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47話 隠されたもの

 建ち並ぶダンジョンと墓標。

 各地から魔法具士が集まって、各々の工場から淀んだ空気を吐き出していた。

 行き場のなくなった冒険者と、魔法具の工場に出稼ぎに来た人で町は溢れ返る。取り締まりを逃れたクソみたいな色街に、隣の家のお姉さんが売られた。

 天幕が並んだ河川敷が燃えた光景。振り上げられた酒瓶を受け止めて、一生残ることになった傷。ダンジョンで怪我して、引退した父。

 輝かしい秋の島の復興の裏側、隠された影。


ーー久々に嫌な夢、見たな。



 どんだけ夢見が悪かろうが、出勤しなければならない。それに、冬から春に切り替わる澄んでいるけど暖かな空気が、緊張していた私の心を解してくれた。


「俺、一時的に冬の島に行くことになったんだけど、セリアお前知ってたよな?」

「はい。配属替えだと思ってましたけど」


 そして今、私はラウル先輩に廊下で凄まれている。まぁ、予想はしていた。


「海の時の話って、これのことだよな?」

「そうですね。で、ヴィオラになんて言うんですか?」


 こう見えて私は二人のことを応援している。さっさと勇気を出せとばかりに、ラウル先輩に反撃する。


「なんも言わねえよ」

「え! なんでですか?」

「あいつ伯爵令嬢だぞ!」

「ラウル先輩も男爵令息じゃないですか!」


 口を尖らせる私に、ラウル先輩は溜め息をつく。

 ヴィオラの実家であるネレイス伯爵家は、伯爵家の中でも権力や財産を存分に持っている家だが、ラウル先輩のご実家は貴族の中ではかなり貧乏で傾く寸前という状態らしい。

 中でも三男のラウル先輩は家も継がないし、魔法の才能がないから婿養子としても不人気だそうだ。もっと言えば、ネレイス伯爵家はヴィオラのお兄さんが継ぐから、必要なのは婿養子ではなく嫁ぎ先。


「配属替えじゃなくて、一時的だとは言っとく」

「はいはい、わかりました」


 私の声には不満が滲んでいたが、気にすることなくラウル先輩は歩いて行った。



 その後すぐ廊下に出てきた魔法工事課長に連れられ、上席管理官室に入る。

 この時点で何だか、嫌な予感はしていた。


「アレイシオ殿下が、冬の島でダンジョン攻略の指揮を取られることになった」

「えっ? おめでとうございます」


 責任ある仕事を任せられるというのは、素晴らしいことである。機構の教えを素直に吸収している私は、とりあえず祝いの言葉を述べた。


「そこで夏の島管区から、従者兼護衛を出すことになった」


 普段ならここで気づいていたのだが、私はラウル先輩かーと呑気に考えていた。


「行ってこい! セリア!」

「⋯⋯ラウル先輩じゃなくて?」


 課長の言葉が飲み込めず、頭の中にあった名前がポロっと漏れた。


「ラウルから聞いていたのかい?」

「あ、はい」

「じゃあ話は早いね。私とラウル、セリアの三人で冬の島に行くから」


 詳細なことは何も聞いていないので、話は全く早くないです。そんな私の悲鳴は、喉から飛び出てくれなかった。



***



 幸いなことに、冬の島に行くのは二週間後らしい。セスが正式に魔法工事課配属となったこともあり、前回よりも引き継ぎに余裕がある。

 だからこそ、先に冬の島へ行く三人で、仕事内容を確認することになった。


「セリア? もしかしてお前も?」


 会議室に入れば、先に来ていたラウル先輩に疑わしそうな声を向けられる。


「そうですよ。聞いてなかったんですね」


 私がサラッと肯定すれば、ラウル先輩は一人で「えっじゃあヴィオラのあれって? 俺の勘違いかよ」とかボソボソ言う。

 そんなわけない。否定しようとした瞬間、会議室の扉が開いた。


「お疲れ様。二人とも早いね」

「お疲れ様です。アレイシオ殿下」

「お疲れ様です⋯⋯」


 アレイシオ殿下も席につき、書類を捲る。


「ラウル大丈夫かい? 顔が赤いけど」

「大丈夫です⋯⋯。お気になさらず」


 不思議そうな顔をしつつも、アレイシオ殿下は冬の島へ行く理由を説明し始める。


「二人とも、冒険者が減っているのは知ってるよね?」

「はい」


 二人揃って肯定する。


「冬の島の未攻略ダンジョンは、大きく北と南に分かれている。そこで、最後に残った冒険者七組のうち、四組が北、三組が南を攻略していたらしい。その南を担当していた三組が、急に冒険者を辞めてしまったんだ」

「引退したわけじゃないってことですか?」


 ラウル先輩はまずあり得そうな可能性を突いていったけど、そもそも三組揃っての引退もおかしい。


「三組揃って辞めたって、誰か理由とか聞いていないんですか?」

「冬の島管区の話では『あんな奴、倒せるわけねえ!』って言ってた冒険者がいたらしい」

「それは引退じゃ無さそうっすね」


 アレイシオ殿下もラウル先輩も冷静に話しているけど、ダンジョン攻略の専門家が匙を投げたものを、ダンジョン保全機構が拾うって恐ろしい。


「様々な管区から、対モンスター適正が高い管理官を集めているみたいだよ。そのうえで管理官の士気を高めるためにも、王族である私に来てほしいということだった」

「わかりました」


 即座に返事したラウル先輩を見ながら、考えてしまう。私はアレイシオ殿下の従者兼護衛と言われたけど、ラウル先輩は剣士ーーモンスターの相手をする管理官として呼ばれたのだろうか。


「二人には、私の従者兼護衛として、一緒に冬の島に来てほしい。もちろん、身の回りの世話を任せるわけじゃない。それらしく見えるように随行してくれればいい。あとは書類仕事をお願いするかもしれない」

「はい!」


 やっと具体的な仕事を説明してもらえて、勢いよく返事する。


「えっ! じゃあ俺って剣士としての腕を評価されたわけじゃないんですか?」

「攻略においてはそうだね。だけど私は二人を信頼しているから、護衛を任せることにしたんだよ」

「ありがとうございます!」


 不満な声から、一転して嬉しそうな声をあげたラウル先輩。だけどアレイシオ殿下の顔は何だか、複雑そうに見える。


「だから、もしダンジョンが攻略できなくても、君たちのせいじゃない。あまり気負わないように」



ーーこの時、冬の島のダンジョン攻略に隠された目的に気づかず引き受けたこと。私は後悔することになる。

更新遅くなってすみません。

今話から新章に入りますので、ぜひ楽しんでもらえると嬉しいです。

※水・土に更新します。

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