第4話 辛口ミルキー
気が付いたら猪は真っ黒こげになっていた。
俺は久方ぶりに全力疾走して疲弊している……はずだったのだが、焦って冷や汗をかいたものの、呼吸は上がってなかった。
スキルの〈強靭〉や〈駿足〉か何かが利いているのかもしれない。勝手に作用するのかは知らん。
俺は腹が出ないようにたまにジムに行く程度の運動しかしないから、息切れしない自分に少し驚いている。
「あーーー!!おっさん、何もったいないことしてんだよぉ」
唐突に甲高い女の声が聞こえた。
もったいないことをしたおっさんは誰だと周りを見ると俺はいつの間にか街道?沿いに出ていたらしい。
街道といってもただの土を均した程度の簡素な道だがこれでどちらかに進めばどこかには辿り着ける。
「おい、おっさん無視すんなって」
おっさん、呼ばれてるぞと反射的に周囲を見渡すと、目の前に十代っぽいボーイッシュな女の子がいた。
おっと、おっとおっとおっと……ははは、俺のことかぃ……
「何かな……?」
俺だって「お兄さん」とか図々しいことは思ってない。だけど、見知らぬ相手にいきなり「おっさん」なんて呼ばれることには慣れてない。微妙なお年頃なんだぞ。妙齢な相手に声をかけるときは気を付けたまえよ……
「あんた、ブラックボア、安くっても毛皮だって売れるし魔石だってとれるのにあんな黒焦げにしたらもったいないだろ!!」
どうやら黒焦げの猪について怒っているらしい。
「いきなり出てきてびっくりしたから……」
「はぁ?ブラックボアごときでびっくりすんのになぁにノコノコと一人で歩いてんの?仲間と逸れたわけ?」
うう……見知らぬ少女にめっちゃ蔑まれてるような視線を向けられる。これに喜ぶ性癖はもってないので普通に悲しい……
「こらー、ミルキー、いきなりけんか腰で声かけるのはやめろって言ってんだろ」
少し離れた場所から大きな男二人と彼らに比べたら少し細身の男が荷馬車とともに現れた。
この少女、とっても辛口なのにずいぶんと甘そうなお名前ですなぁ……
「だって兄ちゃん……せっかくの肉がさぁ」
ミルキーはお腹が空いてイライラしていたのか。焦げたにおいの中にほんとり肉が焼けたいい香りがするしな……
ん?兄ちゃん?ずいぶんと系統の違う兄妹だな。
「すみません。うちの妹はちょっとヤンチャで……」
ちょっと……ね。俺が荒ぶるおっさんなら怒鳴りつけていたかもしれないぞ。
「いや……」
まぁ、おっさんと言われたくらいどうってことはないさ。
「ところでそのボア、どうするんですか?」
ミルキーのお兄さんはとても丁寧な態度で俺を尊重してくれるようだ。
「ん?焦げてるからどうもしない。捨てるのはダメなやつか?」
さすがに土に還すといっても街道沿いで放置はダメだな。腐ったり、これをエサにする生き物が寄ってくるかもだ。
「えー、食えるとこ探そうよー、魔石も無事かもなんだし」
ミルキーは食い意地が張っているのか。とてもしっかりしているのか。
「……捌きたくないんだが」
いきなり猪(黒焦げ)の解体にチャレンジはハードルが高過ぎるだろ……
「じゃー、ちょうだい」
「こらっ」
天真爛漫な妹と苦労性なマッチョ兄……
「いいぞ。それより逃げているうちに方向が分からなくなった。街にはどっちに向かえばいいか教えてくれ?」
街道に出られて、人に出会えて、助かった。
「え、おっさんってばマジ迷子なんだ!!だっさーい」
「こら!!」
この世界にもギャルっぽい女の子はいるんだな……ケラケラと笑われて、いい年こいて道がわからない状況にいる現実に心が痛む。
「ほんと、こいつがすみません……あっ」
「ああ、俺はシュウって言います」
俺を呼ぶのに困った様子だったので名乗る。苗字はいらないだろう。
「シュウさん、俺はディルです。こいつらは〈夜明けの虹〉の仲間です」
冒険者パーティか。アニメちっくだな。
「うっす、俺はガッシュ」
「僕はライ、よろしくです」
ディルは剣士でガッシュは盾士、ライは斥候だという。
「アタシはミルキー、拳が武器よ」
ニカッと笑顔で名乗って腕をムキっとさせている。この中で一番ワイルドなのか。
「王都は右方向です。俺たちも戻るんで一緒に行きましょう」
ディルが同行を申し出てくれた。ほかの街への距離が同じくらいなら王都にはいきたくないんだが。地図の配置とかで予測すると一番近いのが王都だ。
「じゃ、頼みます」
旅支度と情報収集もあるし、付いていくのが正解だろう。
「早速、肉の処理しようぜ」
ガッシュが短剣を持って猪の方に向かう。
ミルキー、お前がやるんじゃないんかい!!
「シュウ、すごい威力だったんだな。深部まで火が通ってるぞ」
「たべられるところ、すくなーい」
猪、ブラックボアは食べられそうなところが少なかった。
すまない。猪。必死だったし、加減とか威力とかわからなかったからさ。
「魔石は無事だ」
手際よく解体して心臓近くから赤黒い魔石が取り出された。体内から石がでてくるって、胆石とか結石のイメージでヒヤッとするな。
「……はい」
ミルキーが渋々といった感じで俺に魔石を渡してきた。
「……君たちが処理したんだし、俺はボアを要らないといった。それは君たちの物だ」
処理に困った黒焦げの猪を貰ってくれて、しかも王都に同行してくれるんだから、俺はラッキーだ。
「おっさん、いいやつだなー。ありがとう」
「こらっ!ミルキー!!」
ディルはミルキーの頭を叩いた。苦労してそうな兄さんだな……
「さすがにやばいぞ、お前……」
仲間のガッシュとライも渋い顔をしている。
いや、もう「おっさん」でいいし。さすがに二十歳くらい差がありそうなギャルに「おっさん」言われても仕方ないし……
「じゃ、これ燃やしちゃってよ。おっさん、火魔法が得意みたいだし」
ギャルにナチュラルに処理を押し付けられた。
こいつ、兄たちに甘やかされてるな……




