第8話 売り物を考える
いい気分になってからの階段。今後はこのくらいは普通だと割り切らないとダメだな。エレベーターはないのだから。
部屋に戻ってまずは自分に〈洗浄〉を使った。
「……あ」
室内でタバコを吸っていいか聞くの忘れた……
〈洗浄〉で臭いもヤニの汚れも綺麗に根絶できるがマナーと大事だ。大人として。
好き勝手してどこもかしこも禁煙になるのは困る。
仕方ないのでまずコーヒーを飲む。〈生成〉で行きつけの喫茶店のコーヒーを思い浮かべると器もそのままの姿で現れた。
「!?」
おいしいコーヒーが飲めて、器もゲットできて二度おいしい!?
慣れ親しんだお気に入りのカップとソーサーを眺める。マスターが陶器コレクターでいろんなメーカーの物で出してくれた。俺は図らずもいろんな陶器を生みだせるってことだ。
〈生成〉魔法って素晴らしい。
この勢いでいろいろ生み出そうと夢見心地でベッドに座ったら現実に戻った。
「ケツが痛い……」
尻のダメージを思い出して、箱入りの湿布五枚入りを作った。
ゆったりパンツを脱いで下着姿になる。別にどこも腫れたりはしていないが腰と尻と足に湿布を貼った。あ、塗り薬でもよかったな。次回からは塗り薬にしよう。
服を脱いだついでなので部屋着を〈生成〉して着た。Tシャツとスエットパンツだ。そして思い出したが、この世界の下着はトランクスタイプの紐で締めるものだ。
……ボクサー派なので下着はボクサータイプを五枚、作っておく。
あとはリュックがいるな。手ぶらで歩いている行商人なんて怪しい。
アースカラーの帆布で海外の登山家が持っていたような大きなリュックを作った。
アイテムボックスがあるのでリュックの機能性はあまり気にしないが、それっぽい見た目になったのでこれでいいだろう。
さて。
「売れそうなもの……」
明日には資金調達をしに行きたいから金目の物を〈生成〉することにした。
まずシンプルな金を……と思い立ち、黄金の展示販売会で見た動物の姿の置物、謎のオブジェを作ってしまった。遊び心でつい。
下町では売ったらダメかもしれない。
出来上がったものはアイテムボックスに収納して、新たに金の固まりを作った。なんとなく小粒の物をいくつかにした。
そして、コショウを粒で〈生成〉してみた。多分高く売れるだろう。
「……」
一気に高いものを売り出すのは目立つかもしれないなぁ。
そして石鹸。そこそこ良い宿である〈真昼の月〉に備え付けで置いてないなら高価なのかもしれない。液体は入れ物に困るから石鹸にしようと思った。
市販品の石鹸は見た目が整い過ぎているから、母と叔母が趣味で作っていた手作り石鹸を思い出して作ってみた。
ハーブの、ラベンダーやマリーゴールドが入っていたものだ。
……石鹸をざっくり切ったまま姿でで出してしまった。パッケージはどうしようか。キッチンペーパーで包むだけでいいかな。
母たちはいろんなものにハマってはすぐに飽きていたので、おかげさまか、いろいろなハンドメイドの作品を見る機会があった。
アロマキャンドルなんかも売れるのだろうか……
現実的にはコショウや金のほうがいいに違いない。
売り物作りに飽きたので酒を飲むことにした。
バーで飲むウィスキーを思い浮かべた。ロックグラスにツーフィンガーのウィスキー。お気に入りの蒸留所のものだ。
そしていつも出されていたチーズクラッカー。
「ん……」
ちょうどいい塩気とウィスキーの仄かな甘み。
怒涛の一日が過ぎて、自分を甘やかしてくれる慣れた香り。
この世界にきて、やっと落ち着いた気分だ。ベッドに横になるとすぐさま眠ってしまった。
「……ぅ」
窓から差し込む光がまぶしいと感じて目が覚めた。
懐中時計を出してみたら朝七時だった。
これ、時間あってるのか?
朝食は食堂でどんなものが出るか知りたいので食べに行くつもりだが、朝一番はやはりコーヒーがいい。
毎朝飲んでいたマグカップのコーヒーを思い浮かべて〈生成〉した。
姪っ子が昔、修学旅行のお土産で買ってきてくれたキャラものだ。
……もう家族にも、友達にも会えないんだな。
さすがに怒りたい。
召喚者を見つけたら一回殴るくらいは許してほしいものだ。めんどくさいことになるから会えないほうがいいけどな。
着替えて顔を洗って……ベッドを軽く整えてから食堂に向かった。
夜とはまったく雰囲気が変わってたくさんの客がいて賑やかだ。




