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第9話 救済の味
第九話:救済の味
騒然とするバックヤードの影から、あの時の悪役のような男がすっと現れた。
男はへたり込む俺を見下ろすと、俺の手から大事に握りしめていた試験管を強引に奪い取った。
「悔しいか? なら、これを飲め」
男は冷たく言い放つと、拒む間もなく俺の首根っこを掴み、俺が大事に持っていた「ハルの血肉」を口の中へ流し込んできた。
「やめ——」
ゴク、と喉が鳴る。
生温かい鉄の匂いと、ドロッとした不快な感触が口いっぱいに広がった。吐き出そうと全細胞が拒絶を起こした——その、直後だった。
(……え?)
脳内で何かが弾けた。
「……おいしい」
自然と声が漏れていた。
変な味がするはずなのに、こんなに温かくて、甘くて、心が満たされるものを俺は食べたことがなかった。胸の奥底にあった冷たくて暗い穴が、完璧に塞がっていく。
客への恐怖も、不採用通知の惨めさも、ハルを守れなかった怒りや男への憎しみも、すべてが春の陽気に溶ける雪のように消え去っていった。
気がつくと、俺の顔はぐしゃぐしゃに歪み、溢れんばかりの笑顔になっていた。




