森の空中戦
「今度は、探す」
太い枝の上に立ったウィンダは、改めて視界の端へクエスト一覧を表示した。
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『硬いクルミ採取 20/20』
『ビッグラット討伐 0/30』
『ホーネット討伐 0/10』
『レッサーバグ討伐 0/20』
『静め草採取 0/30』
『マジックマッシュ採取 0/20』
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硬いクルミ以外は、何一つ進んでいない。
先ほどまで完全にクエストのことを忘れ、新しく見つけた森の飛び方を試すことに夢中になっていたのだから当然だった。
「ホーネット、いた」
それでも、一つだけクエスト対象の居場所には心当たりがある。
先ほど、自分が森の中を飛び回っていたときに襲ってきた大きな蜂。
あれがホーネットだった。
ウィンダは現在の状態を確認する。
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レベル:7
HP:29/29
MP:40/40
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続けて、覚えている魔法を表示する。
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『ウィンド・カッター』
消費MP:3
『エネルギーボルト』
消費MP:2
『エアーショット』
消費MP:4
『ウィングブースト』
消費MP:3
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「40」
十分にある。
ウィンダは表示を閉じると、森の音へ意識を向けた。
風に揺れる木の葉。
どこか遠くで鳴いている鳥。
落ち葉の上を走る小動物。
その中に――。
ブゥゥゥン……。
低い羽音が混じっている。
ウィンダは耳を澄ませた。
「右」
太い枝を蹴る。
両翼を大きく広げることはしない。
身体の左右へ軽く伸ばし、木々の間を流れる風を掴む。
身体が前へ流される。
正面の木に風が当たり、二つに分かれる。
その流れへ合わせて身体を右へ傾けた。
幹の横を滑り抜ける。
前方の枝へ鳥脚をかける。
身体を振り子のように振り、その勢いのまま爪を離す。
再び風を捕まえる。
右。
下。
左。
少し上。
木々の間を泳ぐように進んでいく。
もう森の木々は、ウィンダの翼を邪魔するだけの障害物ではなかった。
飛ぶための足場。
そして風の流れを作る目印だった。
「いた」
《鷹の目》が、木々の向こうを飛ぶ三つの影を捉えた。
人間の頭ほどもある巨大な蜂。
黄色と黒の縞模様をした腹部。
半透明の四枚の翅。
腹の先には短剣のような毒針が突き出している。
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『ホーネット Lv5』
『ホーネット Lv5』
『ホーネット Lv5』
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ウィンダは少し離れた枝へ止まり、三匹を眺めた。
「飛ぶ敵」
草原で遭遇したウィンドイーグル以来となる飛行型モンスター。
だが、昨日とは違う。
あのときは追われながら、どうやって戦えばいいのか必死に考えていた。
今は――。
ウィンダは周囲の木々を見回す。
葉の揺れを見る。
風を感じる。
そして、三匹のホーネットへ視線を戻した。
――この森なら、どっちの方が上手に飛べるんだろう。
そんなことが気になった。
「やってみる」
ウィンダは枝から飛び降りた。
◇
『ブゥゥゥン!』
一匹のホーネットがウィンダを発見する。
続いて、残る二匹も身体の向きを変えた。
『ホーネットが敵対しました』
一匹目が真っ直ぐ突進してくる。
腹部を丸め、鋭い毒針をウィンダへ向けていた。
ウィンダは慌てて翼を羽ばたかせなかった。
前方にある木を見る。
風が幹へ当たり、左右へ分かれている。
右。
翼の角度をほんの少し変える。
身体が風へ引かれる。
毒針がウィンダの髪のすぐ横を通り過ぎた。
すれ違う瞬間。
ウィンダは翼の先にある四本の爪を開く。
「そこ」
狙ったのは胴体ではない。
右側。
ホーネットの翅が身体へつながる、その付け根。
爪を振り抜いた。
ザシュッ!
『ホーネットに14ダメージ』
『右飛行翅に大ダメージ』
『部位破壊――右翅』
半透明の翅が二枚、根元から切り裂かれた。
『飛行器官が破壊されました』
『飛行能力を喪失しました』
「落ちた」
『ブブッ!?』
ホーネットは残った翅を必死に動かした。
だが、片側の翅だけでは身体を支えることができない。
ぐるぐると回転しながら高度を失い、そのまま地面へ落下する。
ドサッ!
『落下ダメージ 9』
地面へ叩きつけられた衝撃によって、さらにHPが削られた。
ウィンダの視界に簡単な説明が表示される。
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『部位破壊』
モンスターの特定部位へ一定以上の損傷を与えることで、その部位を破壊できる場合があります。
腕や脚、角、尾、翼など、破壊した部位によって対象の能力や行動が制限されます。
飛行に必要な翼や翅を破壊されたモンスターは、飛行能力を失います。
空中にいる状態で飛行能力を失った場合、高度に応じた落下ダメージを受けます。
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「翅を壊せば、落ちる」
一つ覚えた。
だが、考えている時間は長くなかった。
残る二匹が迫っている。
一匹は正面。
もう一匹は斜め上。
ウィンダは近くに伸びる枝へ、翼の爪を伸ばした。
掴む。
そのまま身体を持ち上げる。
枝を鉄棒のように利用し、一気に上へ跳ねた。
二匹のホーネットが、その下を通過する。
ウィンダは枝から脚を離した。
落下。
真下を飛び抜けた一匹の背中へ、鳥脚を叩き込む。
『ホーネットに21ダメージ』
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 1/10』
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一匹目が光の粒へ変わった。
残る二匹。
先ほど翅を壊されて地面へ落ちたホーネットも、まだ生きている。
飛べない身体で地上を這いながら、毒針をウィンダへ向けていた。
もう一匹は空中。
ウィンダの背後へ回り込み、追いかけてくる。
ウィンダは木々の間を滑るように飛ぶ。
ホーネットも追ってきた。
直線であれば、決して遅くはない。
しかし――。
「ウィングブースト」
詠唱を開始する。
一瞬、飛行中の身体へ強い制動がかかった。
同時にMPが消費される。
『MP:40 → 37』
魔法が完成した。
淡い緑色の風がウィンダの翼を包む。
『《ウィングブースト》発動』
『AGI・飛行速度に補正』
ウィンダは一気に加速した。
正面には太い木。
だが、進路を変えない。
真っ直ぐ幹へ向かって飛んでいく。
後ろのホーネットも追う。
幹まで三メートル。
二メートル。
一メートル。
衝突する寸前。
ウィンダは左脚を伸ばした。
鳥脚の鉤爪で木の幹を掴む。
身体を横へ振る。
《ウィングブースト》で得た速度を回転へ変え、木の周囲を半周するように方向転換。
そして爪を離した。
ウィンダだけが、ほとんど速度を落とさず真横へ飛び出す。
『ブッ!?』
追っていたホーネットには、その動きを真似できなかった。
目の前には太い幹。
慌てて進路を変えようとする。
だが、遅い。
ドンッ!
頭から木へ激突した。
『障害物へ激突しました』
『激突ダメージ 7』
衝撃でホーネットの動きが止まる。
ウィンダはすぐに身体を反転させた。
「エアーショット」
圧縮された風が、正面へ集まっていく。
バスケットボールほどの大きさになった風の球体。
『MP:37 → 33』
「飛んで」
風球が放たれた。
まだ体勢を立て直せていないホーネットの胴体へ直撃する。
『ホーネットに18ダメージ』
『ノックバック発生』
ホーネットの身体が後方へ吹き飛んだ。
その先には、先ほど激突したのと同じ木。
ドガッ!
『障害物へ激突しました』
『激突ダメージ 8』
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 2/10』
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「二回、当たった」
エアーショットそのもののダメージ。
そして、吹き飛ばされた先に障害物があれば、そこへ激突した衝撃による追加ダメージ。
ウィンダは木の幹を見た。
この森には、どこへ行っても木がある。
最初は邪魔だった。
翼を広げればぶつかる。
自由に飛べない。
嫌いになりかけた。
けれど今は違う。
木は蹴って加速できる。
掴んで方向転換できる。
そして敵を叩きつける壁にもなる。
「森、使える」
少し嬉しくなった。
最後の一匹。
翅を破壊されて地上へ落ちたホーネットが、まだこちらへ向かってくる。
ウィンダは枝から飛び降りた。
地面すれすれで風を掴む。
ホーネットの毒針が突き出された。
身体を横へ傾けて回避。
そのまま木を蹴り、後ろへ回り込む。
「後ろ」
鳥脚を前へ突き出した。
『ホーネットに19ダメージ』
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 3/10』
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ウィンダは近くの枝へ降り立つ。
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HP:29/29
MP:33/40
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「33」
攻撃は一度も受けていない。
減っているのは、魔法を使った分のMPだけ。
ウィンダは魔法欄を見る。
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『ウィンド・カッター MP3』
『エネルギーボルト MP2』
『エアーショット MP4』
『ウィングブースト MP3』
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魔法は便利。
でも、使い続ければMPはなくなる。
飛ぶだけならMPはいらない。
爪も。
脚も。
木を蹴ることも。
「節約」
ウィンダなりに、少しだけ戦い方を考えることにした。
◇
それからもウィンダは、森の中を飛び回りながらホーネットを探した。
四匹目。
木々の間を飛んでいる一匹へ、背後から近づく。
《鷹の目》で翅の付け根を確認。
すれ違いざまに翼の爪を振る。
『部位破壊――左飛行翅』
『飛行能力を喪失しました』
『ブブッ!?』
ホーネットが空中でバランスを失う。
落下。
ドサッ!
『落下ダメージ 11』
ウィンダも追って急降下する。
地面へ落ちた直後のホーネットへ蹴りを叩き込んだ。
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 4/10』
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五匹目。
少し遠い位置を飛んでいるホーネットへ向かって、ウィンダは翼を向けた。
「ウィンド・カッター」
『MP:33 → 30』
圧縮された風の刃が作られる。
今回も狙うのは身体ではない。
翅。
「飛んで」
風の刃がホーネットの横を走る。
『ホーネットに15ダメージ』
『部位破壊――飛行翅』
『飛行能力を喪失しました』
翅を切断されたホーネットが落下する。
『落下ダメージ 8』
ウィンダは風に乗りながら一気に距離を詰める。
飛び蹴り。
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 5/10』
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六匹目には魔法を使わなかった。
あえて自分の姿を見せる。
『ブゥゥン!』
敵対したホーネットが追いかけてきた。
右。
左。
枝の下。
木と木の間。
ウィンダは森を流れる風へ身体を預けていく。
ホーネットも必死に追ってくる。
ウィンダは目の前の枝へ脚をかけた。
身体を大きく回転。
突然の反転。
『ブッ!?』
追っていたホーネットと正面からすれ違う。
爪。
そのまま背後へ。
蹴り。
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 6/10』
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「できる」
一戦ごとに、森での身体の使い方が洗練されていく。
ホーネットも空を飛べる。
しかし、その飛び方は単純だった。
翅を動かして前へ進む。
木があれば避ける。
枝があれば回り込む。
ウィンダは違う。
木があれば蹴る。
枝があれば掴む。
風が曲がれば、自分も一緒に曲がる。
森に逆らわず、森そのものを使って飛ぶ。
七匹目。
二匹のホーネットに同時に追われる。
一匹が前方へ回り込み、もう一匹が後ろから追う。
ウィンダは前方の一匹を見る。
「エアーショット」
『MP:30 → 26』
風球を作る。
正面から突進してくるホーネットへ、そのまま放った。
『ホーネットに17ダメージ』
『ノックバック発生』
吹き飛ばされたホーネットが、横の木へ叩きつけられる。
ドガッ!
『激突ダメージ 9』
ウィンダは近くの幹を蹴った。
一気に接近。
速度の乗った飛び蹴りを叩き込む。
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 7/10』
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八匹目。
今度は完全に飛行技術だけで倒した。
突進を誘う。
避ける。
枝を掴む。
反転。
背後へ回る。
翼の爪で翅を切り裂く。
『部位破壊――飛行翅』
『飛行能力を喪失しました』
落下。
『落下ダメージ 12』
ウィンダも上から降りていく。
真上から踵を落とした。
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 8/10』
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「落とすの、楽」
飛行モンスターだからといって、必ず空中で最後まで戦う必要はない。
翅を破壊すればいい。
そうすれば地上へ落ちる。
ウィンダの中に、一つの戦い方が出来上がり始めていた。
九匹目。
今度は、もっと速く動けるか試したくなった。
「ウィングブースト」
『MP:26 → 23』
翼を淡い風が包む。
木の枝を蹴る。
一気に加速した。
ホーネットの周囲を一周する。
『ブッ!?』
敵がウィンダの姿を追って身体の向きを変える。
その間に、もう背後へ回っていた。
「遅い」
翼の爪を振る。
身体を回転させる。
その勢いを乗せて蹴る。
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 9/10』
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「あと一匹」
最後のホーネットは、少し離れた場所を単独で飛んでいた。
ウィンダが近づくと、すぐにこちらへ気づく。
『ブゥゥゥン!』
毒針を向けて突進してきた。
ウィンダは逃げるように背を向ける。
追わせる。
森の中を飛ぶ。
右。
左。
上。
急降下。
木を蹴る。
風へ乗る。
ホーネットは必死に後ろから追いかけてきた。
その羽音を聞きながら、ウィンダは笑っていた。
風が分かる。
どこへ身体を向ければいいのか分かる。
昨日まで、飛べないと思った森の中を自由に動いている。
「もっと」
もっと速く。
もっと鋭く。
もっと自由に。
けれど、今日はクエストも忘れていない。
たぶん。
ウィンダは前方の枝へ着地した。
振り返る。
ホーネットが一直線に迫ってくる。
「ウィングブースト」
『MP:23 → 20』
翼を風が包む。
ウィンダは枝を蹴った。
正面からホーネットへ向かって加速する。
互いの距離が一気に縮まった。
毒針が迫る。
衝突する直前。
ウィンダは掴んでいた風へ身体を預ける。
横へ滑る。
毒針が頬の横を通り過ぎた。
すれ違いざまに、翼の爪を振る。
狙うのは翅。
『ホーネットに13ダメージ』
『部位破壊――飛行翅』
『飛行能力を喪失しました』
『ブブッ!?』
最後のホーネットが落下を始める。
だが、ウィンダは地面へ落ちるのを待たなかった。
身体を反転。
「エアーショット」
『MP:20 → 16』
風が集まる。
バスケットボールほどの風球が完成する。
落下するホーネットへ照準を合わせた。
「飛んで」
直撃。
『ホーネットに18ダメージ』
『ノックバック発生』
落下していたホーネットの身体が、横方向へ大きく吹き飛ばされた。
その先には、太い木。
ドガッ!
『障害物へ激突しました』
『激突ダメージ 10』
さらに木から弾かれ、そのまま地面へ落ちる。
ドサッ!
『落下ダメージ 6』
『ホーネットを討伐しました』
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『ホーネット討伐 10/10』
『クエスト目標を達成しました』
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「終わった」
ウィンダが近くの枝へ降りようとした、その瞬間。
身体が淡い光に包まれた。
「ん?」
『経験値が一定値に達しました』
『レベルが上がりました』
『Lv7からLv8になりました』
『HPが2上昇しました』
『MPが3上昇しました』
『STRが2上昇しました』
『AGIが2上昇しました』
「また上がった」
ウィンダは枝へ降り立ち、自分の身体を確かめるように翼を開いた。
少し軽い。
翼へ力を入れたときの反応も、先ほどまでより早く感じる。
だが、通知はまだ終わっていなかった。
『特殊な飛行行動を一定回数確認しました』
『《飛行》《軽業》による複合行動が条件を満たしました』
『新たなスキル《曲芸飛行》を習得しました』
さらに。
『継続的な危険回避行動が条件を満たしました』
『新たなスキル《危険感知》を習得しました』
「新しい」
ウィンダはすぐに詳細を開いた。
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『曲芸飛行』
《飛行》スキルを補助する派生スキル。
急降下、急上昇、急旋回、反転などの複雑な空中機動へ追加補正を与える。
翼や身体の細かな姿勢制御が補助され、飛行中の方向転換を行いやすくなる。
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『危険感知』
自身へ危険が迫った際、その存在や方向を感覚的に察知する。
危険度が高いほど感知しやすくなる。
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「曲がりやすくなる」
ウィンダが真っ先に興味を示したのは、やはり《曲芸飛行》だった。
枝から軽く跳び上がる。
翼を開く。
前方には一本の木。
ウィンダは身体を横へ倒した。
「おお」
今までよりも明らかに滑らかに進行方向が変わった。
木の幹すれすれを通り抜ける。
そのまま急降下。
地面へ近づく。
翼を開いた。
今まで以上に素早く風を掴み、身体が鋭く上向きへ変わる。
急上昇。
そのまま細い枝の間へ飛び込む。
右。
左。
急旋回。
反転。
木を蹴る。
《曲芸飛行》の補助によって、意識した動きへ身体がついてくる。
特に旋回が違った。
これまでは急激に方向を変える場合、少し速度を落とす必要があった。
今は速度を保ったまま、以前よりも鋭い角度で曲がれる。
「楽しい」
ウィンダの顔に笑みが広がる。
もっと試したい。
そう思い、そのまま前へ飛び出そうとした。
その瞬間。
ぞくり。
「……?」
背中に冷たいものが走った。
何かがいるわけではない。
音を聞いたわけでもない。
それなのに。
――危ない。
そう感じた。
ウィンダは考えるより先に、身体を横へ滑らせた。
直後。
バキッ!
頭上から折れた太い枯れ枝が落ちてきた。
先ほどまでウィンダの頭があった場所を通り過ぎ、そのまま地面へ落ちる。
ドサッ!
ウィンダは空中で停止した。
「今の……」
視界の端へ、小さな表示が現れた。
『《危険感知》が発動しました』
ウィンダは落ちた枝を見る。
見ていたわけではない。
枝が折れる音を聞いたときには、もう身体を動かしていた。
ただ危険だという感覚だけが先に伝わってきた。
「これが、危険感知」
飛ぶ速度が上がれば上がるほど、周囲を確認する時間は短くなる。
死角からの攻撃。
落下物。
突然現れる障害物。
《危険感知》があれば、そうしたものへ少し早く反応できる。
「便利」
ウィンダは現在のステータスを確認した。
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名前:ウィンダ
種族:ハーピー
レベル:8
冒険者ランク:G
HP:31/31
MP:43/43
STR:14
DEF:8
VIT:9
INT:21
DEX:18
AGI:43
LUK:24
スキル:
『飛行』
『曲芸飛行』
『魔法(初級風魔法Lv2)』
『格闘』
『軽業』
『鷹の目』
『危険感知』
使用可能魔法:
『ウィンド・カッター』
『エネルギーボルト』
『エアーショット』
『ウィングブースト』
---
レベルアップによって最大MPが三増え、それまで減っていたMPも全快している。
「43」
まだ飛べる。
まだ戦える。
そして、先ほどまでよりもっと自由に飛べる。
ウィンダは嬉しそうに翼を開いた。
クエスト一覧も確認する。
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『硬いクルミ採取 20/20』
『ホーネット討伐 10/10』
『ビッグラット討伐 0/30』
『レッサーバグ討伐 0/20』
『静め草採取 0/30』
『マジックマッシュ採取 0/20』
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森の指定クエストは二つ終了。
Fランクへの昇格条件として必要なのは、あと二つ。
「残り二つ」
そう呟いたとき。
森の奥から、心地よい風が吹いてきた。
葉が揺れる。
枝がしなる。
ウィンダの白と水色の羽毛が、ふわりと持ち上がる。
ウィンダは、その風が向かっていく方向をじっと見た。
《曲芸飛行》。
《危険感知》。
今までより、もっと速く。
もっと鋭く。
もっと自由に。
「……少しだけ」
誰も聞いてはいない。
何を少しだけなのかも、ウィンダ自身にしか分からない。
太い枝を蹴る。
翼を開く。
風を掴む。
次の瞬間。
ウィンダは先ほどまでよりも鋭い軌道を描きながら、木々の隙間へ飛び込んでいった。
次のクエスト対象を探すため――。
というより。
手に入れたばかりの新しい飛び方を、もう少し楽しむために。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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