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シナリオ、脱却

アルベルティーナ、現実とシナリオのすり合わせ。

主人公と悪役令嬢が性格がほぼ逆転+好き放題していたのでかなり前提が崩れている。





 護衛と共に遠ざかる陛下の背中を見送る。

 以前より張り詰めた空気がなくなり、一層穏やかな空気を纏うようになったラウゼス陛下。もともとお優しい方だったけれど、眼差しや表情が感じられました。

 王妃……いえ、元王妃というべきでしょうか。彼女たちの対立に頭を悩ませ、元老会の横暴に耐えていたと思えば仕方のないこと。王子や王女も殿下とは呼べないのですよね。ルーカス様とレオルド様が学園にいた頃は、レナリアに篭絡されて大変だったでしょう。

 そういえば、彼女……獄中で亡くなったのよね。悪魔の宿る偽聖杯を乱用したせいで、全身が酷い状況だったそうです。以前、学園で見た彼女の姿が原作通りでした。まじまじとは見れませんでしたが、清楚で可愛らしいお嬢さんだった。ですが、最後に見た砂漠の聖女としての彼女は、とても派手で妖艶な美女でした。

 なんでも、聖女として治療を施していた時、その患者たちから色々と盗んでいたそうです。

 美しい瞳を、鼻を、口を、肌を――と、良いと思ったものを聖杯の力で奪っていたのです。だから、偽聖杯が破壊された反動が来た。

 そもそも綺麗だから奪おうとする発想自体が怖いのですが……。自業自得だとお父様たちも仰っていました。

 レナリア・ダチェスだった少女はきっとわたくしと同じ転生者でした。最後までずっと自分はヒロインだと過信し、己を顧みなかった。

 原作ゲーム『君に恋して』は、普通にバッドエンドや誰とも恋人にならないノーマルエンドもあったのですが……彼女は課金アイテム『愛の妙薬』で強引に攻略対象の好意を捻じ曲げていました。前世ではアプリゲーム用の好感度アップアイテムでしたが、こっちの世界ではヤバイ麻薬なんですよね。依存性の高い薬物で、接種し続けると廃人になるんですから。

 確かに、相手の精神に大きく干渉するって考えれば普通に危険ですね。

 本来のヒロインであるレナリアは今度こそ終わりました。死んだのだから、脱獄も復讐もできないでしょう。わたくしをつけ狙うこともなくなりました。

 ヒロインは獄中死し、他の攻略対象も本来とはかなり違う道を進みました。

 悪役でありながら、ゲームの根幹を担っていたわたくし(アルベルティーナ)がいない時点で大きく狂うのは仕方のないこと――ですが、レナリアは最後までその変化を認めませんでした。ゲームの中だからと周囲の人々を蔑ろにし、ヒロインだからと横暴を尽くしました。

 結局、彼女には何も残らなかった。

 恋人も、家族も、そして未来も。

 彼女は攻略対象全員を手にするハーレムルートを狙っていました。ルーカス様をはじめ、多くの殿方を虜にしました。

 ルーカス、レオルド、グレアム、カイン、ジョシュアまでは攻略したのですからすごいですわね。教師であるフィンドールはどっちなのか微妙……学園で姿を見なかったので。お父様に怖いメッをされていないあたり、彼は靡かなかったと思われます。同様にキシュタリアとミカエリスの攻略も全然ダメだったみたいですが。

 キシュタリアは原作での家庭内冷遇がありません。ラティお義母様も健在で、家族仲は良いです。ミカエリスとジブリールの確執も消えた状態です。前世知識のままの情報で攻略しようとしたから無理だったのでしょう。

 そもそも、原作ではアルベルティーナと王太子であるルーカス様は婚約者でした。

 ですがわたくしが強く固辞したので、婚約話は流れました。王家の失態隠しだったので、レオルド様でも良かったそうです。あの時のわたくしには二人とも地雷にしか見えなかったので、避けました。

 ルーカス様の婚約者にはアルマンダイン公爵令嬢のビビアン様が選ばれました。原作と違い、王太子にはなりませんでした。四大公爵家のご息女であっても、王家の瞳を持たないビビアン様ではルーカス様を王太子に押し上げるに足りなかったのでしょう。

 この時点で、だいぶ本来のストーリーとずれが生じています。

 原因、どう考えてもわたくしですよね。

 めっちゃ引き籠って、お父様にべったりでした。誘拐事件のフラッシュバックが落ち着いてから、ラティお義母様と乗馬したり、キシュタリアとお庭をお散歩したり、ジュリアスのお茶を堪能したりとのんびりライフでした。

 おっと、脱線。話を戻しましょう。

 ルーカス様とレオルド様の顛末です。レナリアが手を取る相手次第ですが、本来は王太子になり、ゆくゆくは国王になるはずだったお二人。

 ですが、今回のコーディーと元老会が目論んだ王位簒奪に、王妃殿下らも加担していたことからメザーリン様のご子息であるルーカス様、オフィール様のご子息であるレオルド様はそれぞれ王籍を剥奪となりました。

 残酷に見えますが二人の王子が毒を賜れたのは、慈悲だったのでしょう。

 二人の元王妃は処刑され、その遺体は野に晒されていると聞きます。双方のご実家が醜聞を嫌い、二人の亡骸の引き取りを拒否したのです。

 王家から除籍された元王妃たちは、王家の霊廟に入ることはありません。ルーカス様とレオルド様の亡骸は国内のいずこかへ埋葬されたそうです。埋葬先が秘匿されているのは、この大事件で恨みを募らせた者が、二人の墓を荒らす可能性が考慮されてのことですわ。

 きっと、国葬されたお父様の墓が暴かれたのも原因の一つよね。死体を漁り、ホムンクルスによる人体製造まで行われていました。お父様の場合は、スパイをしていたセバスたちが回収してくれましたけど、他はそうはいかないでしょう。

 元王女のエルメディア様は元王妃と同様です。毒杯を拒否したので、彼女もまたその身を野ざらしにされているそうですわ。

 彼女はその……生前の評判がよろしくないので、元支持者が私財を投じて埋葬することはきっとないでしょう。

 こういっては失礼かもですが、エルメディア様は遅かれ早かれこうなった気がします。わたくしより二つ年下だけど、王女として生まれ育ったはずの彼女は幼稚でした。

 怒りっぽく癇癪持ち。気に食わないとすぐに暴れる。駆け引きなどなど考えず、己の激情のままに振る舞っていました。

 都合の良い甘言にすぐに騙されそうな方でした。あれではすぐに利用されてしまう。

 ああ、だから……処刑しなくてはいけなかったのですね。

 エルメディア様は身分しか、己の誇れるものがない方でした。わたくしと初めて会った時も、王太女に指定された後も王女だから、王家の娘だからと声高に叫んでいました。

 王籍を剥奪され、臣籍降嫁や修道院に行くことになるなど許せないでしょう。

 ラウゼス陛下は王女としての自覚を持たせたかったようですけれど、母親であるメザーリン元王妃は何を考えて教育をしていたのやら。

 もう今更なことですが、もやっとします。原作ではその辺にはあまり触れなかったから、謎なんですよね。

 ラティッチェ領の自室なら、原作について詳細を書き出したノートが残っているはず。

 アンナやジュリアスの目を盗んで書いたもので、日本語で書いてあります。こっちの人たちにとっては、ガチ異世界語だから解読不能なはず。

 王宮の地下遺跡から出てきた、賢者スズキ・タローの本だって偶然にもわたくしと年代が近い日本人だったから読めたのよね。

 もし平安とか戦国とかの時代だったら無理ですわ。江戸……も無理かな。明治以降ならぎりぎり? 昔の文字って筆で書いているのが多いもの。達筆が多いのよね。鑑定番組で昔の偉人の手紙とか出てくるけれど、どう頑張って見ても、少し単語が拾えるだけだもの。

 異世界の記憶がある稀人や渡り人と呼ばれる人はウルトラレア。だから誰にも分からないはず……よね?

 お父様やジュリアスみたいな頭も良くて勘も鋭い人は、時間をかければ訳せちゃう気がする。日本語はかなり文字数が多いから、難しい部類のはず! きっと大丈夫ですわ!

 わたくしが日本人としての記憶がよみがえったのは、五歳の誘拐事件ショック。現在は十七歳……干支が回ってしまいますわね。記憶もちょっと曖昧なところが出てきています。

 ええと、他の攻略キャラクターでレナリアと関係が深いのは……グレアムでしょうか。宰相子息ですが、レナリアと行動をともにして犯罪を重ね続けた。

 彼もまた愛の妙薬の影響で、かなりの重症になっていた。ああ、ここにもまたレナリアの犠牲者が……本当に、彼女は本当に何がしたかったのでしょうか。

 フィンドールはまだ教師を続けているそうです。お咎めがないことから、彼はレナリアに篭絡されていなかった模様。

 ジョシュアは学園を去り辺境に飛ばされました。物理的に距離ができたので、その後はレナリアとの関りは消えました。ダンペール子爵家、判断が早いですわね。

 カインは……死にました。遺体は叡智の塔で研究サンプルとして保管されているそうです。御実家は知らぬ存ぜぬで、彼を切り捨てたのでしょう。

 うーん、わたくしが知るのは初期の初期をやりこんだのみ。移植版……とくにアプリ化して、ガチャによる追加キャラクターなどもない初期メンバーだけしか知らないのです。

 レナリアがやっていたのは、恐らくアプリ版でしょう。あの愛の妙薬は追加の課金アイテムだったはず。ああ、記憶があやふや。

 わたくしがこちらに転生してきて、だいぶ経った。前世よりは短い時間だけれど、今のわたくしはアルベルティーナとしての意識が強いのです。

 十二年も経てば、前世の記憶が薄れるのは、仕方がないことなのでしょう。

 なんで今頃、こんなこと考えてしまうのでしょうか。

 きっと、それは逃避したいから。今は婚約状態なのかしら? 一応ラウゼス陛下からの王配候補としての宣言があったから、そう思っていいのよね。

 前世では良いご縁なかったのに、まさか十代で結婚することになるとは。皆さん、最低限の婚約期間で結婚を推奨しているのよね……うーん、これは仕方ないのか。サンディス王家のシビアな後継問題ですわ。

 まあ、なんといいますか。その……

 結婚に対してのビジョンが浮かばない。

 前世は当てにならない。薄っすら女性で社畜気味なアラサー? くらいの記憶が極薄にある程度。家族や友人の存在すらもぼんやり。出身地や生年月日を聞かれても困ってしまう有様です。

 転生先がやり込んだゲームとよく似た世界だからか、その記憶のみが妙に鮮明に残っているのです。運がいいのか、悪いのか。

 学園で酷い目に遭って、ラティッチェの屋敷を襲撃されて王宮に連れてこられ、そこからは怒涛の日々。

 わたくしはクリスお母様にまつわる因縁を知らなかったのです。ゲームの中にコーディーもコンラッドも出てきませんでした。

 悪役令嬢アルベルティーナの背景には深く触れられなかった。彼女は所詮、ゲームの中では倒されるべき悪として完結していた。プレイヤーが王子様を救うという名目の略奪愛を、正当化するためのシステム。いえ、それにも満たないパーツですわね。

 ヒロインの愛らしさや正義感を際立たせるための舞台装置。

 ゲームの主軸を担う主人公<レナリア・ダチェス>は完全に退場しました。

 もうストーリーは変わらない。『君に恋して』は終わったのです。

 学園の事件から大きく亀裂は入っていました。もう完全に瓦解しかけたものを、レナリアは必死に戻そうとしていたようですがここまで乖離してしまえば無理な話。

 彼女なりにあがいたけれど、それは選んではいけない選択だったのです。

 当然、アルベルティーナは処刑も追放もないでしょう。そもそも、わたくしは犯罪などした覚えはありませんわ。

 禁制品の密輸、奴隷売買や貴族の失脚、使用人への虐待の悪行役満の元祖アルベルとは違うのです。わたくしは真面目で堅実な小市民の精神の持ち主ですわ。

 とりあえず、その……あの三人とも向き合わねばなりません。

 今後を考えるなら、わたくしが転生者であることも話したほうが良いでしょう。

 でも、一番に話すべきなのはお父様。わたくしをありとあらゆる手段で守ってくれた。それこそ、命がけで奮闘してくれたのです。

 他の人にはかなり素っ気ないお父様ですが、わたくしに対してはとても誠実です。

 その優しさにわたくしはずっと甘えていました。わたくしはお父様の溺愛する娘ですが、本来の性格とはかけ離れています。

 アルベルティーナは悪の華です。

 冷酷に、残虐に、苛烈に――他者の不幸を糧に、絢爛に咲き誇る。毒々しくも美しい大輪の花。

 わたくしは誘拐前の記憶がありますが、性格の元となっているのは転生前の日本人女性のもの。

 お父様は、この事実をどう思うでしょうか。

 軽蔑するかしら。わたくしを嫌いになってしまうかもしれない。でも、一番怖いのはお父様を傷つけること。

 クリスお母様が亡くなったと、愛情を注ぐ対象はアルベルティーナのみとなりました。それが偽物だと知ったら、どれほどつらいでしょう。

 墓場まで持っていくと腹を括るか、正直に伝えるかしか道は残されていません。

 どちらにせよ、ずっと嘘をつき続けるか、傷つけるかのリスクを覚悟しなくてはならない。

 下手な悪い子ごっこなんかより、ずっとお父様から幻滅される可能性が高いでしょう。わたくしの考える『悪い』のボーダーラインよりずっと確実です。

 わたくしを縛る物語は終わりました。

 わたくしが混ざりモノであると知れば、お父様は幾分冷静にできるようになるでしょう。いえ、お父様はいつだって冷静です。冷酷なくらい、現実を見ている方です。

 キシュタリアとミカエリスとジュリアスは?

 そもそも彼らは本来のアルベルティーナと関係が薄かったはず。五歳前なら、キシュタリアとミカエリスは出会ってもいないです。唯一ジュリアスだけは関わりがあったでしょうけれど、あくまで使用人の一人だったはずです。ジュリアスが従僕として立場を上げたのは、わたくしが重用するようになってからのはず。

 それ以前は、ドーラが上級使用人として幅を利かせていました。虎の威を借るなんとやらで、幼少時のわたくしをコントロールしようとしていました。

 気づけば姿を消しましたが、特に詮索しませんでしたわ。ついにお父様の逆鱗に触れたとしか思いませんもの。

 わたくしへの嫌がらせはありましたが、クリスお母様に仕えていたから暇を出さなかっただけです。特に有能でもなく、わたくしに対しては主人への態度ではありませんでした。

 まあ、クビにしない理由をジュリアスに聞かれ、正直に答えたらかなり驚かれました。

 使用人目線でもドーラの態度はナシよりのナシだったのでしょう。

 ドーラがいなくなったおかげでアンナやジュリアスが一緒にいる時間がもっと増えて、お籠り大好きヒキニート令嬢はすくすく成長しました。

 窮屈じゃなかったって? いやー、ラティッチェのお屋敷豪邸ってレベルなのですよ。植物園クラスの庭があるし、ボート遊びができる池があるし、図書館あるし、乗馬できるし、別館を含めて一日じゃ回れない広さです。

 ときどき暇つぶしにと、楽団や劇団を招くこともありました。こちらが劇場に赴くのではなく、呼びつける。恐るべきエクゼクティブの文化。

 お父様に甘やかされ、のんびりと引き籠りライフをエンジョイ……って! 脱線しまくっていました。

 何故でしょう。平和になったはずなのに、問題が山積みです。今まで避けていたツケがきています。

 頭を抱えて唸っていると、アンナが心配そうに寄り添ってくれました。


「姫様、何かお困りごとですか?」


「その、今まで放置していた現実に向き合おうと……」


 曖昧にもごもご答えると、すっとアンナの目が眇められました。心配から静かな怒りへと、感情のレバーがチェンジした気がします。


「やはり根性腐れ陰険眼鏡のジュリアスとの婚約を後悔なさっているのですか? 閣下に相談すれば、今からでも白紙にできます。さっそく、お出かけの準備をしましょう」


 ナチュラルに濡れ衣!

 なんでアンナはジュリアスが嫌いなのー!? どうしてそんなに王配候補から引きずり落とそうとするの!? フットワーク軽すぎではなくて?


「ぴゃぁ……っ! そうではなく、そうではないんです。そもそも先触れなしで訪問するのは失礼ではなくて? お父様はご多忙な方ですわ。迷惑をかけてしまうのは……」


「姫様であれば問題ないでしょう」


 

読んでいただきありがとうございました

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