遊びを見つけた顔だった。
群れから一匹を持ち上げる。
落とす。
ぶつける。
また一匹掴む。
今度はもう少し高く。
「ここ」
落とす。
ドンッ!
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
地上から大量のネズミが威嚇する。
『ギギギギギギッ!』
しかし、ビッグラットには遠距離攻撃がない。
いくら牙を剥いても、空にいるウィンダへは届かなかった。
ウィンダからすれば、攻撃される心配をほとんどせず、好きなだけ新しい動きを試せる相手だった。
「もう少し速く」
今度は急降下。
地面すれすれで一匹を掴み、そのまま上昇する。
《曲芸飛行》の補助を使い、空中で急旋回。
身体を中心に大きな円を描く。
掴んだビッグラットへ遠心力がかかる。
「飛んで」
脚を離した。
『ギィィィィ!?』
ビッグラットが弾丸のように飛んでいく。
群れの中央へ突っ込んだ。
ドドドッ!
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
クエストの数字が、ものすごい勢いで増えていく。
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『ビッグラット討伐 12/30』
『ビッグラット討伐 17/30』
『ビッグラット討伐 23/30』
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ウィンダは完全に夢中になっていた。
普通に蹴れば一撃で終わる敵を、わざわざ掴んで投げている。
どれくらいの高さから落とせばいいのか。
どれほど速度をつければ、複数の敵を巻き込めるのか。
どの方向へ投げれば、群れの中央へ飛んでいくのか。
試すたびに、鳥脚の爪で獲物を掴む感覚も上達していく。
最初は両脚で慎重に抱えるように掴んでいた。
だが、次第に片脚だけでも保持できるようになる。
急降下。
片脚で掴む。
そのまま上昇。
空いているもう片方の脚で姿勢を調整する。
旋回。
投下。
「次」
もはやビッグラットの群れの方が逃げ始めていた。
『ギィッ!』
一匹が背を向ける。
続いて別の個体。
群れ全体が散り始めた。
「逃げる」
ウィンダは《鷹の目》で散開するネズミたちを追う。
「まだいる」
翼を動かした。
もちろん追う。
◇
『ビッグラット討伐 28/30』
クエスト達成まで、あと二匹。
森の中を必死に走って逃げる二匹のビッグラットを、ウィンダは上空から追いかけていた。
一匹へ急降下。
鳥脚で掴む。
そのまま持ち上げる。
もう一匹の真上へ移動。
「最後」
離す。
『ギッ!?』
『ギィ!?』
ドンッ!
二匹が重なるように地面へ倒れた。
『落下ダメージ 17』
『衝突ダメージ 16』
『ビッグラットを討伐しました』
『ビッグラットを討伐しました』
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『ビッグラット討伐 30/30』
『クエスト目標を達成しました』
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「終わった」
だが、群れにはまだビッグラットが残っていた。
クエストが終わったことを確認したウィンダは、残っているネズミたちを見る。
「まだ練習できる」
クエストが終わったからといって、やめる理由にはならなかった。
残されたビッグラットたちにとっては、たまったものではない。
数分後。
最後の一匹が空へ持ち上げられ、仲間のいた地面へ落とされる。
『ビッグラットを討伐しました』
森が静かになった。
「全部終わった」
ウィンダは地面へ降りる。
あれほど大量にいたビッグラットは、一匹も残っていない。
周囲には牙などの素材と、小さなガルド硬貨が散らばっていた。
ウィンダは硬貨を拾う。
『1ガルドを獲得しました』
次。
『1ガルドを獲得しました』
その次も。
『1ガルドを獲得しました』
「……少ない」
ウルフなら、一匹倒すだけで何十ガルドも手に入った。
それと比べると、ビッグラットから得られる金額はあまりにも少ない。
今回の群れから手に入れたガルドをすべて回収する。
『所持金:410ガルド → 440ガルド』
「440」
数は大量だったのに、増えたのは30ガルド。
「ネズミ、安い」
ウィンダが少し残念そうに呟く。
その直後。
身体が淡い光に包まれた。
『経験値が一定値に達しました』
『レベルが上がりました』
『Lv8からLv9になりました』
『HPが3上昇しました』
『MPが2上昇しました』
『STRが3上昇しました』
『LUKが1上昇しました』
「九」
さらに、新しい通知が現れる。
『敵性対象を一定回数《掴む》ことに成功しました』
『飛行中の運搬・投擲行動が条件を満たしました』
『新たなスキル《掴み強化》を習得しました』
「また増えた」
ウィンダはすぐに詳細を開いた。
---
『掴み強化』
手・爪・脚などを用いた《掴む》動作へ補正を与える。
対象を保持する力が強化され、移動中や飛行中でも掴んだ対象を落としにくくなる。
掴んだ状態からの運搬、投下、投擲にも補助が与えられる。
---
「持ちやすくなる」
ウィンダが真っ先に考えたのは、それだった。
敵を拘束しやすくなることより。
攻撃へ使えることより。
飛びながら何かを持ち運びやすくなる。
その部分が一番気になった。
「次に試す」
残念ながら、練習相手だったビッグラットはもう残っていない。
ウィンダは現在のステータスを表示した。
---
名前:ウィンダ
種族:ハーピー
レベル:9
冒険者ランク:G
HP:34/34
MP:45/45
STR:17
DEF:8
VIT:9
INT:21
DEX:18
AGI:43
LUK:25
所持金:440ガルド
スキル:
『飛行』
『曲芸飛行』
『魔法(初級風魔法Lv2)』
『格闘』
『軽業』
『鷹の目』
『危険感知』
『掴み強化』
使用可能魔法:
『ウィンド・カッター』
『エネルギーボルト』
『エアーショット』
『ウィングブースト』
---
レベルが上がった。
力も増えた。
新しいスキルも覚えた。
そして。
「440」
所持金も少し増えた。
ウィンダは満足そうに頷き、ステータスを閉じた。
◇
「……キノコ」
そこでようやく、本来の目的を思い出した。
ビッグラットの群れを見つけてから、完全に討伐と新しい遊びに夢中になっていた。
探していたのはマジックマッシュである。
ウィンダは再び森の中へ飛び始めた。
一度特徴を覚えてしまえば、見つけること自体は難しくない。
木の根元。
倒木の影。
湿った岩のそば。
白く細長いキノコを見つけるたびに降りる。
摘む。
飛ぶ。
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『マジックマッシュ採取 13/20』
---
また見つける。
---
『マジックマッシュ採取 16/20』
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風に乗って次の場所へ。
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『マジックマッシュ採取 19/20』
---
「あと一個」
ウィンダは《鷹の目》を使い、周囲を見る。
少し離れた場所に、苔の生えた古い倒木があった。
その根元。
白く細長いものが一本だけ生えている。
「いた」
風に乗る。
倒木の前へ降りる。
翼の爪を伸ばし、最後の一本を摘み取った。
『マジックマッシュを採取しました』
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『マジックマッシュ採取 20/20』
『クエスト目標を達成しました』
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「終わった」
ウィンダはクエスト一覧を開いた。
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『硬いクルミ採取 20/20 達成』
『ホーネット討伐 10/10 達成』
『ビッグラット討伐 30/30 達成』
『マジックマッシュ採取 20/20 達成』
『レッサーバグ討伐 0/20』
『静め草採取 0/30』
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四つ。
Fランクへの昇格条件に必要な東の森指定クエスト数を満たした。
「四つ終わった」
残る二つの指定クエストは、Fランクへの昇格だけを考えるなら達成する必要はない。
そして。
次に必要なのは――。
「森の主」
ツインハンドグリズリー。
父から教えてもらった情報を思い出す。
草原の指定クエストをすべて達成。
東の森の指定クエストを四つ達成。
そして最後に、東の森の主であるツインハンドグリズリーを討伐する。
それが、GランクからFランクへ上がるために必要な条件。
ウィンダは頭上を見る。
幾重にも重なった枝葉。
その隙間から、ほんの少しだけ青空が見えていた。
あの空のさらに先。
今は透明な壁に阻まれている場所。
南の町。
西へ続く街道。
北の岩山。
東の森のさらに向こう。
もっと遠くへ飛ぶためには、森の主を倒さなければならない。
「報告する」
ウィンダは地面を蹴った。
木の幹を蹴る。
枝を掴む。
身体を振る。
風へ乗る。
《曲芸飛行》の補正を受けながら、木々の間を滑らかに抜けていく。
風向きが変われば、ウィンダも身体を傾ける。
狭い場所では翼を畳み。
広い隙間へ出れば、少し大きく開く。
もう森は、彼女を地上へ縛りつける場所ではなかった。
最初は飛べないと思った。
翼が木へぶつかった。
何度も失敗した。
けれど。
今は違う。
少し飛び方が違うだけ。
ウィンダにとって東の森は、そう思える場所になっていた。
やがて木々が途切れる。
目の前に草原が広がった。
その向こうには、アステリアを囲う高い城壁が見える。
森を抜けた瞬間。
ウィンダは大きく翼を広げた。
森の中ではできなかった、翼いっぱいの羽ばたき。
大量の風を掴む。
一気に高度が上がる。
「帰る」
青空の下。
ウィンダはアステリアへ向かって飛び始めた。
東の森の指定クエスト、四つ達成。
あとはギルドへ報告し。
その次はいよいよ――。
東の森の主。
ツインハンドグリズリーだった。
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