第26話 マイペース
俺は一旦宿に戻った。
食堂の忙しさは落ち着いていて、エニスちゃんは受付で座っていた。
「今日出発することになった」
俺は部屋の鍵を返して部屋に荷物はもう置いてないことを伝えた。そして酒樽をどうするか……抱えて歩くのは無理だ。マジックバッグのことをバラすかな。
思案していた俺の表情を読んだのかエニスちゃんが「馬車までお運びしますよ」と言ってくれた。だが女性に運ばせるのは……
「厨房の者が買い出しに出るのでついでですよ」
にっこりと笑ってくれたので運び代として銀貨三枚を渡した。多いと言われたが感謝の気持ちだからと受け取ってもらう。
正午までに東門に止めてある〈大鷲の鉤爪〉の馬車にシュウの荷物だと伝えてほしいと頼んだ。Aランクパーティの名前がでたからか一瞬ポカンとした顔になった。
宿〈真昼の月〉を出て、薬屋に向かう。表通りから裏に入っていった。この喧騒もしばらくは感じられないんだな。辿り着いた先が賑やかだといいんだが。
奥の道に進んで目当ての薬屋に入った。
「おや、いらっしゃい」
おじいさんは俺のことを覚えていたようだ。
「タバコが欲しいんだが」
そう伝えると「おや」という顔をして後ろからケースを出してくれた。
「どこか痛むのかい?」
あれ?タバコは薬なの?
「いや、嗜好品としてほしいんだが」
「……道楽だねぇ」
おじいさんはケースを開いて中を見せてくれた。
噛みタバコは葉っぱに包まれているもの、パイプ用のジャグは小さめの陶器、そして細めの葉巻が並んでいた。
「薬用として使わないとダメか?」
「いや、良いんだがね。値段的に気軽に吸うもんは少ないからね」
そんなにかぁ。
「ここに来る連中はタバコ買うよりポーションを買うから」
そりゃそうか。
「俺は噛みタバコは試したことがないんだ。パイプ用の一つと葉巻を三本くれ」
「パイプ用はおよそ十回分で銀貨三枚、葉巻は一本銀貨五枚だ」
……思ったより安いが確かに高い。気軽にバカスカ吸うにはもったいない値段か。
「うちに置いてあるものはこれだけだが、貴族街で売っているものは金貨が飛ぶよ」
わぉ。
まぁ、あっちの世界だって百万円の葉巻があったからな。吸ったことはないけど。俺の吸ったことがある葉巻の最高額は、ボーナスが出た時に奮発して買った五万円のやつだ。
おじいさんが葉巻をバナナの皮のような葉っぱで包んでくれた。
「連続して吸うのはやめなさいよ。これは鎮痛効果もあるが気分が上向きになる。依存し過ぎないようにな」
「わかった。ありがとう」
俺は銀貨十八枚を払って店を後にした。
表通りに戻る途中、金物屋を見つけた。冒険者ギルドで調理器具はほぼそろえたが一応覗いてみることにした。
鍋、鉄板……クワかな、畑仕事に使うような道具も並んでいて、店員が座っている近くに包丁、ハサミ、スキットルが置いてあった。
俺は大鍋一つ、小型テーブルサイズの鉄板を一枚、包丁のサイズ違いのものを三丁、調理用ハサミを一丁、スキットルを三本買ってしまった。包丁は予備があったほうが良いしな。
野宿なら食事も携帯食かバーベキューのような状態だろう。彼らはそれなりに揃えているだろうが俺も専用のものがあったほうがいいしな。
予定より人数が多くなってしまったことだしと思い、肉とパンを買い足した。
そして陰に入って人の気配のないところを探し、荷物のリュックを出して少し荷物の整理をして、馬車に置かせてもらうクッションを〈生成〉した。
クッションをリュックに括りつけて背中に背負う。
……重い。
容量少なめのマジックバッグを持っていることにしたものの、早々に根をあげて荷物を仕舞ってしまう予感がした。




