45話 男子大喜びの仕事
朝から、掲示板の前で先輩達が雄叫びを上げている。ダンジョン警備課の面々が多いせいで、かなりむさ苦しい。まだギリギリ冬なのに。
「ラウル先輩、これ何があったんですか?」
「機構で人集めて、ダンジョン攻略するんだとよ」
意味がわからなくて私も掲示板を見たくなるが、何にせよ目の前の筋肉ダルマたちが邪魔で見えない。
ダンジョン保全機構の仕事はあくまで、ダンジョンの保全。ダンジョン攻略は、冒険者の仕事だ。
冒険者の担い手が足りていない冬の島管区では、ダンジョン保全機構も攻略に手を貸しているらしい。だけど夏の島の未攻略ダンジョンはあと一つ。手が足りなくなることはないだろう。
「なんでですか?」
「夏の島最後の冒険者パーティーが、実家の農園継ぐって引退しちまったんだよ」
「えっ? 最後のダンジョンを残して⋯⋯?」
未攻略ダンジョンがどんどん減っていき、引退する冒険者が多いことは知っている。そんな中、夏の島最後の冒険者たちが、一つ一つダンジョンを攻略してくれていたことも。
だけど最後のダンジョン残して、引退するか!?
「親がぎっくり腰になったらしい」
「それは⋯⋯仕方ないですね」
「セリアはエントリーすんだろ?」
遠い目をしている私に、ラウル先輩は当然のように言う。
「はい?」
「前、未攻略ダンジョンに入りたいって言ってたじゃねえか。エントリーしねえの?」
「いや、しますけど」
ラウル先輩の目は、仲間を見つけた少年のように輝いていた。
***
ラウル先輩と一緒に運営調整課に行き、ダンジョン攻略の資料を受け取る。なぜかアレイシオ殿下もいて、この人本当に男の子だよなと心配より呆れが先行してしまった。
そして資料を自席で確認。
対象ダンジョンは、比較的狭く、出るモンスターもそこまで多くないようだ。冒険者が何度も潜っており、その情報から封印開発課が既に簡易封印を作成済み。
だからダンジョン攻略班の仕事は、資料通りに出てくるモンスターを倒し、簡易封印を設置すること。
ダンジョン自体の難易度からは、私が行ってもいいのかわからないが、簡易封印設置係は欲しいだろうし、応募することに決めた。
課長に承諾をもらい応募し、セスが仕事を手伝ってくれている分の空き時間で、魔法の特訓をする。結界の強度を高めないと、私なんか戦力にもならないだろう。
そして当日。私は予想通り、簡易封印設置係として、ダンジョン攻略班に選ばれた。簡易封印を大量に詰め込んだ、重い背負い鞄を持って馬車に乗り込む。
当然この場にはラウル先輩もいる。それはいい。
「なぜ、アレイシオ殿下がいらっしゃるのでしょうか⋯⋯?」
「魔法使い担当として、合格したんだよ」
「セリア驚け。この人すっげぇ対モンスター適正高い」
誇らしそうなアレイシオ殿下と、呆れを隠さないラウル先輩。試験は私も受けたけど、一体何をしたんだろう。
馬車が止まり、ぞろぞろと降りる。体力や魔力の温存のために馬車を使ったが、距離はそんなに遠くないのだ。
未攻略ダンジョンに慣れていると噂のダンジョン警備課長が先陣を切り、総勢十六名でダンジョンに入って行く。
私は結構緊張しているけど、周りにそんな気配はない。
「ヤアァァア!」
ダンジョン警備課の先輩が一人怒号を上げて、走り出す。驚いたが、ただホーンラビットがいただけだ。
奥に進めば進むほど増えるホーンラビットだけど、周囲の先輩たちが一振りで倒してしまうからやることがない。
一つ目の簡易封印を設置する。このままだと本当に簡易封印設置係のまま終わってしまいそうだ。
そもそもかなり狭い上、三階までしかないダンジョンだ。二階に上がればモンスターの難易度が上がるのはわかっているし、出るモンスターも知っている。
「ディアウルフ一人三体がノルマだ! 気張るがいい!」
それでもこの掛け声は予想外だ。体育会系すぎないか。
一目散に先輩たち走って行ったし⋯⋯。
「あの、アレイシオ殿下、どうします? 一緒にディアウルフ探します?」
「そうだね。群れと遭遇したら嫌だし」
流石のアレイシオ殿下もこの熱狂には馴染んでいないらしく、二人でディアウルフを探しに行く。
アレイシオ殿下と二人というシチュエーションなら、もしもの時にインターフェアを使える。私にとってはかなり好都合だ。
そう思っていたら、早速三体のディアウルフと遭遇する。
前のように結界を出して矢で仕留めようと、アレイシオ殿下を伺えば、すごいスピードでディアウルフに向かっていく。
「え?」
「水よ、集え。形を成し、凍てよ――氷剣」
そのままアレイシオ殿下がディアウルフ一体に、氷の剣を突き立てれば、刺されたディアウルフがそのまま凍った。
驚きが収まらないが、仲間を倒されたディアウルフが、アレイシオ殿下に飛びかかろうとする。それに対応するよう、結界を張った。
特訓の成果あって、ディアウルフに突進されてもびくともしない。
そのまま攻撃と防御の分担で、ディアウルフ二体も倒しきった。
「セリア、びっくりしたかい?」
イタズラっぽく微笑むアレイシオ殿下に、呆れたように眉を下げる。
「びっくりしました。急に飛び出さないでください」
「すまないね。特訓の成果を見せたかったんだ」
出会った頃とは違い、アレイシオ殿下の人となりを知ってしまっている。仕方がない人だなぁと思ってしまった。
私たちの残り三体のディアウルフは、血気盛んなダンジョン警備課の先輩たちが狩ってしまったらしい。さほど文句はないから、簡易封印を設置して階段を上る。
ダンジョン自体が狭いから、三階に着けばもうラスボスと戦うことになる。そう、フェンリルと。
そんな時、前方にいたはずのラウル先輩がなぜか階段を下りてきた。
「ラウル先輩? 何かありました?」
「いやお前大丈夫そう? 次フェンリルだけど階段で待っとく?」
急に何を言い出してるんだろう。私の疑問に気づいたのか「いや、ディアウルフと戦ってたら、オークに結界破られたお前思い出して」と答えを教えてくれる。
どちらかというとそれ、ディアウルフに襲われて震えていたことを思い出してません?
「ありがとうございます。でも大丈夫です。特訓も予習もしてきたので」
「じゃあいいけど。、後方にいろよ。あと後方にいても突進はされるから、ちゃんと気をつけろよ」
そう言うと、ラウル先輩はまた階段を駆け上がって行った。
三階に着くと早々、先輩達が叫びながら突進していく。
「よっしゃ来いや!!」
なぜ自分よりも遥かに大きい狼に、怯まず立ち向かうどころか、嬉々として走っていけるのか。
アレイシオ殿下は後衛に徹するつもりのようで、水の矢を飛ばしていた。
フェンリルが低く身をかがめて唸りだす。資料で読んだやつだと思いながら、私はフェンリルの口の前に、結界を展開する。
ほとんど同時にフェンリルが噛みつき攻撃を仕掛けようとして、私の結界に狭まれた。そしてここぞとばかりに先輩たちがフェンリルに斬りかかる。やっぱり、ダンジョン警備課って慣れてるなぁ。
私も光の矢を飛ばそうと杖を出せば、頭を下げたフェンリルがこっちを見ているのがわかった。でも残念ながら、この動作も資料で知っている。チャンスだとばかりに、特訓した魔法を起動する。
「結界術――侵入方向を指定。攻性付与、拘束」
自分の前に、針のついた結界を展開。期待通りフェンリルはそれに突っ込み、針が刺さって結界から離れられなくなった。
動けなくなったフェンリルは、ダンジョン警備課の先輩たちに容易く倒される。
「⋯⋯私も驚かされたよ」
「そうですか? それは良かったです!」
隣りにいたアレイシオ殿下があっけに取られていたから、私もイタズラな笑顔を見せた。
アレイシオ殿下が春の島で言ってくれたこと。
ーー迷わず干渉光魔法を使ってくれ。
その約束は、必ず守る。
だけど私は、結界術が得意なセリア・ノアルだ。
干渉光魔法を使ってはいけなくなり、魔法学校で必死で磨いたこの魔法にも、相応のプライドがある。
諦めてすぐ干渉光魔法を使うのではなく、極限までこの魔法を極めるつもりだ。
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水・土に更新します。




