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痴漢冤罪で人生を壊された男は、異世界で《証明者》となり、嘘で人々を支配する聖女を断罪する  作者: 月瀬 リュカ


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第37話 禁書棚の失敗記録



 オルグ神官の聴取が終わったあと、部屋にはしばらく誰も声を出さなかった。


 記録水晶は、まだ淡く光っている。


 その中には、消せない言葉が残っていた。


 聖女ミコトは、第二箱が湿地浄化に使われることを知っていた。


 聖女ミコトは、禁書棚の古い失敗記録を求めた。


 聖女ミコトは、それを返していない。


 だが、それだけではまだ届かない。


 俺は机の上に置かれた紙片を見下ろした。


 ミリィが握っていた、旧花印管理帳の燃え残り。


 そこには、焦げた文字が残っている。


『第二箱』


『花印使用』


『確認者 聖女ミコト』


 確認した。


 知っていた。


 それでも、命じたとは書かれていない。


 あいつは、いつもそうだ。


 自分の手で押さない。


 けれど、周囲の人間が勝手に崖から落ちるように道を作る。


「次は、禁書棚ですね」


 クララが静かに言った。


 いつもの明るさはない。


 彼女も分かっている。


 ここから先は、ただの神殿不正ではない。


 聖女ミコト本人の白い場所に踏み込むことになる。


 エルハルト監査官は、硬い顔で頷いた。


「正式に確認します。禁書棚の閲覧記録、貸出記録、返却記録。すべてを開示させます」


「神殿は拒むか?」


 バルトが低い声で聞く。


「拒めません。オルグ神官の供述が記録水晶に残りました。加えて、証人ミリィの監禁、旧帳の焼却、第二箱の隠匿。ここまで揃えば、監査権限で開けます」


 エルハルトはそう言った。


 だが、その声は重かった。


 監査官としては正しい。


 けれど、神殿の人間としては苦しいのだろう。


 聖女を疑う。


 その意味を、一番分かっているのは彼なのかもしれない。


 俺は立ち上がった。


「行きましょう」


 椅子が床を擦る音が、やけに大きく聞こえた。


 マーヤは試薬箱を抱え直す。


「禁書棚って、危ない本がある場所?」


「危ないというより、都合の悪い記録が置かれる場所です」


 エルハルトが答えた。


「失敗した浄化法。禁止された儀式。過去に被害を出した薬剤配合。民に不安を与えないため、一般公開されていない記録です」


「つまり、失敗の記録ですね」


 俺が言うと、エルハルトは少しだけ目を伏せた。


「はい。ですが、本来は必要な記録です。同じ過ちを繰り返さないために」


「なら、消してはいけない」


「……その通りです」


 俺たちはギルドを出た。


 外の空気は冷えていた。


 湿地の件が広がったせいか、神殿へ向かう道には人が少ない。


 けれど、閉ざされた窓の隙間から、視線だけは感じた。


 町はもう知っている。


 聖女の周囲で、何かが起きていることを。


 誰もはっきりとは言わない。


 だが、疑いは水のように広がる。


 見えないところへ染み込んでいく。


 神殿の正面門に着くと、衛兵が立っていた。


 以前なら、俺たちを見下ろすような目をしていたはずだ。


 今は違う。


 迷いと恐れが混じっている。


 エルハルトが監査官の証を見せた。


「禁書棚を確認します。責任者を呼びなさい」


「は、はい」


 衛兵はすぐに奥へ走った。


 しばらくして現れたのは、年配の神官だった。


 記録庫長のローヴェンという男らしい。


 白髪交じりの眉を寄せ、俺たちを見た。


「禁書棚の確認と聞きましたが」


「監査権限に基づく確認です。浄化香、香油、泥反応に関する古い失敗記録を探します」


 エルハルトが言うと、ローヴェンの表情がわずかに動いた。


 それを見逃さない。


「心当たりがあるようですね」


 俺が言うと、ローヴェンはこちらを見た。


「……古い記録です。すぐには」


「タイトルは?」


 マーヤが先に聞いた。


 ローヴェンは少し迷ったあと、答えた。


「おそらく、『浄化香及び香油を用いた穢れ凝集試験記録』です」


 マーヤの眉が動く。


「穢れ凝集……」


「泥状穢れを一点に集め、浄化効率を高める試験だったと記憶しています」


「結果は?」


 ローヴェンは答えなかった。


 その沈黙だけで十分だった。


 俺たちは記録庫へ通された。


 神殿の奥。


 厚い石壁に囲まれた部屋。


 棚には帳面や巻物、封じられた箱が整然と並んでいる。


 そのさらに奥に、鉄格子の扉があった。


 扉には三つの鍵穴。


 ローヴェン、エルハルト、もう一人の管理神官がそれぞれ鍵を差し込む。


 重い音がして、扉が開いた。


 中は暗い。


 湿った紙と古い香の匂いがした。


 禁書棚。


 そう呼ばれる場所に、豪華さはなかった。


 ただ、失敗が積まれている。


 誰かが傷ついた記録。


 誰かが二度と繰り返すなと残した警告。


 それを隠しておく場所。


 ローヴェンは棚の前で足を止めた。


「浄化関連はこの列です」


 古い札が棚に差されている。


 浄化杭。


 白銀草。


 香油。


 浄化香。


 泥状穢れ。


 俺は一つずつ背表紙を追った。


 だが、目的の記録はない。


「ありませんね」


 クララが呟いた。


 ローヴェンは戸惑ったように棚を探す。


「おかしい。ここにあるはずです」


「貸出記録は?」


 エルハルトが言う。


 ローヴェンは棚の横の台から、分厚い帳簿を取り出した。


 禁書閲覧管理帳。


 そこには、資料名、閲覧者、許可者、返却日が並んでいる。


 俺はページをめくる手元を見ていた。


 ローヴェンの指が、ある行で止まる。


 空白。


 いや、違う。


 何かが削られている。


 資料番号だけが残っていた。


 浄化三七。


 その横の資料名、閲覧者、許可者の欄が、不自然に薄い。


「消されているな」


 バルトが言った。


「古い帳面です。インクが薄れただけかもしれません」


 ローヴェンが弁解する。


 その瞬間、俺の内側で刃が微かに鳴った。


 完全な嘘ではない。


 だが、逃げだ。


「マーヤ」


「うん」


 マーヤは小瓶を取り出した。


 粉を筆先につけ、削られた欄の上に軽く置く。


 しばらくすると、紙の繊維に残ったインクの跡が浮かび上がってきた。


 最初に見えたのは、資料名だった。


『浄化香及び香油を用いた穢れ凝集試験記録』


 ローヴェンが息を飲む。


 次に、閲覧者の欄。


 そこは削られすぎていて、完全には読めない。


 だが、いくつかの文字が残っていた。


『聖……私室』


 クララが小さく言った。


「聖女私室……?」


 エルハルトの顔が強張る。


 許可者欄には、別の名が浮かんだ。


『オルグ』


 返却日の欄は空白。


 いや、空白ではない。


 黒く塗り潰され、その上から削られている。


「返却されていない」


 俺が言うと、ローヴェンは額に汗を浮かべた。


「私は、この貸出を直接確認しておりません。オルグ神官が一時管理を」


「今はその話ではありません」


 エルハルトの声が固くなった。


「禁書資料が、正式返却されないまま所在不明になっている。それが事実です」


 俺は帳面を見下ろした。


 ミコトが読んだ資料。


 湿地で使われた方法と同じ失敗記録。


 そして、その資料は消えた。


 まただ。


 記録は消される。


 人は黙らされる。


 都合の悪いものは、清められる。


 だが、消し切れない。


「資料台帳はありますか」


 俺が聞くと、ローヴェンは別の薄い帳面を出した。


 資料の一覧だ。


 浄化三七の項目を探す。


 そこには短い説明が書かれていた。


『浄化香及び香油を用いた穢れ凝集試験記録』


『泥状穢れを局所へ誘導する試験』


『結果、白銀草根部の薬効蓄積低下』


『浄化杭反応鈍化』


『再試験禁止』


 マーヤがその文字を見て、目を細めた。


「白銀草の根部……薬効蓄積低下」


「今の湿地と同じか?」


 バルトが聞く。


「同じ。かなり近いです。湿地の白銀草は、見た目は戻っていたのに、薬効反応が弱かった。根の方に阻害が残っていた」


 マーヤは資料台帳を指で叩く。


「これ、ミコトが読んでいたなら、知らなかったは通りません」


「読んでいた証明は、まだ閲覧記録だけだ」


 俺は言った。


「しかも閲覧者欄は削られている。聖女私室へ運ばれた可能性は高いが、ミコト本人が読んだとまでは言えない」


「厄介ですね」


 クララが唇を噛んだ。


「あの人なら、『私室に届いた資料を、私は見ていません』って言えます」


「言うだろうな」


 俺は帳簿から目を離した。


「だから、資料そのものを探す」


「所在不明です」


 ローヴェンが言った。


「棚にはありません。返却記録もありません。となると、聖女私室に残っているか、あるいは……」


「燃やされたか」


 バルトが低く言った。


 その言葉で、空気が重くなる。


 燃やす。


 清める。


 神殿では、都合の悪い焼却も、綺麗な言葉になる。


「返却箱はありますか」


 俺は聞いた。


「返却箱?」


「禁書棚へ戻す前、一時的に資料を置く場所です」


 ローヴェンは一瞬だけ視線をそらした。


 俺の内側で刃が鳴る。


 小さいが、確かな音だった。


「ありますね」


「……こちらです」


 記録庫の隅。


 木製の箱が置かれていた。


 箱の中には、修復待ちの巻物や破損した帳面がいくつか入っている。


 その底に、黒い粉が薄く溜まっていた。


 灰だ。


 マーヤがすぐに膝をつく。


「触らないで」


 彼女は細い金属匙で灰をすくい、小皿に移した。


 試薬を一滴。


 灰の一部が薄く青黒く変わる。


「香油反応。あと、古い浄化香の反応もあります」


「紙は?」


「混じってる。紙灰です」


 マーヤは箱の底を慎重に調べた。


 やがて、焦げた紙片を一つ摘み上げる。


 ほとんど灰になっている。


 けれど、端に文字が残っていた。


『……銀草根部……』


 もう一つ。


『……使用禁止……』


 クララが息を止めた。


 エルハルトは顔を青くする。


「禁書資料の一部……」


 ローヴェンが震える声で呟いた。


 俺は紙片を見た。


 使用禁止。


 その文字は、焦げても残っていた。


 この記録は、警告だった。


 使うな。


 繰り返すな。


 白銀草の根を傷つける。


 浄化杭を鈍らせる。


 それでも誰かが読んだ。


 そして、似たことが湿地で起きた。


「資料そのものは、ここで燃やされたのか?」


 バルトが言う。


「全部ではないと思う」


 マーヤが箱の底を見ながら答える。


「紙片の量が少なすぎる。表紙とか数ページだけかも。全部燃やしたなら、もっと灰が残る」


「表紙を燃やして、資料を分からなくした?」


 クララが言う。


「あるいは、重要な部分だけ抜き取った」


 俺は棚の方を見た。


 そこにあるべき資料はない。


 返却箱には、焦げた断片。


 貸出帳には、削られた聖女私室の文字。


 台帳には、使用禁止の記録。


 点は増えている。


 だが、まだ一本の線になりきらない。


「禁書資料は、何枚綴りですか」


 俺が聞くと、ローヴェンは慌てて資料台帳の後ろをめくった。


「写し番号によれば、表紙一枚、本文十二枚、補遺三枚。綴じ紐は赤黒の二重紐です」


「綴じ紐を探してください」


 俺が言うと、エルハルトがすぐに神殿兵へ命じた。


「記録庫内、返却箱周辺、清め場へ続く廊下。赤黒の二重紐、または切れ端を探せ」


 神殿兵たちが動く。


 待っている間、俺は削られた貸出帳を見ていた。


 聖女私室。


 その文字の残骸。


 ミコトの白い部屋を思い出す。


 整いすぎた部屋。


 交換された白幕。


 香油反応が残った留め具。


 敷物の下に隠されていた紙片。


『根部阻害、残存』


『再浄化日程』


『民衆告知、聖女判断』


 ミコトは知っていた。


 少なくとも、知らなかった顔をできる位置にはいない。


 だが、あいつは言うだろう。


 資料は届いたが読んでいない。


 失敗記録は危険を避けるために見ただけ。


 使用禁止だからこそ、安全に扱うよう周囲へ任せた。


 自分は命じていない。


 自分は救いたかった。


 そうやって、また白い場所に立つ。


「レンさん」


 クララが小さく呼んだ。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だ」


「顔が怖いです」


「そうか」


「はい。かなり」


 俺は息を吐いた。


 怒りを雑に扱えば、証明は濁る。


 分かっている。


 俺はミコトを憎んでいる。


 白羽美琴を憎んでいる。


 けれど、憎しみは証拠ではない。


 証拠だけが、あいつの白い場所に届く。


「怖い顔でもいい」


 俺は言った。


「間違えなければ」


 クララは少しだけ頷いた。


 その時、神殿兵の一人が戻ってきた。


「見つかりました」


 差し出された小皿の上に、焦げた紐の切れ端があった。


 赤黒の二重紐。


 先が焼けている。


 マーヤが試薬を使う。


「紙灰、香油、浄化香。あと……黒泥成分」


「黒泥?」


「うん。湿地の黒泥に近い反応です。禁書資料に黒泥が触れていたか、黒泥を扱った手で触ったか」


 ローヴェンが顔をしかめる。


「禁書棚の資料に黒泥が付くことなど、通常ありません」


「通常ならな」


 バルトが吐き捨てるように言った。


 俺は紐を見た。


 禁書資料の綴じ紐。


 黒泥反応。


 返却箱の焦げた紙片。


 使用禁止の文字。


 そして、聖女私室へ運ばれた削除痕。


 これで、資料が実在し、禁書棚から出され、返却されず、何者かによって焼却または分解されたことは証明できる。


 さらに、その内容が湿地異常と一致していることも。


 だが、ミコト本人の手にはまだ届かない。


「聖女私室の再確認を申請します」


 俺が言うと、エルハルトは頷いた。


「必要です。これだけの証拠が出た以上、拒否は難しい」


「急いだ方がいい」


 マーヤが言った。


「資料がまだ残っているなら、また清められるかもしれない」


「清める、か」


 俺は呟いた。


 この神殿では、燃やすことを清めると言う。


 隠すことを整えると言う。


 黙らせることを守ると言う。


 なら、俺のすることは一つだ。


 その言葉の中身を、引きずり出す。


 記録庫を出ようとした時だった。


 廊下の向こうに、白い影が立っていた。


 聖女ミコト。


 白い衣。


 静かな瞳。


 まるで、最初からそこにいたように。


 神官たちが慌てて頭を下げる。


 ミコトは柔らかく微笑んだ。


「禁書棚を確認なさっていたのですね」


 エルハルトが一歩前に出る。


「監査上、必要な確認です」


「ええ。分かっています」


 ミコトは責めなかった。


 慌てもしなかった。


 ただ、俺を見た。


「古い失敗記録のことですね」


 俺の内側が冷える。


 先に言った。


 自分から。


 隠していたものを見つけられる前に、自分の言葉で包むつもりだ。


「知っているんですね」


「はい」


 ミコトは静かに頷いた。


「私も拝見しました」


 廊下にいた神官たちがざわめいた。


 ミコトは続ける。


「湿地の異常に対処するため、過去の失敗も学ぶべきだと思いました。失敗の記録は、誰かを責めるためではなく、同じ過ちを避けるためにありますから」


 綺麗な言葉だった。


 あまりにも綺麗で、吐き気がした。


 マーヤが紙片を握りしめる。


 バルトは黙っている。


 クララは唇を結んだ。


 俺はミコトを見る。


「なら、資料の内容も知っていたんですね」


「はい。危険な方法だと理解しました」


「白銀草の根部薬効を落とすことも?」


「記録には、そうありました」


「浄化杭の反応を鈍らせることも?」


「はい」


「では、湿地で同じ反応が出た理由について、説明できますか」


 ミコトは少しだけ目を伏せた。


 そして、悲しそうに言った。


「だからこそ、私は悲しいのです」


「悲しい?」


「誰かが、過去の失敗を悪用したのかもしれません。私がその記録を求めたことで、周囲に余計な混乱を招いたのなら……それは、私の不徳です」


 まただ。


 責任ではない。


 不徳。


 罪ではない。


 悲しみ。


 あいつは自分の言葉を、汚れない場所へ置く。


 俺は一歩前に出た。


「資料はどこにありますか」


 ミコトは俺を見た。


「返しました」


 俺の内側で、刃が鳴った。


 鋭くはない。


 だが、確かに鳴った。


 ミコトの瞳が、ほんの少しだけ動いた。


「どこへ」


「オルグ神官へ。正式な返却手続きは、彼が行うものだと思っていました」


「返却箱から、焦げた紙片が出ました」


「……そうですか」


「使用禁止の文字が残っていました」


「ひどいことを」


 ミコトは胸元に手を当てた。


「記録を燃やすなど、あってはならないことです」


 あってはならない。


 その言葉に、刃は鳴らなかった。


 ミコトは本当にそう思っているのかもしれない。


 記録は燃やしてはいけない。


 ただし、自分が燃やせと命じていないなら。


 周囲が勝手に清めたなら。


 その罪は、自分のものではない。


「聖女様」


 エルハルトが重い声で言った。


「資料が正式返却されていない以上、私室の再確認が必要です」


「もちろんです」


 ミコトは微笑んだ。


「私は、隠すものなどありません」


 白い顔。


 白い声。


 白い嘘。


 いや、まだ嘘とは証明できない。


 だからこそ、腹の底が冷える。


 ミコトは俺の方へ視線を戻した。


「レン・クゼ様」


「何ですか」


「あなたは、いつも残ったものを拾うのですね」


「消されるからです」


「消されたのではなく、失われただけかもしれません」


「なら、失われた理由を証明します」


 ミコトは静かに笑った。


「証明できるといいですね」


 その声は優しかった。


 だが、俺には聞こえた。


 あの日と同じだ。


 周囲が俺を疑い、誰も俺の声を聞かなくなった時。


 白羽美琴は、綺麗な顔で立っていた。


 自分は何もしていない。


 ただ、怖かっただけ。


 ただ、泣いただけ。


 ただ、周囲が信じただけ。


 俺は拳を握った。


 まだだ。


 ここで感情を出すな。


 証拠は増えた。


 禁書資料。


 使用禁止。


 根部阻害。


 聖女私室。


 ミコト本人の閲覧認定。


 そして、返却したという言葉への刃の反応。


 白い場所に、細い傷が入った。


 けれど、まだ割れていない。


 俺はミコトを見据えた。


「ええ」


 静かに答える。


「証明します」


 ミコトは何も言わず、微笑んだ。


 その笑みは、相変わらず白かった。


 だが、俺はもう知っている。


 白いものほど、焦げ跡は目立つ。


 禁書棚の奥から出てきた灰は、まだ温かい。


 そしてその灰の中には、確かに文字が残っていた。


 使用禁止。


 過去の誰かが残した警告。


 それを読んだ者がいる。


 それを消そうとした者がいる。


 それを使った者がいる。


 次に探すべきものは決まった。


 失敗記録の本文。


 そして、ミコトが何を書き込み、何を残し、何を消したのか。


 嘘は、全部を消せない。


 たとえ本を燃やしても。


 たとえ灰にしても。


 そこに書かれていた警告までは、消えない。


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