ポンコツの野望
シリアスが家出中です。
部屋に戻ったアルベルティーナは、ちゃんと自分の悪女ぶりを見せつけたと満足していた。現実は大きく乖離しているのだが、本人は達成感でいっぱいだ。料理も楽しかったし大満足である。
「お父様に悪戯成功しましたわ。今思えば、お昼前に厨房占拠も立派な悪事。なんて悪い子! これはもう、このビッグウェーブに乗るしかないと思いますの。悪女の階段を駆け上がってみせますわ」
波と階段どっちに乗るか駆けるか分からない。とにかくアルベルティーナはやたらやる気をみなぎらせていると理解できた。
頓珍漢な主人の言葉を、アンナは菩薩の心で聞いていた。そうでなければ幼児を相手するベテラン保育士である。
アルベルティーナはちょっと思い込みが激しく、突っ走ることは知っていた。彼女が言う悪事は、微笑ましいレベルである。そもそもラティッチェの使用人は、大体アルベルガチ勢――アルベルティーナを敬愛し、崇拝する姫様が大好きな熱狂的な信者ばかりである。
ラティッチェのアイドルが大好きな父親のために、厨房の隅で調理するくらいなんてことはない。むしろ新しいレシピのきっかけになるのではと、目を爛々とさせていた料理人だっていた。
「お父様は引き続き悪戯し続けるとして、他にもターゲットを探しましょう。悪戯弁当をまた炸裂させてやりますわ。食べ物で遊ぶなんて、なんて罪深いのでしょう」
この世には、気分じゃないと食べ物をひっくり返したり踏みつけたりする者がいる。富裕層や王侯貴族は特にそうだ。赤貧を知らず、飢餓とは程遠い生活をしている連中は食べ物のありがたみを忘れている連中が多い。
生粋の貴人であるアルベルティーナはシビアな味覚を持っているが、食べ物は大事にする。お残しは基本しない。体調不良でもない限り、出された食事はありがたく頂戴する。食べ物で遊ぶと言うが、粗末にはしないだろう。
皆はアルベルティーナがとてもずれていると分かっていながら止めなかった。頑張って生き生きと自称嫌がらせに勤しむ姿が愛おしかったからだ。王宮に連れてこられて以来、ラティッチェで見せていた天真爛漫な笑顔がめっきり減っていた。グレイルが戻ってきた後、父親限定反抗期が勃発すると沈みがちな日々が続いていたので、天使の笑顔が大量供給されるのは、ガチ勢としても嬉しいことだ。
「次はクリフ伯父様とお祖父様を狙いますわー! わたくしをお子様扱いした報いを受けるがいいですわ!」
人選からして間違っている。
何故、どうして、よりにもよってアルベルティーナ限定でドMでもおかしくないこの二人をチョイスした。彼らはラティッチェの外に発生した局地的アルベルガチ勢。ガチ勢本場のラティッチェにも劣らないトップガチ勢だ。
二人は王宮の権謀術数を知る大貴族で、ガンダルフに至っては現役軍属。
最近、コンラッドに濡れ衣を着せられて投獄までされてもぴんぴんしていた。グレイルに正面からメンチを切るような強心臓。心臓に毛どころか剛毛の昇天ペガサスMIX盛りの人種である。
「ふふふ、いきなり意地悪をされて訳も分からず打ち震えるとよくてよ……!」
別の意味で打ち震えて膝を付くと思う。
ちなみに本日ターゲットにされた魔王は別の意味で悩んでいた。意地悪されたことより、本気で悪戯が成功したと喜んでいる娘の平和ボケ極まりなさを心配していた。
アルベルティーナが退室した後、本当に自分の血が半分流れているのか心配になったくらいだ。クリスティーナの妊娠中に何か神秘的なことが起きて、誘拐事件がきっかけで自分の性質が損なわれ、成長と共にさらに劣化していったのではと真面目に悩んだ。愛娘は頭がいいはずなのに、その辺があまりにもお粗末なのだ。
アルベルティーナの予想とは違う方向だが、確かにグレイルを困らせることには成功している。
「さあ、明日に向けて準備ですわ! 次はパンを焼きますわよ!」
お手製の素人飯を食べさせること自体が悪いことだと思っている時点でダメダメである。
しかし絶好調のアルベルティーナは、暴走気味に心のアクセルをベタ踏みしている。一度止まって考えることすら忘れているのだ。
「ゆくゆくはラティお義母様やキシュタリアたちにもお見舞いしてやるのですわ……っ!」
「それは良い考えですね」
ポンの極みな主人に、アンナは微笑みながら肯定した。
嫉妬深い幼馴染トリオ(現在王配候補最有力)は我らが姫様にべた惚れしている。グレイルに先を越されるのはともかく、フォルトゥナ公爵家が先に悪戯されるのは気にするはずだ。
口にしなくても、アルベルティーナの手料理なんて、誰よりも食べたいに決まっている。今日の出来事だって、彼らの耳にすでに入っているだろう。
「お義母様にホットサンド! トーストかサンドイッチか分からず困らせてやるのです! キシュタリアたちには若者らしく、ジャンクなフードをお見舞いしてやりますわ! やはりここはハンバーガー、ポテト、コーラ! このセットこそ鉄板ですわ!」
そのためには道具や材料が必要なので、それが揃うまでお休みである。アルベルティーナはホットサンドの具はギュッと閉じ込めたい派である。
アルベルティーナは早速準備に取り掛かる。絵を描いて、こういう調理器具が欲しいと注文を入れる。明日の仕込みをしつつ、続く悪戯の準備も怠らないのだった。
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