第9話 商業ギルドへ
「おはようございます」
看板娘が他の席に食事を運びながら挨拶してくれた。
「おはよう」
俺は空いていた隅の席に腰を下ろす。
しばらく待っていると食事が運ばれてきた。
素朴なパンにミルクスープと蒸し野菜のセットだ。飲み物は青汁のような色をしているなにか……健康的配慮なのだろうか。
周りの賑やかな客を見てみると青汁をしっかり飲んでいる。あまりおいしそうな反応はしていないが、定番の飲み物ということか。
別注文なのか山盛りの肉を食べているマッスルな男たちがいる。冒険者なのだろう。しっかりエールも飲んでいる。
シチューに入っている肉がトロトロでうまい。〈鑑定〉してみたらブラックボアだった。あの時の猪、おいしい肉だったのか。ミルキーが怒ったのも仕方ない。確かにもったいなかったな。
だが、あの状況では何度あの場面に立っても同じ結果になると思う。
「エニスちゃーん!いってくるぜ」
「今日はいいホーンブルを狩ってくるよ」
マッチョな冒険者たちが食事を済ませて出かけるらしい。看板娘はエニスというのか。彼女は笑顔で彼らを見送った。
俺も出かけようと最後に青汁を飲んだ。見たままの野草と野菜のスムージー状のものだった。物凄くまずくはないが、決しておいしいものではない。青臭い味で、果物でほんのり甘みが付いていて逆に喉に通りにくい。
(……ぐふっ)
危なく嗚咽を漏らすところだったがなんとか堪えた。お茶とかが良かったな。
「ありがとう。出かけてきます」
「はぁい」
エニスちゃんに声をかけて、宿を出た。
まだ少し時間が早い気もするが商業ギルドに向かった。昨日の街ブラでギルドの場所は分かったんだ。建物が大きいし看板もわかりやすかった。同じく冒険者ギルドの場所も確認済みだ。
商店に直接売るほうが楽だろうが、何かしらルールがあったら大変だからギルドで確認だ。
この世界についての俺の知識不足は、どうしようもないので、ギルドでなにか調べられると助かるのだが。
誰かに何か聞かれたら、旅の途中で魔物に襲われて、記憶が曖昧という設定にしようと思っている。
「……」
まだ喉になにか引っかかっている気がする。少し道の奥に入って人の気配のないところでペットボトルの炭酸水を〈生成〉した。一気だ。
「っあー」
シュワシュワした冷たい喉越しで口内もすっきりだ。
ついでなので昨日作ったリュックも、アイテムボックスから出して背負うことにした。手ぶらでギルドに行ったら売り物が出せないからな。
ガサッ
夜じゃないから裏道に入っても問題ないと思ったんだが、少し奥のほうからなんとも言えないヤバい気配がした。慌てて表通りに戻った。
大通りに出て目的の商業ギルドの前にでた。宿と同じく四階建ての建物だが横幅がある。
営業時間のようだったのでそっと中に入った。
「いらっしゃーい」
居酒屋に入ったのかとちょっと足が止まってしまった。
俺の他に訪問者がいないらしい。
「どのような御用ですか」
もみ手をしつつニコニコしている緩い七三分けの男に、同僚の吉田のおもかげを見た。見事な営業マンスマイルだ。
「売りたいものがある。それと情報が欲しいのですが」
「ではこちらの奥にどうぞ」
吉田(仮)は笑みを深めて、受付の横の個室に案内してくれた。
彼は俺に席に座るように勧めて自分も着席した。
「私はタイラーと申します。どうぞよしなに。あなたの身分証を確認させてください」
あ、やっぱ身分証は確認するよな。うん。俺は腰バッグ(アイテムボックス)から身分証を取り出して見せた。
「シュウ・リクドウさまですね」
吉田、改めタイラーは丁寧に身分証を返してくれた。
ちなみにオープンな情報は、
===========
シュウ・リクドウ 38歳 行商人 カーマヘルト国生まれ
職業スキル〈商人〉固有スキル〈鑑定〉
===========
と、最低限にしてある。〈鑑定〉はレアらしいが商人としては持っているほうが信用されるだろうと思った。
「ではまず、お売りいただけるものを見せていただけますか?」
柔和に笑っていたタイラーは、スッと猛禽のような鋭い目線に切り替わった。
俺は横に降ろしていたリュックから、コショウと、そして金の粒を出した。
コショウは茶色い瓶、金の粒は小さな布製の袋に入れてある。
タイラーはまずコショウの瓶を開けて中身を見てスンッと臭いを嗅いだ。
「…………ぐっ……おほん」
一瞬目と鼻をグワッと開かせてから表情を隠した。わかるぞ、駆け引きが始まるのだな。俺も長年営業にいたからな。有利な交渉に持ち込みたいんだな。
……逆に売れないものだったりしたら恥ずかしいな。
瓶の蓋を閉めて、次は金の粒が入った袋から中身を掌にだして、タイラーさんは固まった。
「……少しお待ちいただけますか」
若干手を震わせつつ、金の粒を袋に戻してからタイラーは奥の部屋に行ってしまった。
ぇぇ……盗品とか思われてるやつか?




