魔王を再構築するのが彼女のお仕事です
回収技師が去ったカパ塔の最上階。
その床が突然持ち上がり、その中から彼女が這い出して来た。
彼女は大きく身体を伸ばし、悩ましげな呻き声を漏らした。
そうしてから寝ぼけ眼をごしごしと擦り、周囲を見回す。
当然ながらそこには誰もいない。
そう、彼女は寝過ごしたのだ。
「あちゃー、完全に拡散しちゃってるよー」
仰々しい仕草でそう言う彼女は、名乗る名を持っていない。
彼女は魔王の影にして、物語の舞台裏。
彼女は再構築技師。
散らばった魔王の素を集めて魔王を再構築するその仕事が、また始まった。
「おお まおうよ しんでしまうとは なさけない」
●回収技師
門外不出の技術と禁呪クラスの魔法具を持つ「名乗る名を持たない一族」によって排出される者達の総称。或いはその仕事の名称。
一族と言いながらも外部の人間を受け入れている。
一方で職を辞した者は記憶を消されるのが決まりである。
一般に知られている仕事は「勇者の遺骸を回収する仕事」だが、「仇敵の首を回収する仕事」や「政敵の社会的生命を回収する仕事」と言った汚れ仕事や、「便所から汚れを回収する仕事」や「家畜の糞尿を回収する仕事」と言った汚れ仕事も請け負っている。
回収技師が勇者よりも遥かに強いのは公然の秘密である。
●再構築技師
特異な魔素操作技術によって破壊された環境を再構築して回る者達の総称。
活動の一例としては魔王を絶え間なく存在させる努力が挙げられる。
その前身となったのは同名の環境保護団体。
始まりはドラゴンが気紛れに破壊する環境を修復する団体だった。
因みに再構築技師の認識では魔王は個を持つ魔族では無く地域環境の一つとされている。
再構築技師の誰かが死んだ場合それ以外の誰かが再構築を行う為、実質不死身の集団でもある。
勇者を回収するお仕事に関しては、似たような題材を扱った漫画があったと記憶しています。
その漫画では敵は際限無く強くなり、回収するのは重武装の一個中隊規模の軍隊でしたが。
因みに本作を発想した根源はその昔「おお ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」を復活の呪文だと思っていた時期があると言う記憶からです。
本作においてもこの文言は呪文として機能している設定です。
それにしたって純粋なコメディーって難しいですね。私が書くとどこか血なまぐさくなってしまう……。
末筆ですが、本作をお読み頂いた皆様に感謝を。
楽しんで頂けたのなら幸いです。