第18話 喫煙したい
外はまだ賑やかで、派手な男女が歩いていたり、どこも都会の繁華街は似てるのだなと思う。
俺はこの夜の空気が好きだ。
ちょっと湿った空気と、いろいろな食べ物の匂いが混ざっている、そんな空間にいるのが好きだ。
ざわざわとした喧噪、楽しげな声、小競り合いの気配……居心地がいいと思うのはなぜだろう。
ほろ酔いの良い気分で歩いていた俺は、ドンッと人にぶつかって現実に引き戻された。
「……ってぇな、テメェ」
酔っぱらった男は、自分からぶつかっておいてスゴんできた。
当り屋か何かと思ったら、ただの酔っ払いのようだ。俺にメンチ切ってきたが連れの男が「スマン」と言って引っ張っていった。
うむ。夜の街アルアルだな。スリや通り魔じゃなくて良かった。
通りの片隅には少し荒んだ目つきの男がこちらを観察しているように見える。残念だが二軒目はあきらめよう。
やはり見知らぬ街の遅い時間に出歩くのは危険だ。
俺は途中の露店で肉串を三本買って宿に戻った。
宿の食堂はまだ賑やかだった。看板娘のエニスちゃんはいないようだ、代わりにエニスちゃんと顔が似ている男性が給仕をしている。
「おーい、ノース、エール持ってきてくれ」
昨夜も見かけた客が赤ら顔で木製のコップを上げている。あの男性はノースと言うのか。
俺はノースさんに向かって部屋に戻るとジェスチャーをして階段に向かった。
風呂はあきらめる。三階の上り下りはもうしたくない。
「ふぅー」
部屋に辿り着いて、とりあえず全身を〈洗浄〉した。街の空気や匂いは好きだが自分に匂いがまとわりついているのは嬉しくない。スッキリしてから部屋着に着替えて、テーブルにさっき買った肉串を出す。そして冷えたエールを〈生成〉した。
カシュ
慣れ親しんだ缶の音。そして迎える刺激的な炭酸とポップな香り。
「はぁー……」
ここで本来ならタバコに火を点けたいところ……
そういえば、街中で咥えタバコをしている人も、飲み屋で喫煙している人もいなかったな。もしかしてタバコは超貴重品か。
どこでなら吸ってても目立たないんだろうか……しばらくお預けなのか。
さすがに一日ひと箱とは言わないが三本くらいは吸いたい。ヤニ切れは地味にストレスだ。
どうしようもないので肉串を食う。
味付けにスパイシーさが足りなかったので七味を〈生成〉する。ビリっとした辛みと山椒のさわやかな香りが荒々しい肉の旨味を引き出してくれる。
うん。ビールに合う。
寝る前に歯を磨きたかったが水場に行くのが面倒だったのでまたも〈洗浄〉で済ました。どんどん物臭になっていきそうでヤバい。清潔を心掛けたい。
昨日は疲れすぎていて気にならなかったが、ベッドが硬かったので腰痛持ちに優しいマットレスと快眠枕を〈生成〉した。
横になるとすぐに夢の中に落ちた。
目覚めはスッキリ。
朝食にブラックコーヒーと卵サンドを〈生成〉した。食堂で朝ご飯もいいが、青汁もどきはもうゴメンだ。
食事を済ませて着替えてから今日の予定を考える。
冒険者ギルドからの連絡がいつ来るかわからないが二、三日と言っていたので今日は出歩いても大丈夫だろうか。
そういえば、マジックバッグの値段を調べるのだった。ついでに何かしら買い足すのもいいか。
一階に下りるとエニスちゃんが食堂を走り回っていた。俺を見つけると「お食事ですか?」と声をかけてくれたので「出かける」と伝えた。
さて……宿を出てまずは、タバコを吸えそうなところはないか。人通りが少なくて多少匂いがしても問題ない場所を探すことにする。
商業ギルドと冒険者ギルドがある表通りとは逆方向に進んでみた。
生活をしている人たちが活動を始めている時間なわけで……
吸えそうな場所が見つからない。
……禁煙、路上喫煙禁止、そんな言葉が頭をよぎる。
くっそう。日本で喫煙場所を探すくらい難易度が高いぞ。
あきらめて買い物に意識をシフトした。




