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11.慈悲

 座っていたら死んでしまう。俺はふらふらと歩きだした。

 とにかく腹が減った。体は衰弱してきている。


 気がつくと俺は冒険者ギルドの酒場に来ていた。日は落ちてすっかり暗くなってきている。地上にいるときはよくそこで食事をとっていた。


 建物の表側からではなく裏側から様子を伺った。知っている冒険者にあったらなんだか決まずい気がする。このままここにいても何も状況は変わらない。かといって酒場に入ったところで金は無い。


 建物の裏側は厨房が近いようだ。窓の隙間から料理の香りがしてますます腹が減る。


 厨房の裏口が開く。そこから女性が出てきて目が合う。20代後半の印象だ。いつも厨房で料理を作っている人だ。話したことは無いが何度か見たことがある。おそらく冒険者ギルドとか酒場とかで働いている誰かの妻なのだろう。


 俺みたいな不審者が裏口でこそこそしていたら明らかに怪しい。なんと弁明すればいいか。何か食べ物をもらうために声をかけようと思ったが、なんと言ったらいいか全く思いつかなかった。


「あ……う……」


 声が出てしまった。今更通りすがったふりをするわけにもいかず俺はその場で硬直するしかなかった。


「……ちょっと待っていてね」


 ちょっと待て? どういうことだ? まさか人を呼ばれる? 相変わらず俺は硬直したまま動けない。


 しばらくして女性が戻ってきた。俺のためにパンを持ってきてくれた。


「はいこれ」


 どうして俺が腹減っているってわかったんだ? だがこれを逃したらもう食べ物にはありつけないだろう。受け取るしかない。


「お名前は?」


「フィ……」


 アレスの言葉がよみがえる。もう俺はフィディアスと名乗れない。名乗っても不信感が高まるだけだ。


「フィーって言うのね」

「またお腹が減ったらいらっしゃい」


「あり……がと……」


 優しい微笑み。また涙があふれてきた。泣き顔を見られたくないから何度も頭を下げてお礼を言った。俺はこの人に命を救われたのだ。


 ――俺は誰にも見られないように裏路地に入り、適当なガラクタ置き場に身を隠してパンに噛り付いた。まるで動物が餌を巣に持ち帰ったみたいだ。


 石造りの地面で寝たら下手したら凍死してしまうかもしれない。洞窟でキャンプをするときも地面と体は離すのは基本だ。

 ガラクタ置き場には壊れた家具などが落ちている。ホームレスが寝床にしているわけでもなさそうだ。今日はここで夜を明かそう。


 一気にパンを飲み込んだら喉に詰まってしまいそうだ。じっくりとよく噛んで食べることにした。

 パンってこんなに旨かったっけ。喉はカラカラなのにまた涙が出てくる。ほんとにこの体は泣き虫だな。

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