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もう一度、勉強したい  作者: AKANE
クラウディア
14/29

エリアスにいさま

 今日はゼアビルド夫人による貴族らしい挨拶の仕方を習った。

 何種類もあって、使いわけができるまでひたすら練習を繰り返す。

 いつかリーラ様の前できちんと出来るように、にいさまたちに会ったときに恥ずかしくないようにとゼアビルド夫人の熱量も高い。

 ゼアビルド夫人ってリーラ様のためならってオーラがそこはかとなく漂うの……。かあさまっていったいどんな人。

 そういえばかあさまって130歳くらいだったんだよね。

 130歳の母親って想像できない。


 マナー講習が終わって、ご褒美の紅茶とお菓子を楽しんでいるとき、ゼアビルド夫人が教えてくれた。

「クラウディア様、お知らせがございます。本日、エリアス様が遠征先からこちらに直接お越しくださるそうです」

 ええと、エリアス様は、二人いるにいさまの上のにいさまだ。

 王都の騎士団に所属してるんだよね。

 確か魔力が多くて『根性の騎士』っていう色の称号を貰っているから、爵位持ちに列せられてたはず。

 あー、まだとっさに爵位が出てこない。

 下のアルブレヒト兄さまは、王立学園に通っているから、長期休みでなければこちらにこれないって聞いてるぞ。

「直接お会いになるのは初めてだと思いますが、かなり個性的な方ですので心構えをしていただいた方がよろしいと思います」

 ええ、そんな言われかたすると身構えちゃうんですけど。






 こちらの世界で不便だなと感じるのが、誰がいつ来るのか分からないってこと。

 にいさまが今日くるのは確かみたいだけど、電話もないしスマホのアプリでってわけにもいかない。

 それでもゼアビルド夫人やドクターにはわかっているのか、九時課の鐘が鳴る少し前にバルコニーに出るように促された。

「いらっしゃいましたよ」

 空をさすゼアビルド夫人の指の先に小さな黒い点がみえた。

 徐々に大きくなる黒い点は大きな鳥のようだった。

 もっと近づいてくるとさらによく見える。

 鳥のように見えたのは顔と前足が鷲、体と後ろ足が獅子という伝説の生き物グリフォンだった。

「うわぁ! グリフォン!」

 この世界に来てから初めて見る不思議生物に私は興奮を隠しきれない。

 まさか空から来るなんて!

 まさか伝説の生き物が存在するなんて!

「相変わらず立派なグライフだな」

 こっちではグライフっていうんだ。

 そのグライフは館の周りをくるりくるりと旋回して庭に降りる。

「エリアス様! 騎獣で庭に降りるとは何事ですか! きちんと騎獣エリアに降りてくださいませ!」

 ゼアビルド夫人が悲鳴のような声をあげながらバルコニーの柵に近づいた。

 騎獣小屋から男の人が数人慌てて出てきて、グライフとそこから降り立った男の人に駆けよる。

 なにかやりとりをしてグライフの手綱を渡し、館に向かって歩いてきた。

 ゼアビルド夫人はなんてこと! って言いながら階下に向かったので、私はドクターと一緒に向かう。

「グライフは庭に降りてはいけないの?」

「グライフに限らず、騎獣の爪や体で地面や人に傷をつけられても困ります。通常は専用エリアへ、と決められております」

 整備されてないところにヘリコプターが降りるようなものなのかな。

 そもそも一般家庭にはヘリコプターなんてないけど、こちらでは騎獣の価値がよくわからない。ありふれたものなのか、高級車並なのか、それともプライベートジェット並なのか。

 うーんまだまだこの世界のことはわからないことが多い。

 私が知っているのは本当に限られた知識なんだと思う。

 庭に出ると金色の髪をなびかせた青年が、ゼアビルド夫人の非難を交わしながらこちらにやってきた。

 肩からハーフマントをはおり、濃紺の詰め襟の長袖に、体の線にそった同色のズボンをはいて、足元は黒いブーツ。

 軍服っぽい服が金髪をさらに際立たせていてほれぼれしてしまう。

 胸にいくつもの細長いポケットが着いていて、見慣れない形の洋服だ。

 整ってるけど愛嬌のある顔。

 マスク越しには何度か会った記憶があるけれど、素顔のにいさまは初めて見る。

 私を見つけて笑ってくれる顔は大きな少年みたいに無邪気だ。

「久しぶりだなクラウディア。俺がわかるか?」

「……エアリスにいさまですか?」

 近寄ってくる勢いに飲まれて思わずドクターの後ろからのぞき込むように聞いてしまった。

「そうだ。会いたかったぞ、クラウディア。おい、フランツ。触っていいのか?」とドクターに確認する。

 あ、ドクターってフランツって名前だったね。

「構わないが加減しろ。おまえの馬鹿力で潰されたらどうする」

 ちょっと!わたしは荷物扱いなの?

 わたしがムスッとしたけれど、同時にとおや? とも思った。

 ドクターとエリアスにいさまは知り合いなのかな。私に対しては見せない砕けた口調にドクターの向こうにいるゼアビルド夫人も何も言わない。

 言葉遣いやマナーにうるさい夫人なのに、にいさまとドクターの会話も聞こえているはずなのに。

 不思議に思っている間に、エリアスにいさまはわたしの前で両手を広げて右足を半歩後ろにし、右手首にはめているシャイべが見えるように胸の前に構えた。

 にいさまの瞳の色の色より少しだけ暗い青色のシャイべがよく見える。

「はじめてお目にかかる、わが妹よ」

 最初に両手を広げるのは武器を手に持っていないと表すため。さらに片膝を着くのは不安定な姿勢をとり攻撃の意思はないと示すため。

 シャイべも相手に見せ、この国の男性貴族がとるほぼ最上級の挨拶だ。

 こういう挨拶をされたら、

「お目にかかれて光栄です、エリアス様」

 着ているワンピースの裾を両手で少しつまみ膝をおってお辞儀をする。

 ホントはその前にシャイベを見せるといいんだけど、祝年式を迎えていない子供なのでシャイベを持っていない。

 そういう場合は特に見せなくてもオッケー。

 これであってる?あってるよね?

 私の背中に汗がダラダラ流れてくる。

 急にこんな挨拶されても戸惑うのよ。

 もともとは貴族に縁のない一般庶民なので。

「すごいな! もうそんな大人の挨拶ができるのか」

 エリアス兄さまは立ち上がるとわたしの脇の下に手を入れて、まるで高い高いをするように持ち上げた。

「エリアス様! クラウディア様に何をなさいます」

「やめろ! 落としたらどうする」

 ゼアビルド夫人とドクターが止めてくれるけれどエリアスにいさまは止まらない。

「いいじゃないか。初めてこの手で触れるんだ。多少の行儀の悪さは見逃してくれ」

 そのまま私を左の腕に座らせて館に向かって歩いて行く。

 私は落ちそうになってエリアスにいさまの首にしがみついた。

 こんなことクラウディアちゃんもされたことないよね? 私もずいぶん子供の頃にお父さんにされただけだよ。

 いつもよりずいぶんと高い目線が新鮮で、なにより私を見てくしゃっと笑顔になるにいさまに怖いだなんて言えなかった。





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