第21話 こだわりが強い勇者
俺は着衣を脱いで、盗まれても替えがあるシャツだけ籠に入れて、カバンやズボン、靴は、こっそりアイテムボックスに仕舞った。
……マッパになった俺、腰布を巻いただけの姿になって手首に木製のカギについている紐を巻く。
腰布……麻かな。ちょっとゴワッとしていて、使用感がある。これレンタルタオルなんだぜ……
プール半分くらいのサイズの浴槽がいくつも並んでいて、湯の色が違ったり、ぶくぶく泡立てていたりしている。薬湯と炭酸泉かな。
カポーン
鹿威しのような音が遠くで鳴っている。
音に誘われて最奥まで進むと竹の柵があった。中に入ると田舎の銭湯のような、広さ的にもデザイン的にも懐かしい感じだ。壁に富士山が描かれている。
ここだけ世界観が違い過ぎる。なんでやねんってツッコんでしまいそうだ。
普通に顔の彫りが深いオジサンが湯舟にいた。腰布は畳んで頭に置かれている。
マナー的なことを伝授して浸透させたんだろうか……
浴槽の横には木製の椅子とタライが置いてある。カエルの洗面器はさすがに用意できなかったのだろうか。
ちなみに鹿威しはあった。露天風呂が隣接してあったよ……
古代ローマ風も気になるが、やはり露天風呂に引き寄せられるのは日本人のサガだろうか。
吸い寄せられるように銭湯の横に出て日本庭園風に造られている中にある露天に向かった。
……石鹸と瓶が置いてある。備え付けだろうか。
俺はかけ湯をしてから、椅子になっている岩に座って身体を洗うことにする。まずは頭を洗いたい。瓶がシャンプーかと思って手に出してみたらオイルだった。何に使うんだ?ほんのり木の実の香りがする。リンスなのだろうか。
石鹸を手に取って少し泡立てようと……泡立たない。そしてほんのり臭い。
動物油なのだろうか……
これを自分の肌に使う勇気は持てないので、出張一泊セットで使っていたシャンプー、リンス、ボディソープのミニパウチセットを〈生成〉した。
あ、コンディショナーかトリートメントっていうんだった。一生リンスって言ってしまうな。
周りに人がいないのでこそっと腰に巻いている布をボディタオルとして使う。タオルも〈生成〉したかったが、もし誰かに見られたら目立ってしまうだろう。
〈生成〉したもののゴミはどうしたらいいんだろうな。いつか魔法で燃やすか……何かいいスキルをもっているかもしれない。あとで確認しよう。
アワアワにまみれて、気持ち良く身体を洗ったのはいいが、このまま泡を全部排水に流すのはいろいろよろしくないと考えて結局〈洗浄〉を使った。
少しは排水に流しちゃったけど、見逃してほしい。
そして露天風呂の中に入っ……温い。
もう少し「アチッ」となるつもりだったが、ふくらはぎに感じる温度は温水プールくらい。絶妙に温い。
肩まで湯に浸かってみた。
ふぅ……
多少気分が和らいだ気がする。
周りを見てみると白砂、椿、ヒノキ、苔……どこまでこだわって再現させたのか。だがさらに奥に見えるのは石造りの壁だ。ちょっと無粋だな。
しばらくぼんやりしていたが、温まるというよりは冷える。せっかくなので古代ローマのほうも体験しよう。
腰に布を巻いて最初に見た区域まで戻る。さっきより客が増えていて、少し賑やかになっていた。
……湯に浸からずに壁の彫刻と同じポーズをしているマッチョがいる。それを眺めている連れらしき少し細身の男が「まだ足りてませんね」と批評している。
「まじかよ。かなり近づいただろう」
「足の太さと臀部の張りを見てごらんなさい」
どうやら連れの男は付き合わされて不快な感じか。
俺的には濡れて張り付いた布がマッチョの大事なところの形を透けさせているのが微妙に嫌だ。いっそ隠していないほうがマシだろう。向こうの銭湯はマッパが普通だったからな。
俺は人の少ないほうに浸かることにした。
……炭酸……きつくないか。




