2話の3「地下洞窟」
A区域までいろいろな人間の手伝いをしながら歩き続ける。
彼は毎日考えていた。
こんな何も変わらない閉じた世界で生きていくのは幸せなのかと。
ここの地下空洞に住むものは皆決まった人生を生きる。
ここでは十五歳までありとあらゆる教育を受ける権利がある。
十六歳からもその権利は有効だが、同時に労働の強制が始まる。
十五歳までの教育と十六歳からの現場での実技指導がここに住む労働者の労働力を拡張する。
ある時は配線工事、ある時は酪農、ある時は鉱山採掘、多岐にわたる技術の取得はこういった方法で可能になっている。
ジェイクは仕事が終わると三番区域の図書館に行き申請を行い、今もなお技術と情報を学んでいる。
そして次の朝にはまた筋力トレーニングを行い仕事に向かう。
毎日という訳ではない、用事が生まれた時はそちらを優先位はする。
彼にとってルーティンよりも変化の方が求めているものだからだ。
A区域についたジェイクは地下に向かう斜行エレベーターに乗る。
124鉱山に向かうのは今日は彼一人のようだ。
「ここの鉱山は統制局員もいないから気が楽なんだよ」
斜行エレベーターの内側正面に張られている日差しを受ける水着姿の女性の色褪せたボロボロのポスターを見てひとり呟く。
「空か」
斜行エレベータが目的地に着き道具をもって奥に進む。
地下空洞の地下、何故こんな深いところに潜っているのかそれは上層部しか理解していないだろう。
エレベータに搭載されていたドリルを使い作業を開始する。
砕いたものには様々な鉱石が混じっている。
この地下の鉱石の豊富さは意図的とも言えるほど以上に密集しているそうだ。
はるか昔は手作業で分けていたらしいが今は違う。
周りに膝ほどの鉱石の山ができるとジェイクはドリルの赤いボタンを押す。
特定の磁波が発生し、一種類の鉱石を引き寄せる。
ドリルに重みが出て腕に力が入る。
「クソッ、軽量化磁場がない世代のヤツか」
鉱石を規定の箱まで運び磁場を解除する。
その単純作業を七時間ほど行う。
ノルマ以上の積載を達成した後は、目につかなければある程度の自由が許される。
岩に腰掛け装着された腕輪ではない方の袖をまくる。
手首のあたりをなぞると硬い感触がある。
「起動」
タップしながら呟くとホログラムが表示される。
昨日申請した書物を開くために操作する。
すると通知画面が出てくる。
『こちらの文書は残り4時間26分37秒で消滅します。延長したい場合は追加のクレジットと申請をしてください』
表示されたホログラムに対して指を横に振り通知画面を消す。
昨夜、寝るまでに読み進めていた続きから読み始める。
読んでいるのは貴重な本、戦前の歴史だ。
「カナダ、、、イギリス、、、パラオ、、、行ってみたい国がいくつもある」
紙媒体ではなくデータ変換されたことのメリットは莫大なページが腕の中に入っていることだ。
読み終えた後、時間にまだ余裕があることを確認する。
そして息を吸い込み目を閉じる。
「今はこれでいい、、、次は新しいやつを買うさ」
ジェイクはそう言って硬い感触をさすりながら呟く。
そう言って毎年買い替えない。
理由は単純だった。
二年ほど前、当時のサイバーウェアの新型が発売された時、ジェイクも買おうと思い、仕事が終わってから店舗に向かった。
すると、商品は既に売り切れており、なくなく帰ろうとした時、帰りの坂の上から店の裏のゴミ箱で光るものが見えた。
地下ではそう言ったものをクレジットに変換することも行われている。
レア物ならと思い彼は腰ほどのフェンスを軽く超えて店の裏側へ気づかれないように行き、何気なく拾ったのだ。ところどころ煤けて分かりづらいが三年前に発売されたウェアの基盤だった。
裏返して作業服の袖で汚れを擦ると彼は言葉を失った。
そこには削り跡があったのだ。
しかし、削りは甘く文字がうっすらと見える。
そこには八年前の日付と名前が書いていた。
結局のところ、地下で新型として売られているものは、上では型落ちも型落ちなのである。
真実を知ってからジェイクは新しいと偽るものへ興味が無くなってしまい、逆に本当に新しいものに興味を持つようになった。
三番区域の友人に頼み、アクセス禁止の歴史や現在の技術といった本を盗み読んでいる。
なので、もしも正直に追加で読みたいからとクレジットを払い申請すれば、統制局の面々がジェイクを拘束しにくることとなる。




