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48話 ダンジョン保全機構 冬の島管区

ここは冬の島ーー雪広がる真白き一面と、人里には温泉の煙。深い灰色の空に、枯れ草の黄金色。長き冬が生むこの景色は、多くの水墨画に残され、畏れと優しさが同居する、荘厳な美として人々の心に刻まれている。


 そんなことはさておき、冬の島への旅行というのは、夏の島の子供たちにとっては、定番の憧れらしい。

 理由は単純。基本的に、一生行くことがないからだ。


 魔導船で一度秋の島に行き、船を乗り換え冬の島まで、丸三日もかかった。

 私は既に、もう一生船に乗りたくないかもとすら思っている。長かった。


「かなりしんどかったです」

「そうだね。ルミエナ殿下には、早く魔導飛行船を完成させてもらわないと」

「王族ジョークっすね」


 ただの雑談ではあるが、最近気になっている単語が、アレイシオ殿下の口から出てきたから聞いてみる。


「それ王国新聞見ましたけど、完成したら自由に空飛んじゃダメになるんですよね?」

「制限されるのは、高さだけだと聞いているよ」


 じゃあいいかと、胸をなで下ろす。

 今日の行程表を確認すれば、冬の島管区に行くのは午後だから、少し時間があるようだ。


「時間に余裕ありますけど、ラウル先輩が前言ってた、剣舞のなんか行きます?」

「それも確かに近えけど⋯⋯」


 ラウル先輩はアレイシオ殿下をうかがう。

 あ、こういう時は一番身分が高い人の行きたいところに行かないといけないんだった!


「私は冬の島に来たことがあるし、二人の行きたいところに寄って構わないよ」

「すみません、ありがとうございます」


 気を遣っていただき、即座にラウル先輩が頭を下げる。私もお礼を言ってお辞儀した。


「じゃあ、チーズケーキ食べに行きません?」


 それでもまだ遠慮があるのか、ラウル先輩は無難な提案をする。

 まあ剣舞のなんとかって、ラウル先輩以外興味ないだろうしな。私はチーズケーキの方が嬉しい。


「私も剣舞よりそっちがいいです!」


 勢いよく言ってから振り返れば、アレイシオ殿下が少し悲しそうな顔をしていた。この人多分、譲歩するふりして行きたかったんだ⋯⋯。男の子だから。

 気づいてしまって、おろおろとアレイシオ殿下に視線をやれば、それに気づいたアレイシオ殿下が、困ったように微笑んだ。

 遠慮させてしまって、すみません。



 チーズケーキは、かつて食べたことがないほど美味しかった。


「私これ買って帰ります! 最後の日に!」

「帰りはこの港を使うかわからないよ」


 盛り上がっていた気持ちが、アレイシオ殿下のひと言で萎んでいく。

 行きはダンジョン保全機構 冬の島管区へ寄るため、冬の島北部の港に降りたが、攻略するダンジョンは冬の島南部にある。

 帰りの行程は、まだ決まっていないのだ。


「すみません。俺ちょっと、お土産買ってきてもいいですか?」


 沈む私を前に、ラウル先輩は遠慮がちに言う。


「構わないけど、持って帰るまでに腐ってしまうよ」

「調べたら送れるらしいんで」


 首を傾げたアレイシオ殿下に、ラウル先輩はサッと答えて席を立った。


「そういえばこれ、ヴィオラが食べてみたいって言ってたチーズケーキです」

「それってもしかして⋯⋯!」


 アレイシオ殿下が期待したように目を輝かせるが、続報は私も知らないので迂闊なことは言えなかった。



***



 中途半端な時間にチーズケーキを食べてしまったせいで、お昼時にお腹が空かなった私たちは、かまぼこ工場で売っているかまぼこを軽く食べ、ダンジョン保全機構 冬の島管区に向かう。


 約束の時間に正門に到着すると、管理卿以下の要職者全員が、ビシッと並んでいた。

 春の島へ行ったときと同じ感覚で来ちゃったけど、王子が来るんだもん。そりゃこうなる。


「お初お目にかかります、アレイシオ殿下。この度は我が冬の島管区にご協力いただき、感謝申し上げます」

「同じダンジョン保全機構の者として、当然のことだ。ダンジョン攻略まで、よろしく頼む」


 できる限り真面目な面持ちで、アレイシオ殿下の後ろに控える。この王子さっき、かまぼこを二つ食べて足りなくてもう一個買ったとか、そういうことは思い出さない。思い出さない、と。

 管理卿とアレイシオ殿下の挨拶が終われば、応接室に案内された。

 ルミエナ殿下が視察に来られた時を思い出す。私たち、今回は案内される側なんだと気づけば、少しそわそわする。

 落ち着かなくて周囲を見渡せば、窓がやけに分厚いことに気づいた。寒いから冬の島の建物は二重窓になってるって聞いたことあるけど、本当なんだ。



 応接室がノックされ「失礼します」という言葉と共に、見覚えのある人が入って来た。

 リオネル先輩だ。なんでだろうと思いながらも、まずはアレイシオ殿下と挨拶するはずだと口を慎む。


「ご無沙汰しております、アレイシオ殿下。改めまして、今回の南部ダンジョン攻略を担当しております、リオネル・クラースと申します。よろしくお願いいたします」

「アクアハース・リストレーションでは、見事な働きぶりだったね。今回も期待しているよ」


 アレイシオ殿下がリオネル先輩に椅子を勧める。それを待ってから椅子に座ったリオネル先輩を見て、私最近勝手に座ってるなとあまり良くない事実に気づいた。

 怒られてないし、ラウル先輩もそうだけど、今回は従者役だし気をつけないと。


 早速リオネル先輩が書類を広げようとして、アレイシオ殿下がそれを止める。


「先に雑談タイムにしないかい? ラウルとセリアが君のこと、気になって仕方がないみたいだ」

「わかりました」


 リオネル先輩が首肯し、許可を得たとばかりに口を開く。


「リオネル先輩なんで冬の島にいるんですか!?」

「配属替え。対モンスター適正が高い管理官はこぞって、冬の島に配属替えになってる」

「応援じゃなくて配属替えなんですか?」


 ラウル先輩も気になっていたみたいで、会話に入って来る。


「南部ダンジョン攻略が終わっても、北部の方がダンジョンの数は多いからな。お前らと違って当分冬の島にいる予定だ」

「そうなんですね」


 私とラウル先輩が納得したとばかりに頷けば、キッと鋭い目線が向けられた。


「俺からも言わせてもらう。二人とも今回はアレイシオ殿下の従者役だろう! 何普通に席に座ってるんだ!」


 一喝されて、私とラウル先輩は慌てて立ち上がる。

 気をつけようと思って早々、怒られてしまった。


 気心知れた三人で観光して、気持ちが緩んでいたことを自覚する。ついでに、リオネル先輩に締め上げられながら必死で働くのだろう、という未来の光景が脳裏に浮かんだ。

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