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55話 南部ダンジョン攻略④

「私、見くびられるの嫌いなんだ」

「お揃いですね!」


 イングリッド姐さんと、リオネル先輩が先陣切って洞穴に駆ける。

 私とアレイシオ殿下も並んで、一段と降り積もる雪の中に突っ込んだ。


 雪の中にいたのは、イエティだった。先日リオネル先輩が一撃で倒したのを見たばかりで、ラスボスとはいえさほど脅威ではない。

 むしろリオネル先輩に倒される前に、どこまで自分たちをアピールできるかが勝負だ。


 ダンジョン外で遭遇したイエティより一回り大きな白い大男が、やはり先日のそれより俊敏にイングリッド姐さんの攻撃を避ける。

 後衛の魔法使いや、私とアレイシオ殿下の方に跳んできたイエティに、すかさずラウル先輩が斬りかかる。

 信用していた。ラウル先輩は攻撃よりも防御が上手い。横から走り込み、杖でイエティに触れる。


「光属性魔法ーー発散」


 杖が触れたイエティの、腕ほんの一部だけが弾け飛ぶ。初っ端から上手くはいかないか。

 その一手がイエティのヘイトを買い、狙いが私に移ったとわかる。


「は? おっま!」


 ラウル先輩は即座に私とイエティに間に立ち位置を変える。驚かせて申し訳ないけど、この程度なら対応してくれるって信じてた。


「水よ、集え。形を成し、凍てよ――氷剣」


 背後からアレイシオ殿下が氷の剣を振り被る。この剣が当たりさえすれば、イエティはその場で凍りつく。終わりだ、内心そう思った。


 イエティがその場で大きく跳躍して、アレイシオ殿下の攻撃を避ける。「嘘でしょ!?」と思わず声が漏れた。


「セリア結界!」

「はい!!」


 ラウル先輩が叫けぶ。反射的に後衛全員をカバーできる、広範囲の結界を張った。

 イエティが私の頭上に降りてきたのを、結界が受け止める。結界が軋む音がした。


「わんぱく坊主共が!」


 イングリッド姐さんがイエティに突進し、結界の上から突き落とす。その先には、見慣れた光が灯っていた。



***



 身分を恐れないとはすごいことで、私とアレイシオ殿下は今食堂で正座させられている。

 首にはお揃いの「私は連携を乱したわんぱく坊主です」というイングリッド姐さんお手製の看板。


「アレイシオ殿下、セリア! ダンジョン攻略は遊びじゃないんだぞ」

「すまない⋯⋯」

「すみません」


 怒られている立場で思うことではないが、一国の王子を正座させて叱れる人って、一体何人ぐらいいるんだろう。


「まぁ若い冒険者なんて、わんぱくなことだけが取り柄みたいなもんだからなー! リオネル! ペナルティはどうする? 雪かきの季節でもねえし、買い出しか?」

「王子を若手冒険者と同じ括りにするな」


 リオネル先輩は、ずっと関わりたくないオーラを纏っていた。話しかけられてかなり気まずそうである。

 言い合う二人をよそにアレイシオ殿下を見れば、顔に「怒られちゃったね」と書いてある。あんまり機会がないから嬉しいのだろうか⋯⋯?


「二人のペナルティは、今日のダンジョン攻略の報告書作成にします。慣れているでしょうし」

「わかった」

「わかりました」

「セリアは同じことをまたしたら、絶対にインターフェアを教えない」


 何よりもよく効く脅し文句に私は首をすくめた。



 結局、私とアレイシオ殿下は買い出しに行った。一番若手の管理官だから私が買い出しに行くことになり、アレイシオ殿下がそれについて来たのだ。

 嬉々として買い物袋を背負うアレイシオ殿下に、この人今の状況を楽しんでいるなと思う。

 王子として生まれなければ、わんぱくな男の子として全く違う大人になっていたのだろう。


「セリア、少し寄り道して行かないかい?」

「良いですけど、行きたいところでもあるんですか?」


 時間には少し余裕がある。それでも、あまり遠くへ行くと、戻って来るのにも時間がかかる。


「あの辺りがどうなっているのか、見てみたかったんだ」

「結構遠いですけど⋯⋯」

「他に飛んでいる人がいないから、スピードを出せば間に合うよ」


 楽しげなアレイシオ殿下に強く出るのはなんだか憚られてしまって、私は箒に飛び乗る。


 人が集う街中から、山の方へと箒で飛ぶ。

 グレイス砦市は、かつて冒険者が集まり栄えた街だ。クアドリア王国中で冒険者ブームが去るとともに、未攻略ダンジョンを残して冒険者が減って行った。

 それを正しいとは言えないけど、間違っているとも思わない。


 行き場のなくなった冒険者。取り締まりを逃れたクソみたいな色街。

 天幕が並んだ河川敷が燃えた光景。振り上げられた酒瓶。

 冒険者なんて、もう終わりゆく職業だ。全てのダンジョン攻略後に、多くの冒険者が残った街は碌なことにならなかった。

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