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54話 南部ダンジョン攻略③

 夜間は、念のため交代で見張りをすることになった。当然、アレイシオ殿下とその随行である私とラウル先輩は遠慮されたが、王族であるアレイシオ殿下と貴族であるラウル先輩とは違い、私は平民だ。

 変な遠慮はされたくないと、無理矢理最初の見張りをもぎ取った。

 今晩は私含めた三人が順番に見張りをすることになっている。


 焚き火を眺めながら、考える。一人になってしまうと、考えることぐらいしかやることがないのだ。


 どうして、アレイシオ殿下は私を冬の島へ連れてきたのだろう。

 私は、ルミエナ殿下の影武者として、冒険者と共にダンジョンを攻略していた。

 未攻略ダンジョンに入れる冬の島管区は、自分が希望する配属先でもあったけど、第三王子の従者役として来るのは、多分間違いだった。

 歓迎の宴で会ったガディエン殿下や、ダンジョンでの不審な慣れが、正体がばれるリスクと、もしばれた時の危険を増長している。


 いや、本当は結論は出ている。今回、アレイシオ殿下は私の危険なんて、度外視だったのだと思う。

 私の抱えるリスクは一切加味せず、自分が切れる最強のカードを切った。

 その考えだけが、辻褄を合わすことができる。


「ちゃんと起きてたか」

「⋯⋯リオネル先輩、交代には早いですよ」


 思考の渦に呑まれそうになっていたら、次の見張りであるリオネル先輩に声を掛けられた。信用されてないのかな。

 リオネル先輩は私をスルーして、焚き火に手をかざす。ただ寒くて起きたのだろうか。


 今回の冬の島管区 南部ダンジョン攻略の裏で、アレイシオ殿下は命を狙われている。

 それこそ、命を落とす可能性のあるダンジョンに行かされているだろうし、敢えて強いモンスターが伏せられている可能性があるとも言っていた。

 そんなアレイシオ殿下にとって、干渉光魔法インターフェアが使える私は、最強の護衛だ。

 私の複雑な事情を気にできないほど、あの人は切羽詰まっている。


「リオネル先輩、インターフェア教えてください」

「前も言ったが、嫌だ」

「春の島管区の時は、仕事に使わないからって言ってましたけど、今は仕事で使います! だから教えてください」


 焚き火に向けていた顔をリオネル先輩に向ける。リオネル先輩は変わらず、焚き火を見ているままだ。


 アレイシオ殿下直属の部下になっても、私は変わらずルミエナ殿下の即位を望んでいる。

 だからインターフェアを使うためには、私が干渉光魔法を使ってもルミエナ殿下に繋がらないようにしなきゃいけない。私が干渉光魔法を使えるようになった理由が欲しいのだ。


「セリア、光魔法は周囲を照らすのと、矢の形にして放出すること、槍のようにして投擲すること。他に何ができる?」

「球状にして投擲することくらいです」

「その程度の奴に教えたって、インターフェアは使えるようにならない」


 は? 咄嗟に出そうになった声を抑え込む。

 私は既にインターフェアが使える。使う理由付けに、リオネル先輩に教わったという実績が欲しいだけだ。


「今日リオネル先輩がやってた、発散ができるようになればいいですか?」

「それだけじゃない。光魔法は加速にも使えるし、浄化にも使える。全部できるようにならないと、インターフェアなんて夢物語だ」


 そんなわけない。私は光属性魔法よりも先に干渉光魔法を覚えた。

 それにそもそもインターフェアなんて、ダンジョン攻略が終われば不要になる、時代遅れの魔法だ。

 インターフェアより、加速や浄化の方が今後は貴重になるだろう。


「全部は無理ですけど、とりあえず明日発散をものにします。だから、明日もう一度考えてください」

「俺の気持ちは変わらない。交代の時間だから、もう寝ろ」


 リオネル先輩に挨拶して、立ち上がる。

 この程度で諦めていいような、猶予なんてない。そんな予感がしていた。



***



 朝になり、焚き火を片付けていたら、リオネル先輩とイングリッド姐さんが、今日の隊列を相談している声が漏れ聞こえた。

 絶対に候補に入っていないのは承知の上で、空気を読まずに割り込む。


「先頭行かせてください!」

「セリア、奥に行けば行くほど難易度は上がる。お前には無理だ」


 リオネル先輩は、キツい言葉を浴びせる。昨日のことを覚えているからだろう。

 だからこそ、引かない。絶対にこの人に認めさせたい。


「リオ坊お前怖いぞ。あたしが隣でフォローするし行かせてやろうぜ」

「ありがとうございます!」



 イングリッド姐さんの鶴の一声で先頭を歩かせてもらえることになり、サクサクと雪に足跡を残しながら歩く。


「セリアとリオネルって得意魔法一緒なんだな」


 周囲を警戒しながら黙々と歩いていた私に、イングリッド姐さんが真面目なトーンで話し掛けてくる。


「私はインターフェア使えないですよ」

「リオネルもインターフェアが得意魔法ではないべ」

「え?」


 淡々と言うイングリッド姐さんに驚く。私は封じられていなければインターフェアが得意魔法だし、ルミエナ殿下もインターフェアが得意魔法だ。

 だから当然、リオネル先輩もインターフェアが得意魔法だと思っていた。


「光魔法と結界術が得意だって言ってたぞ」

「じゃあ、私と一緒です」


 話す合間に、サクサクと雪を踏む音がする。


「リオネルは、光魔法とインターフェアは全く別物だって言ってた。だからセリアは焦らなくていーんじゃねえの」

「昨日、聞かれてたんですね」

「長く冒険者やってるとさ、夜仲間が喧嘩してることもあるべ。それを次の日に引きずることも。だから敏感なんだよ」

「すみません⋯⋯」


 同じ雪景色の中なのに、サクサクという音が止んだ。


「あっ、トラップ」

「セリア?」


 急に立ち止まった私を、イングリッド姐さんが不思議そうに見つめる。


「ここから消音魔法がかかってます。なのでトラップが仕掛けられていると思います」

「ああ、リオネル呼ぶか?」


 やっぱり舐められてるままなんじゃん。

 私は無言で杖を持つ右手を少しだけ持ち上げる。光属性魔法で薄い膜を張るように地面を照らす。

 私たちの三歩ほど先だけが、光を反射しない。多分、落とし穴だ。


「セリアお前、何でもできるな⋯⋯」

「そうですよ。やっとわかってくれました?」


 横目でイングリッド姐さんを見る。この人がリオネル先輩を説得してくれないだろうか、そんな下心が湧いた。


 

 地図を見ながら歩き続けば、最奥らしき洞穴に辿り着く。降り出した雪に、発生しそうなモンスターをいくつか想像する。

 秋の島って雪系のモンスター少なかったから、あんまり引き出しないんだよなぁ。


「どうする? リオネル」


 未攻略ダンジョンでは、ラスボスは偵察のみで戦わず帰ることも多い。定石通りに帰るかどうか、イングリッド姐さんがリオネル先輩に判断を仰いだ。

 リオネル先輩は二十五歳、この規模の指揮を取るほどの年ではないし、リオネル先輩よりイングリッド姐さんの方が年上で、冒険者歴も長い。

 ダンジョン保全機構側は、退職者が出たせいかリオネル先輩が最年長とはいえ、意思決定者がリオネル先輩であることに、私は少し驚いた。


「俺の魔力にかなり余裕がある。倒せると思う⋯⋯」


 リオネル先輩はちらっとアレイシオ殿下の方を見て、もう一度口を開く。


「いや、俺とイングリッド姐で偵察して今日は帰る」

「あたしは倒す方に一票だな。ダンジョンはここだけじゃない、慣れていない人も多いから時間をかけない方が良い」

「なるほど。勉強になった」


 二人の会話に、イングリッド姐さんもリオネル先輩を鍛えているのだとわかる。確かに今の冬の島管区の人員だと、リオネル先輩に教えられる人はいない。

 だから、貪欲にもイングリッド姐さんに教えを請うたのだろうか。確かこの人は、インターフェアも王宮にわざわざ通って習得したと聞いたことがある。


「セリア」

「はい?」


 後ろから肩をちょんちょんとつつかれ、後ろを振り向く。するとアレイシオ殿下が、もう見慣れてしまった男の子の顔をしていた。

昨日更新するの忘れていました。大変失礼しました。

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