第10話 商業ギルドのマスター
タイラーさんはすぐに戻ってきて、後ろから慌てているような足音が付いてきた。
「失礼をいたしました。こちらは私の判断だけではお値段が付けられないので当ギルドのマスター、ヨアキムを連れてまいりました」
後ろから入ってきたのは恰幅のいいオジサンって感じの男性で、タイラーさんの二倍ほど横幅がある。
「ギルドマスターのヨアキムだ。珍しいものを持ち込んだと聞いた」
「シュウ・リクドウです。量は少ないですが……」
俺は控えめに挨拶をした。
タイラーさんは、自身の横に座ったヨアキムさんにテーブルに置いている瓶と袋を指し示す。
「……」
ヨアキムさんはタイラーさんが確認した手順と同じく瓶を手に取った。
瓶の中の粒コショウの匂いを確認して、鼻の穴を広げ、スンスンと数度堪能するような表情で嗅ぐ。
そして瓶を横から下から確認している。
……瓶もいい売り物なのだろうか。
「まず……こちらのコショウは粒がそろっていてとても香りが良いものです。コショウ100サラムで金貨一枚ほどでいかがでしょう」
瓶の中身で想像するとサラムはグラムのことかな。ん?金貨一枚って十万くらいだっけ。手のひらサイズの瓶で十万……
「それで頼む」
相場がわからないけど、高めにしてくれた気がする。
「こちらの瓶ですが完全に密閉できている技術も、この茶色い色が均一にでていることも素晴らしい。瓶も売っていただけるのかね?」
あれ?コショウより瓶がすごいの?
ヨアキムさんが興奮したように手を震わせている。
「一緒に買ってくれるならそれで……」
「では、こちらの瓶は金貨三枚で!!」
えええぇ……すごい値段が付いたぞ。多分〈生成〉するときに思い浮かべたのは量販店で五百円くらいで売っていた瓶だよな。三十万ってブランド物のティーセットが買えそうなんだか……
「あ、はい。それでいいです」
ぼったくりすぎな気もするが日本の製品に付加価値が付いたということで。
「タイラー、売買契約書と代金を……」
俺の気が変わらぬうちに、とでも、思っていそうだが十分満足なので心配はいらないぞ。旅の資金が欲しいから、まず様子見の売り物だしな。
「マスター、さきにそちらの袋の中身を確認してください」
タイラーさんがスンッとした顔で冷静に意見して、ヨアキムさんの興奮をなだめた。
「っはぁ!?」
「え!?」
ヨアキムさんが袋から金の粒を取り出して一瞬で驚いてソファからずり落ちそうになった。タイラーさんがスッと支えている。出来る補佐役だ。
「私は長く商業ギルドに勤めてきたがこんなに純度の素晴らしい金は初めてみた」
金って純金のことだよな?18金は加工しやすくするためのものだったよな。
「高級な装飾品に使える金は、腕のいい職人が精製したものだが純度八割が限界だ。これはまさに純金……」
ん!?
あっぶねーーー!!動物の形の純金出さなくてよかったー!!
精錬技術がまだ未発達なのか……金の砂とかのほうが安全だったかな。
金の粒は見た目はバロックパールのような形にしてしまったんだ。
「こちらの産地は……」
あ、やっぱり出所が気になりますよねー。
タイラーさんもヨアキムさんも真剣な顔をして俺の様子を伺う。
「あー……秘密です」
「……そうですよね。金の生る木の場所を明かす商人はいませんね」
タイラーさんはとても残念そうにしている。あ、これで引いてくれるの!?
もっと突っ込んでくるか、盗品の疑いをかけられるかと焦った。
「おほん。これは売ってくれるのかね?」
「もちろんです。大きな街でしか売買できないのですから」
ヨアキムさんが袋をギュッと握りこむような仕草をする。ギルドマスターというお偉いさんでもこんな状態になるとは。
「この一粒で金貨十枚!!いかがかね!!」
ふぁ!?えっと……一粒で百万円!?
ヨアキムさんが少し汗をかいている。横でタイラーさんがちょっと眉を顰めているので、頑張りすぎな金額なのかも。
商売人なら吊り上げの交渉をする場面だろうが、十分すぎる価格だし、下手に恨まれるのも嫌だからな。
「それで頼む」
「ありがたい!!これなら次の公爵家の依頼も答えることができる」
俺が了承したら、ヨアキムさんは途端に満面の笑顔になった。
貴族になにか頼まれているのか……深入りしたくないので何も聞かないでおこう。
金の粒は合計十二粒だった。1200万円なり……
ちょっと資金を……それなりに高いもののつもりで出したが予想の十倍になった。
サラリーマンやってたの馬鹿馬鹿しくなるな……




