脇役の恋
短めです
アルベルティーナたちがいなくなった後も、ミラルカは下を見ていた。少しでも顔を上げれば、先ほどの耐えがたい光景が見えてしまう気がしたから。
大理石ではなく、ざらついた石畳で良かった。本当によく磨かれた床は、姿を映す。万が一、億に一でも自分の表情を見てしまったら我慢できない。
見なくても分かる。この世の誰よりみじめな顔をしていた。
ずっとずっとミカエリスを追いかけていた。彼は曖昧にはぐらかし、ミラルカとの距離をなかなか縮めようとしない。毎日とびきりおめかしして、積極的に話しかけてもダメだった。彼は紳士だった。丁寧に、慇懃に一線を引いていた。
それをミラルカは勘違いしてしまった。押せばなんとかなりそうだと、思い込んでいた。
深紅の美しい騎士。文武に長けた若き辺境伯。ミラルカは一目で恋に落ち、夢中になっていた。
ずっとずっとずっと見ていた。
でも、あんな表情は見たことない。
憧憬を知った少年とも恋に酔った青年ともいえる、思慕に溺れた姿。蕩けるような声、眼差し、表情がすべてミラルカに向けられるものとは違う。
ミラルカに向けられた笑みは量産品で、作られたものだと分かった。
信じたくなくて、無意識に足を動かした。ミラルカとミカエリスは知り合って間もない。王太女とミカエリスは幼馴染だと、誰かが噂をしていた気がする。一緒にいる時間の長さが違うからだ。
そう思いたくて、薔薇園まで追いかけた。
そこにはミラルカを更に打ちのめす光景があった。
ミカエリスが片膝をついて、己の色のような深紅の薔薇をアルベルティーナに差し出している。アルベルティーナは華奢な指先で、それを受け取った。
その場に咲き誇る薔薇よりも美しい絵画のような光景。
「何よ、あれ……」
アルベルティーナは花を愛でた後、香りを楽しむように顔を寄せる。その様子を見るミカエリスは、幸せそうだ。
誰から見ても、ミカエリスの好意は明らかだった。
王族ではないけれど、王子様のように麗しい美丈夫。華やかな容貌と経歴。将来を嘱望された彼こそ、ミラルカに相応しいと思ったのに。
恋にライバルは付き物。でも、その相手はお姫様。綺麗で、優しそうで、気品があって――彼女こそ、かつてミラルカが憧れたお姫様のような眩さだった。
王子様も騎士様も、いつもお姫様を選ぶ。
ミラルカは自身がお姫様だと思っていたのは、思い上がりだった。自分は脇役だ。背景の一つに描かれる名もなき誰か。
ただ分かったのは、ミラルカの王子は彼ではないことだ。
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