呉編 第四章 届かぬ亶洲
夷洲を発つ頃には、船団はすでに半分ほどの兵しか動けなくなっていた。
それでも諸葛直は東を目指すことをやめなかった。詔があるからだ、と彼は繰り返した。だがその声には、初めに岸辺で兵を鼓舞していたときの張りは、もうなかった。詔という言葉だけが、彼を前へ進ませる唯一の杖になっていた。
衛温は、船底に横たわる病人たちの数を、毎朝数えるようになっていた。数えることに意味はない。ただ、数えずにはいられなかった。昨日より一人多いか、二人多いか——それだけが、この航海で唯一確かに分かることだった。
海は凪いでいた。凪いでいるということが、かえって不気味だった。荒れる海になら理由をつけられる。凪いだ海の上で人が死んでいくことに、理由をつける言葉を衛温は持たなかった。
「東に、島影のようなものが」
見張りの兵がそう叫んだ夜があった。誰もが甲板に出て、闇の向こうを見つめた。確かに、何か黒い影が、水平線の上にあるように見えた。だがそれは、雲かもしれず、遠い霞かもしれず、あるいは誰もがそうであってほしいと願うあまりに見えた幻かもしれなかった。
翌朝、その影はどこにもなかった。
諸葛直は、それでもなお東へ舵を取らせようとした。衛温は、初めて声を荒げて彼を止めた。
「これ以上進めば、島に着く前に船を動かす者がおらぬようになる」
「詔は、亶洲を求めよと」
「詔は、我らが死ねと命じてはおらぬ」
その一言に、諸葛直はようやく黙った。若さの中にあった強引さが、初めて崩れる音を、衛温は聞いた気がした。
船団は引き返すことになった。東の海に何があったのか、誰も確かめられぬまま。
衛温は、最後にもう一度、東の水平線を見た。あの晩見えた影が、本当に島であったのか、今もって分からない。分からないまま、彼はその方角に、名も知らぬ土地への、詫びとも祈りともつかぬ思いを一つ残していくような気がした。
海の向こうでは、その頃——まだ誰も知らぬ島の東の果てで、一人の巫女が、遠い異国の船の噂を、ただの風の便りとして聞き流していた。




