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個性派の侍女たち

愉快な侍女とのほほん姫様。



 わたくしは止めようとしますが、アンナはてきぱきとお出かけの準備をし始めます。

 心の準備がまだできていません。待って、待ってアンナ! わたくしはこの突然のビッグウェーブに乗れていません。轟沈して溺れています。誰か浮き輪かライフジャケットをください。

 まごついているわたくしに気づいているはずなのに、アンナの持ってきたのは超お気に入りの一張羅。

 ああああー! わたくしの一押しアクアブルーのエンパイアドレス! 刺繍がちょっと大人な感じで、お父様イメージな一押しの一着ですわ。

 なんて小悪魔チョイス……さすがアンナ。わたくしの専属侍女だけありますわ。気分の上がる装いを分かっています。

 アンナの手の平でコロコロされている気がしますわ……ぐぬぬぬ。悔しいが、お父様にお披露目したいと思っていたのも事実。

 わたくしが観念すると、アンナはにっこり笑う。

 着付けが終わったタイミングでドレスに合う髪飾りや小物を、ベルナが持ってきてくれた。


「小ぶりですが、このプラチナの花冠風のヘッドドレスをお勧めします」


「まあ、素敵」


 ヘッドドレスは精緻で軽やかなデザイン。プラチナの細工はまるで本物のように柔らかな曲線を描いています。それらに絡められたり嵌めこまれたりした小ぶりの宝石と真珠が煌めいている。粒こそ小さいが、一級品だと分かる輝きをしています。

 わたくし、こういう繊細なデザインが大好きです。

 ひと昔前の宝石バーン! 土台ズドーン! なデザインは好みません。コーディーに押し付けられたのがまさにそんな感じ。

 そういえば、アイツから贈られたドレスやら宝石やらが地味にあるのよね。

 燃やすのはちょっとやり過ぎだと思いますので、そのうち誰かに譲るかチャリティーオークションで売りさばくなりしましょう。少しでもこの世に役立つ方向できれば御の字です。

 手元に残したくないけれど、あんなんでも職人が丹精込めて作ったはずなので有効利用しましょう。リサイクル? エコロジー? サステナブル? まあそんな感じで。


「では。早速、御髪を整え……ぐぅ……っ」


「何をしているのです、ベルナ。閣下から姫様の傍付きは許されても、御身に触れる許可は出してないはずなのですが……?」


 後ろから鈍い声が聞こえたと思ったら、ベルナの白い頬にブラシがめり込んでいました。

 冷え冷えとした口調にぴったりな極寒の無表情のアンナがブラシを持って、ぐりぐりとさらにひねりを入れます。ちなみにブラシは木製の持ち手に、豚の毛を利用した高級素材ブラシです。

 ベルナはヘッドドレスを確認し、その流れでごく自然に髪を整えようとしたらアンナに阻止された模様です。


「で、でも……」


「おどきなさい」


 アンナの声がとても冷たい。北風どころか、ダイヤモンドダストが見えそうな猛吹雪の気配がします。

 それでも食い下がるベルナ。何が彼女をこんなにも駆り立てるのでしょうか。わたくしだったら、一発で諦めて引き下がりますよ。すごすご撤退します。


「私、自信ありますよ? 姫様と似た毛質の方に、仕えたことが――」


「…………鼻血」


 え? 今なんて? 押し退けようとするアンナに抵抗をしていたベルナですが、アンナがすごく小さく呟いたらすごい勢いで離れました。

 そして、そっと鼻の半ばから口元を隠すように手を添えて笑顔を作ります。


「オホホホホホ、これは失礼」


「姫様のお召し物を濡らす前に、早く拭いてきなさい」


 濡らす? 涎でも垂れていたのかしら? いやいや、お口水分量がキャパオーバーしがちな赤ちゃんや動物でもあるまいし。

 アンナはしっしとベルナを追い払うように手を動かします。

 相変わらず顔を手で押さえながら、ずっと笑顔でフェードアウトしていくベルナ。さっきまであんなに粘っていたのに……涎なら、そっとハンカチで拭けばよいのでは? あ、手も洗いたいというやつでしょうか。

 去っていくベルナを、ベラも呆れた眼差しで見送っています。

 ベルナは優秀なはずなのに、時々、みょ~~~に不可解な行動が多いのよね。

 何故かと考え、思い当たりました。


「ベルナは何か病気でもあるのですか?」


 心配になり、アンナとベラに聞くとアルカイックスマイルを浮かべます。優しくて暖かというより、生ぬるいと生暖かいみたいな菩薩の微笑です。

 ……どうしてそんな表情を? その、ちょっとおかしなところもありますが、同僚ですよね? わたくしたちの仲間なのになんで?


「ある意味そうですね。性癖という」


 アンナの言葉に、わたくしの心配が引っ込みました。

 そうでした。ベルナはちょっとあれな人でした。


「不治の病でしょうね。幸せそうだから、ほっとけばいいと思いますよ」


 ベラがわたくしの心配にとどめを刺しました。さようなら、わたくしの心配。いつかまた思い出した頃に戻ってくるかもしれませんが。

 そうでした。ベルナは美しい人大好きな変態でした。

 その中でもわたくしの外見はドストライクのようで、いつも息を荒くしています。隠すどころかオープンなタイプの変態なので、周囲がドン引きすることもしばしばです。

 ベルナは妖艶な美女で、レベルの高いヴァユの離宮でも屈指の美貌です。使用人や騎士、貴族でも目で追ってしまうくらいフェロモン系。

 彼女に思慕を抱く男性もおりますが、わたくしへの変態っぷりを見るとだいたい恋心が大破するような事故を起こします。残骸も木っ端微塵に吹き飛びます。


「失礼、お待たせしました。髪結いは許されずとも、その補助くらいは! 美という芳しき香りを堪能したく」


 両手を広げ、お仕着せ越しでもわかるたわわなお胸と絞られた腰のメリハリボディを見せつけるベルナ。相変わらず発言は変態。ああ、まさに残念美人。

 アンナとベラは視線すら向けず、さっさと仕事をに取り掛かりました。


「補助は私が」


「ありがとうございます」


 変態の防壁になってくれて、とアンナの副音声が聞こえたのは気のせいだと思いたい。

 きゃっきゃうふふと仲良くしなさいとまで言いませんが、木枯らしが吹き荒ぶ職場は良くないと思います。

 これでベルナがへこんでいたら、わたくしも何かしようと思うですけど……全然気にしていないんですよね。わたくししか見ていない。

 知らない間に、うちの侍女たちのキャラクターが濃くなっている気がします。特濃ですわ。ベルナという際物が投入されたことにより、彼女たちの個性が研磨されています。丸くなるのではなく、鋭く尖る方向に。

 うーん、でもバチバチの喧嘩はしていないからいいのかしら?

 本当に嫌な時、アンナは好戦的ですもの。ジュリアスを相手にする時に比べれば、アンナはだいぶマイルドだからきっと大丈夫。できればジュリアスとも穏やかな関係になって欲しいけれど、アンナが無理だと断言するのよね。

 ねえ、ジュリアス。貴方はアンナに何をしたの?






ジュリアスの罪:性格が大変糞なのにアンナの主人の婚約者になった。

アンナ脳内裁判所で常に極刑に値しています。



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