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もう一度、勉強したい  作者: AKANE
クラウディア
15/29

この世界のこと 4

 私はエリアスにいさまに抱えられながら応接間まで連れていかれた。

 ゼアビルド夫人がハラハラしながらついてくるのが見えるんだけど、騎士団に所属しているだけあって鍛え上げられた腕は安定感があって、わたしはとってもらくちんだった。

 ソファーに下ろしてもらうと、にいさまも私の隣に座り、足を組んで腕を背もたれに回して空を仰ぐ。

 にいさまずいぶんくつろいでない?

 仕事から帰った、かつてのわたしがこんな感じだったけど。


「あー、やっとくつろげる」

 ずるずると音がしそうなくらいソファーに埋もれていくにいさま。


「エリアス様、クラウディア様も同席されているのですから貴族らしい言動をなさってくださいませ。フランツ様もエリアス様と同席だとはいえ、もう少しお言葉にお気を付けください」

 お茶の用意をしながらゼアビルド夫人が目くじらをたてている。


「ごめんなクラウディア。かっこいいにいさまでいてやりたいけど、もう限界だ」

「にいさまはお疲れですか?」

「ちょっとだけな」


 今回の遠征が身分の高い上司と一緒で気を使いすぎてしまったんだって。

 わかるなぁその気持ち。わたしも上司と一緒に検査に入るときは緊張して手が震えるもん。

 肉体的に、じゃなくて精神的に疲れちゃうんだよね。


「にいさまはとってもがんばったんですね」

「クラウディアは優しいなぁ」

 そういってにいさまはわたしの頭を撫でてくれた。

 わしゃわしゃといつまでもいつまでも撫でてくれるけれど、えと、そろそろいいかな?


「エリアス様おやめください。私の患者です」

 ドクターナイスタイミング。

 にいさまの手首をひねって止めてくれた。


「痛いっての、おまえは」

「なら貴族らしい言動を。もう平民ではありません、エリアス様」

「もともと俺は平民で農民だっつーの。外でさんざんお貴族様らしくしてるんだ、ここでは楽にさせてくれ。貴族になって50年たっても慣れないんだよ。っつーかお前に敬語使われると気味が悪い。俺がここにいる間だけでいいから、やめてくれ」

 「……にいさま?」


 貴族になって50年?

 見た目はどう見ても20後半だよ。前のわたしと同じくらいの年かと思ってた。

 誰かその意味を教えて。


「おいフランツ、クラウディアが変な顔してるぞ」

「……にいさまはおじさんなの?」

「おいおいおい、年だけ言えばおじさんだけど……なぁ、クラウディアはまだ何も知らないのか?」

 ゼアビルド夫人が紅茶のカップを持ったまま、ふう、とため息をつく。

「元気になられてからまだ一月もたっておりませんもの。この年の子供よりはるかに世の中のことはわかっておられませんわ」

「驚くほど物覚えはいいがまだまだ知識は足りておられない。もっと教える速度を速めてもよいのでは?」


 ちょっ、二人してあれで手加減していたの?!

 ムリムリ、あれ以上の速度で教えられたら脳みそやきついちゃう。

 わたしは二人の言葉にぶんぶん首を振って拒否を示した。

「そうか、まだ一月か。早いなぁ」

 にいさまは私を見て目を細めた。


「アルブレヒトもクラウディアに会いたがってはいるが、学園に一度戻るとなかなか出てこれないしな。一月前に緊急で呼び出したからしばらくはムリだろうし」

 アルブレヒト兄さまの通っている学校は寄宿制の学校なんだよね。校則とか厳しそう。

 でもどんな学校なのか気になるな。ふふふふふ。アルブレヒトにいさまに会えたら聞いてみよう。


「クラウディア、俺がもともと平民だったのは、聞いてるか?」

 聞いてない。ぶんぶん。

「俺がここの村出身だってのは?」

 それも聞いてない。

「おーい、俺のことはなんて教わったんだよ」

「魔力が多くて騎士団に勤めているかっこいいにいさま」

「うん、それは正しい」


 こりゃ自己紹介からか?とにいさまは前置きして教えてくれた。

 にいさまはもともとこの村の農家の生まれで、生まれつきの魔力の多さを見こまれて、祝年式のあと貴族と養子縁組をして村を離れて王都で暮らし始めた。

 その貴族が50年前のオメラス教の反乱に関わったとして断絶され、かあさまに拾われた。


「俺はあの時、養子とはいえ反乱貴族の子供だったから、殺されてもおかしくなかった。それを救っていただいた恩は忘れない。生涯をかけて母上に尽くすと誓っている」

 にいさまの過去も壮絶だけど、かあさまに尽くすと言った横顔はキリッとしてカッコイイ。

「な、カッコイイにいさまだろ?」

 カッコイイ。それを自分で言っちゃうところがちょっと残念なにいさまなんだけど。

 ちなみに、にいさま今年で60齢近くってこと?

 なんでそんなに若く見えるの?


「あー、そいつもしらないのか。魔力もちは、自分の魔力が最大限に多くなった年齢で成長が止まるんだ。つまり俺の魔力量のピークはこの年って事。後はずっとこのままだな。そのうち魔力量が減ったらだんだん年を取ってくる」

 ……今日一番のびっくり情報が出た。

 じゃあにいさまはずっと若いままなの? 不老なの? 60になっても肌は艶々なの? うらやましい……。

 わたし今一番魔力が欲しいと思ったよ。


「今でもこんなにカッコイイにいさまが、年を取ったらもっとかっこよくなるぞ」

 うんうん、そう言うのかなって思った。

 短時間だけどにいさまのこと、わかってきた気がする。


「魔力が止まる時期は人それぞれだからな。早いほうがいいのか遅い方がいいのかは人による」

 10代で魔力が止まってしまって、その後20代で伸びてきた人に追い抜かれてしまうこともあるから、善し悪しなんだって。

 その場合出世にも影響するから、文官は特にピリピリしているらしい。

 騎士団や兵士は魔力量だけでなく、能力の変化によって部署異動が頻発にあるからそれほどぴりついてはいないんだって。

 討伐した魔物に取り憑かれて、一気に魔力が高くなった同僚もいるとか。

 ……取り憑かれて? え、こっちにもオバケとかいるの?

 それはやだな。

「ま、これはあくまでも中央や都市で生きてくやつの事情な」

 わたしが考えているよりもはるかに、この世界では魔力の量というのは大きなものなんだ。


「ちなみに」

 とにいさまはドクターを指さして、

「こいつは俺より年上な」

「……うっそー!!!!」

 わたしは今までで一番大きな声を出してしまった。

「クラウディアさま、お気持ちは分かりますがはしたないですよ」

 もうゼアビルド夫人が声を大きくすることすらしなくなった。

「おまえ、自分のことも教えてないのか」

「患者であり生徒であるクラウディア様に、私の全てを教える必要性を見出せませんが」

 まあね、そりゃ私も学校の先生のことあまり知らないけどさ。

 なぜわたしの主治医をしてくれているのかもいまだに謎だけど。


「フランツは王立学園での一つ上の学年だったんだ。最初は取りすましていけ好かないやつだったけど、目的の為なら手段を選ばないとこが気に入って、つるみ始めたんだ」

「お前が一方的にまとわりついてきただけだろう」

「いいじゃないか。なんだかんだ長い付き合いの悪友だろ。フランツはなぁ、自分の理解できないものが許せないんだよ。とことん調べる変人だよ。魔物に取り憑かれたやつを詳しく調べたいから任務で死んだら解剖させろって迫って、今じゃそいつらはこいつが現れたら一目散に逃げていくぞ」

「当たり前だ。魔物に取り憑かれて魔力を奪われ命を落とす例なら今までにもあったが、取り憑かれて生き延びて、さらに魔力があがるんだぞ。ぜひとも研究して原因を探りたい」


 あ、こういう人知ってる。

 臨床医じゃなくて研究職のドクターで、真正マッドドクターみたいな人。

 周りの迷惑顧みず研究に没頭して、後々それが学会で認められちゃって誰もなにも言えなくなるの……。

 まさかドクターがそのタイプとは……。


「クラウディア様も非常に興味深い患者です。魔力が全くないのに生存され、高い知能を有されておられる。しっかり教育を施したらどのように成長されるのか大変気になるところです」

 ちょっと待って、どういうこと?

 いまさらりととんでもないことを言わなかった?

 わたしを完全に実験体の目で見てるってこと?!

 にいさまが来るまではそれでも丁寧な対応だったのに、にいさまが来たら本音が駄々洩れで怖くて仕方がない。

 私は助けを求めるようにゼアビルド夫人を見上げたけれど、肝心のゼアビルド夫人がそっと私から目をそらす。

 夫人、まさか知っていたの? ドクターがこんなこと考えているって、知っていて私の家庭教師をさせていたの?


「のちのち、クラウディア様に万が一のことがありましたら、ぜひお声がけいただきたいと思っています。クラウディア様の全てを欲しいと願っております」

 ゼアビルド夫人が紅茶を吹き出したよ。

 この人なに言ってるの?

 この流れで私の全てが欲しいって、どう考えても解剖目当てでしょ?

 本気なの? 冗談なの?

 ドクターのすました顔が本気ともとれるし、質の悪いジョークだと流せない恐ろしさも感じる。

 ちょっとあまりにもあまりな発言にわたしはにいさまの側にぴったり寄り添った。

 怖い怖いこの人。

 すきをみて毒でも盛られそう。


「本心ではありません。悪友が来たことで私も少し浮かれてしまったようです」

 しれっと真顔で言うから冗談には聞こえないんです、ほんとに。

「な、変人だろ?クラウディアはにいさまが守ってやるからな」

 わーん守ってにいさま!

「お、そろそろ夕メシの支度をするころだろ。メシは堅苦しくなくていい。フランツが作らせてるサンドイッチでいい。クラウディアに悪影響なら俺の分をフランツの部屋に運んでくれ。そこで食べる」

「わたしも食べたい!」

 わたしもたまにはそんなご飯が食べてみたい!

 にいさまに便乗したい!

 にいさまが食べるならわたしも! と勢いよく手を上げた。


「お、クラウディアもか。よーし皆で食べような」

 ゼアビルド夫人が相当抗議していたけど、にいさまはさっさと台所に行って料理担当のメイドに話をつけてしまった。

 にいさまって行動力が凄い。

 思い立ったら絶対に押し通すんだね。

 残されたゼアビルド夫人の表情が『無』だったことは気づかないふりをしておくね…。



 結局夕飯のサンドイッチはわたしの部屋に運んでもらうことにした。

 ドクターが自分の部屋に入られることを断固拒否したからだ。

 本当は一人で食べたかったみたいだけど、にいさまが引きずりだしたみたい。

 ハンナが呆れながらサンドイッチと紅茶を用意してくれた。


「食べ終わったら申し訳ないんですが部屋の入口の机の上に置いておいてくださいまし。あたしも今から家に帰らせていただくので」

「任せておけって。明日から収穫祭だもんな」

 そうか、もう明日なんだ。

 明日の夜はがんばって起きるんだ。

 不思議なことが起きる夜なんだもんね。

 わたし達が食べ始めるのを待ってから、ハンナはそっと部屋を出ていった。

「お行儀の悪いことをなさるんでしょう?ハンナは何も見ていませんからね」って。



 手でつかんで食べる料理は久しぶりでおいしかった。

 こっちの世界特有の酸味のあるパンに、鶏肉のハムとチーズと申し訳程度の野菜が入った素朴なサンドイッチが、向こうの世界を思い出させてくれる。

 懐かしさもあって、あっという間に食べ終わってしまった。

 ドクターがさっさと帰りたそうに席を立とうとしたからわたしはあわてて引き留めた。

 せっかく二人がこの部屋に来てくれたんだから、聞いてみたいことがあったの。

 わたしは絵本の間から見つけたあの絵を二人に見せた。


「にいさま、この絵はどこの場所ですか?」

 どれどれとにいさまとドクターがのぞき込む。

「んー。俺は知らないな。でもこの建物は木造か?だとしたら、ずっと北のほうかもしれない。フランツは知ってるか?」

「今、国内のほとんどの家や建物は石造りだ。この村もここ十年で丈夫な石造りの建築になっている。木造の建物が残っているのは北部地方だろう。昔からの伝統的な生活を好む人たちがまだ多くいる地方だ」

「昔から……伝統的…」

 魅惑的な言葉に目が輝いてしまう。行ってみたい。


「にいさま、どうしたら北部地方に行けますか? わたしがもっと元気になればいけますか?」

「行きたいのか?」

 わたしはこくんと頷いた。

「わたし、昔からの文化や建物が好きなんです。そういう勉強をしたいです」

「クラウディアは変わってるな。古いものより新しくて便利な方がいいだろう?」


 わたしも前世の時に使っていた便利家電の恩恵にどっぷりつかってきたから、新しくて便利なものがあれば良いと思う。

 まっすぐストレートのクラウディアちゃんの髪はドライヤーなしでもまとまるけど、猫っ毛の前世ではドライヤーなしでは外にも行けない。

 ましてやわたしの前職は電気や機械がなければ、生まれてもいなかった仕事だから。

 でも便利だけじゃない、たくさんの知恵が、人間の努力がそこにはあるんだと思う。

 わたしはそれを感じたい。


「便利なものも、新しいものも素敵です。でも、遺跡や昔の文化を知ることは……そう、ロマンなんです!」

「ロマン……いいな、ロマンか」

 おや、にいさまがやる気になった顔をしたぞ。

 あ、ロマンって言葉?

 男の人はロマンって言葉に弱いんだ。メモっておこう。

「盛り上がっているところを悪いが、遺跡発掘やそこから出てきた古代魔道具の管理は国の専門機関の仕事だ。行くならそのへんの根回しはしておけよ」

「わぁーってるよ」


 ひょっとして私が目指している仕事に近い職場がもうあるのかな? 嬉しいな。

「よし、もっと丈夫になってフランツがいいといえば、にいさまが連れて行ってやる。ロマンだな」

「約束ですよ」

 わたしは右手の小指をにいさまの前に出した。


「うん? 小指をどうするんだ?」

「絶対守ってもらえる約束のしるしです。にいさまも小指を出してください」

 わたしの小指とにいさまの小指をからめてぶんぶんとふった。

「指切りげんまんです。約束を破ったら針千本飲んでもらいますからね」

 わたしは約束をしてもらえて上機嫌なのだけど、2人は不思議な顔をしている。

「ハンナから教わったのか?約束を破ったら針を千本飲まされるなんて物騒だなぁ」

 にいさまは子供の間でなにが流行りるのかわからないなと呟きながら、小指を眺めている。

「にいさま、約束しましたからね、絶対ですよ」

「わかったわかった」


 うふふふふ、にいさまの約束を取り付けたぞ!いつか絶対に連れていってもらおう。

 ニマニマしている私を見てにいさまがわたしをさらに嬉しがらせることを言った。

「なぁ収穫祭に連れていってやればいいじゃないか。あれも昔からの伝統的な祭りだろ」

 なんとにいさま、いいこと言った!

 ハンナもゼアビルド夫人も、わたしを収穫祭に連れていこうという発想がなさそうだったから言い出せなかったんだ。


「にいさま、私、行ってみたいです!」

「クラウディアのお願いならかなえてやりたいな。おいフランツ。連れていっちゃダメか?」

 わたしは両手を合わせてドクターを拝むように見つめた。

 ドクターお願い、行っていいと言って。わたし結構体力ついたと思うの。

「……私も行こう。お前に任せるとクラウディア様が壊されそうだ」

「よし、じゃあ北部地方に行く前に、にいさまが収穫祭に連れて行ってやろう」

「にいさま大好き!」

 わたしはにいさまにとびあがって抱きついた。

 我ながら現金だと思うけれど。



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