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46話 ヴィオラの複雑な乙女心

 私はなぜか今、ヴィオラとラウル先輩の三人で、夜の海に来ている。


 終業の鐘が鳴って荷物を片付けていたら、急にラウル先輩に頼まれたのだ。今から海に行くから、ヴィオラを箒の後ろに乗せてやってほしいと。

 心の底から意味が分からなかったが、明日が休みだから従ってあげた。


「ラウル先輩って箒に乗れるのでしょう? なぜ後ろに乗るのはダメなのかしら?」

「海来れたんだから別にいーだろ。俺の後ろだろうが、セリアの後ろだろうが」


 むくれるヴィオラと、多分何もわかっていないラウル先輩。だけどこれは、流石に私でもわかる。

 ヴィオラがラウル先輩をデートのつもりで海に誘って、鈍感すぎるラウル先輩は私も連れてきたというところだろう。

 もはやお邪魔虫すぎて帰りたいが、ラウル先輩の箒の技量じゃ、後ろに人は乗せられない。


「ラウル先輩、箒下手だから人乗せられないんだよ」

「そうなんですの!? それなら早く言ってくださいまし!」


 急に生き生きとラウル先輩をいじり出したヴィオラに、お邪魔虫扱いはされていないようだと気づく。

 デートだと感づいたラウル先輩が、二人きりを避けるために私を誘ったと勘違いしていたようだ。


「ヴィオラお前、すぐ調子乗りやがって。お前だって箒乗れねえだろ」

「それはそうですわね。練習してみようかしら」

「いや、そうは言ってねえけど。⋯⋯飲み物売ってる店ないか探してくる」


 分が悪いとでも思ったのか、ラウル先輩は箒でどこかに行ってしまった。

 これ、もしかしなくても、もしかするだろ!


「セリア、私が箒の練習したいって言ったら、付き合ってくれるかしら?」

「え、私魔法具の方の箒乗れないもん。無理だよ」

「そうでしたの!?」

「うん、難しい。めっちゃ落ちる」


 家に馬車があるヴィオラは、箒に乗る必要性を感じたこともないのだろう。私が魔法使いの乗る箒と、魔法具の箒の違いを説明すると、困ったように眉を下げた。


「怪我するしやめときなよ。それより、急にどうしたの?」

「家の馬車を使えば、お父様に伝わってしまうの。だから箒なら、二人で出掛けられると」


 言葉を切ったヴィオラに、私はもう確信してしまった。もしかしてるわ、これ。


「わたくし、最後に思い出を作りたかったの」

「⋯⋯最後!? 縁談決定した!?」


 内心ニヤついていたら、ヴィオラから爆弾のような発言がもたらされる。今の今まで忘れていたけどこの子、いつ婚約が決まってもおかしくない伯爵令嬢だった。


「違うわ。たまたま書類を見てしまったのだけど、ラウル先輩、冬の島に配属替えになるみたいなの」

「えっ!? でも希望してないんじゃ⋯⋯」

「理由はわからないわ。実は希望していたのかもしれないし、何か事情があって、希望していないのに配属替えされるのかもしれない」


 急にラウル先輩とのお別れが示唆され、私も悲しくなる。せっかくこんなに仲良くなれたのに。

 でも私の感傷なんか今は後回しだ。絶対にヴィオラの方が悲しいに決まっている。


「その程度で諦めるなんて、ヴィオラらしくないよ!」


 ヴィオラは夏の島から出ないために、両親に反対されながらダンジョン保全機構で働く、鋼の意志を持つお嬢様だ。

 咄嗟に言った言葉だが、的を得ていると思う。


「そうね、ありがとうセリア。⋯⋯えぇ、私も冬の島に行こうかしら」

「お、思い切ったね」


 急にアクティブになったヴィオラに、それはそれで驚く。夏の島から出たくない鋼の意志はどこに行ったんだ。


「でもやっぱり、冬の島って寒いのよね。あまり自信がないわ」


 これは思いとどまってくれて良かったかもしれない。一度家に帰ってから、ゆっくり考えてもらおう。肯定も否定もせず、ヴィオラの背中を撫でた。


「なにお前ら、冬の島に旅行でも行くのか?」


 後ろから声を掛けられ、撫でていたヴィオラの背中が跳ねる。私の心臓もバクバク言っている。


「驚かせないでくださいよ。どこから聞いてたんですか?」

「ヴィオラが冬の島行くってとこからだけど」


 ヴィオラが隣でほっと息をついた。そうよね、前半は絶対聞かれたくなかったよね。


「温かい茶買ってきた。二人で一個でいいだろ?」


 お礼を言ってラウル先輩から竹筒を受け取る。こんなのどこで売ってるんだろう。


「で、どこ行くんだ?」


 不思議そうな顔をした私たちに、ラウル先輩は「観光地だよ! 冬の島の観光地!」と不機嫌そうな顔で言う。


「ま、まだ決めていませんわ」

「へー。じゃあ、剣舞の元になった土地があってよ、そこも候補に入れてくれ」

「ん?」


 私とヴィオラは顔を見合わせる。


「一緒に行くつもりですの?」

「女二人旅より安全でいいだろーが」

「でもラウル先輩、風呂が長いだの、腹が減っただの、不満ばかりおしゃっていたじゃない?」

「そっれは、事実だろ! ってか、だからこうやって、計画から関わろうとしてんだよ!」


 いつも通りの二人のじゃれ合いが始まってしまって、私はそれを眺めるのに徹することにした。


ーーヴィオラの真意をラウル先輩が知るまで、あと三日。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次の話から新章に入りますので、ぜひ楽しんでもらえると嬉しいです。

※水・土に更新します。

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