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53話 南部ダンジョン攻略②

 視認した狼は、スノーウルフ五匹だった。南の島で戦ったディアウルフより、スノーウルフは特殊な技能が多い。強いモンスターに、一瞬自信を失う。

 ここでインターフェアを使って、イングリッド姐さんの度肝抜けたら気持ちいいだろうなぁ。なんて、自分のプライドのためだけに干渉光魔法を使いたくなったのは、人生で初めてだ。


 でも当然、そんなことは許されない。私は先手必勝とばかりに、光の矢を放つ。


「セリセリ、やる気じゃん! 一匹任せたぜ!」

「うるさいです!」


 想定より攻撃が効かない苛立ちをイングリッド姐さんにぶつけてしまう。まずいかと正気に戻った瞬間、攻撃していたスノーウルフが姿を消した。


 だけどこの動きは知っている。スノーウルフは雪面を高速で移動して背後を取ることが多い。数年前の経験が脳裏を過った。

 山勘で背後に結界を張れば、ちょうど後ろで大きな衝突音が鳴る。


「わかってたんだよなー! お前がそこに来ることは!」


 杖を大きく振り被った、その時だった。


「セリア、左!」


 今回の仲間である冒険者に叫ばれ、咄嗟に左に結界を張る。もう一匹、私を狙っているスノーウルフがいたようだ。

 確かにスノーウルフは、群れで人を狩る知能がある。とはいえ一匹でも強いのに、二匹。

 生唾を飲み込んで、もう一度杖を振った。


「光属性魔法。圧縮、指向固定ーー投擲」


 いつもの光の矢ではなく、光の槍を後ろにいるスノーウルフに投げつける。一撃とはいかないだろうが、ここまでの攻撃を与えたら、誰かが対処してくれるに違いない。

 そうやってもう一匹に向き合えば、スノーウルフは前足で地面を踏み鳴らしている。地面が凍るやつだ、とまたもや過去の記憶を引き出した。


 牽制に光の矢をスノーウルフに飛ばす。やはり攻撃はあまり効かず、正面から突っ込んでくる。


「結界術――侵入方向を指定。攻性付与、拘束」


 でも正面からなら何も怖くない。得意の結界術でスノーウルフを捉え、余裕を持って光の槍で刺す。


「なんだ倒せてるじゃないか」

「舐められたままではいられないので」


 リオネル先輩に声掛けられ、周囲を見渡せば、他のスノーウルフも全て倒されている。

 インターフェアを封じられている私にとっては中々手強い敵だが、プロの冒険者たちからしたら脅威ではないのだろう。


「セリアめっちゃハイになってたよなー」


 からかう口調でラウル先輩が近づいて来て、こんなに寒いのに体温が上がる。確かになんかめっちゃスノーウルフに話しかけてた⋯⋯。


「意外だったね」

「⋯⋯忘れてください」


 アレイシオ殿下にまで言われ、嫌な流れを止めようと口を開けば、先程とは比べ物にならないほどか細い声が出た。



***



 そのまま少し歩けば、風を防げそうな洞窟があった。今日はここで野営するかと、リオネル先輩が立ち止まる。


 周囲の安全確認や、寝床の準備、モンスター避けの魔法薬を撒いたりなど、役割分担して野営の準備を進めることになった。

 私はイングリッド姐さんが焚き火を起こすのを手伝う。


「セリア、鍋の準備頼んでいいか?」

「わかりましたー」


 冒険者の方たちが運んでくれていた鍋を受け取り、持ってきた食材と調味料を放り込む。

 ダンジョン飯なんて適当が一番美味いって秋の島の冒険者たちはよく言ってた。

 イングリッド姐さんがセッティングしてくれた焚き火に鍋を置き、火を大きくするよう扇ぐ。


「ウサギ系のモンスター出てほしいですねー」


 鍋を見守るくらいしかやることが無くなり、イングリッド姐さんに話しかける。

 ダンジョン攻略時は、肉は現地調達できるからと持って来ないことが多いのだ。今回も例に漏れず肉は持ってきていないから、良い食料と遭遇しなかった今日は肉抜きである。


「肉食いてえなら、フロストバットかスノーウルフ持ってこりゃ良かったんじゃねえのー?」

「からかわないでくださいよ。肉食のモンスター不味いじゃないですか」


 私が反論するも、イングリッド姐さんの返事が来ず、何かまずったかと焦る。

 え? 冬の島の冒険者ってもしかして肉食モンスター食べるの?

 顔を上げれば、気まずそうなイングリッド姐さんと目が合った。


「いや、セリセリ慣れてんな⋯⋯」

「はい?」

「手際も発言もダンジョン攻略経験者だべ。悪かったな舐めてかかって」

「いやあの、全然経験者とかでは」


 どこでバレた!? 心臓がバクバクと音を立てる。確かに私はルミエナ殿下影武者時代に、何度もダンジョンの攻略に潜っているし、野営の経験だって多い。

 とはいえ表向きにはルミエナ殿下として振る舞っていたから、野営準備の手伝いも最低限だったし、経験者とは言い難い。

 いやそれ以上に、しおらしいイングリッド姐さん気まずいって。


「大変だったよな。冒険者から王子様の随行員なんて。まじ、すっげえよ」

「ほんと、誤解です」


 いたわりと尊敬の入り混じった目が向けられ、どんどん肩身が狭くなる。

 決して言えないけど、冒険者経験があるのは事実だ。だけどイングリッド姐さんが思うような苦労は全くしていない。

 鍋もぐつぐつと湧き、前の雰囲気でイングリッド姐さんとご飯食べたいという焦りも生まれ始めた。


「いやいや、あたしに謙遜しなくていいから」

「いや、えと⋯⋯。初めてのことでも手際良すぎるほど、優秀ですみません」


 口に出してから、何言ってんだろと正気に帰り、皿を取るために立ち上がる。

 すると、いつから背後にいたのか、ドン引きしているリオネル先輩と目が合った。

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