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第6話 壊れたままの歯車
第六話:壊れたままの歯車
ハルを失ってからの記憶は、全体的に重い霧がかかったように曖昧だった。
部屋に帰っても、もう膝に温かい鼻先を押し付けてくれる存在はいない。
静まり返った三畳間で一人、俺は胸ポケットから静かに試験管を取り出す。の中に揺れる、赤黒くドロッとした液体を見つめる。ガラス越しに手のひらへ伝わる冷たさだけが、俺に「生きている」ことをかろうじて実感させた。
「ハル……ごめんな。俺が弱いから……」
暗闇の中で呟く言葉は、誰にも届かず壁に吸い込まれて消える。
何を見ても感情が動かず、喉を通るものの味も一切分からなくなった。横になっても悪夢と金縛りに襲われ、睡眠すらまともに取れない。頭の奥で、常に鈍い重痛が警報のように鳴り続けていた。
正気を失いつつあっても、容赦なく家賃と光熱費の支払いは迫ってくる。
俺はネジの壊れた人形のようにただ身体を動かし、吐き気を催すような雨の夜勤へと向かった。




