第16話 飲みたい。
パンを人目のつかない場所でアイテムボックスにしまった。人目を避けてコソコソすることに慣れていく自分が少し怖い。
ここは表通りの一番賑やかなところの一本奥だから、まだ危ない雰囲気はないけど、この先を進むと人気が無くなっていくので、表通りに戻る。
まだ騎士の演説は続いていた。
少し気になったんだが、一般庶民を戦争に呼び込んで、すぐ戦場に出せるものなんだろうか?兵役義務があって訓練を受けたことがあるのか?
冒険者は戦えるだろうけどさ。
戦争参加が国民の義務とか言い出されたら、俺は今、この国の出身になっているからやばい。
最悪、身分証はいじる。神様が「好きに変更すれば良い」って言ってたしな。
宿に戻ると酒屋から商品が届いていた。こっそりアイテムボックスにしまおうかと考えたのだが、その場合、護衛の冒険者に渡す時に出し入れすることになってしまう。最初に馬車に直接載せてもらうほうがいいだろう。顔合わせをした時に、載せられるか聞いてから買うべきだった。つい、気分がはしゃいでいたようだ。
酒樽三つ、看板娘のエニスちゃんに出立するまで受付で預かってほしいと頼んでみた。「大丈夫ですよ」と快諾してくれたので一安心。買う前に考えたらよかったな。
一旦、部屋に戻った。
今日買ったものを整理しないと。リュックには寝袋、テント、調理器具、携帯食を中心に人前でいじるだろう物を中心に。
……肉や食材はこっそり出し入れできるかな……マジックバッグの希少さを確認する必要がある。
商業ギルドで財布を出したときには一瞬驚かれたけど、俺くらいの商人が持ち歩いていてもアリ(・・)としてもらえたのだから、持っていてもいいかもしれない。
実家が代々商家をやっていて、祖父の持ち物を貰った……とか言う物語にしようか。腰のバッグを無意識に使うだろうから、これをマジックバッグと言うことに。
一応、売っているか、確認はしよう。
食材を簡単に仕分けしたい。宿で厨房を借りたいって言ったら迷惑だろうな。都度やっていくしかないか。
出来ないことを考えても仕方ないので、簡単なメニューを考えて木箱を〈生成〉して一食分ずつに大雑把にまとめておく。調理用の包丁がない。と言うか、トングもハサミもまな板もない。買ったものは鍋とフライパン……仕方ないので〈生成〉した。包丁なんかは使い勝手が良いものがいいからな。
外が少し薄暗くなってきた。まだ兵士が騒いでいるだろうか。
俺は面倒ごとは嫌だが、王都から出る前に、少し良い酒場で酒を飲みたいんだ。移動中は大して飲めないだろうし、辿り着いた先に良い酒があるかは分からない。なければ、自分で〈生成〉が出来るが、せっかくなら現地の酒やつまみは体験しておきたい。
人通りが多い表通りだけなら、夜に出歩いても何とかなるか。早めに切り上げればいいかな。
一階まで下りて、エニスちゃんに「外で食べてくる」と、酒を飲むジェスチャー付きで伝えて「いってらっしゃい」と送り出される。
外には昼間に見かけなかったような冒険者姿の人たちがいっぱい歩いていた。あと、現場帰りっぽい土木関係者かな。
少し歩いて、にぎわってる酒場を横目に少し落ち着いた雰囲気の店を探してみた。
高級そうな酒場の場所は商業ギルドに近かった。
少し窓際から様子を窺う。一見さんお断りや、ドレスコードはサイズさすがに下町ではないよな?
「入ってもいいですか?」
ダメでもともと。とりあえず扉から顔を覗かせて聞いてみた。
「ここは飲み屋だ。客は大歓迎さ」
カウンターでダンディなマスターがニッと笑って、「入って来い」と指先でコイコイっとしてくれた。
「ここでいいか?」
テーブル席は空いてるが、マスターにカウンターを進められた。
酒が頼みやすいからカウンター席は嬉しい。俺は案内されるままカウンター席に座った。
店内を見回すと、なんとなく田舎の古いスナックを思いだした。
ウィスキーや焼酎のボトルが棚に並んでいるのではないが。
木製の棚に木製の樽、そして不透明な瓶が並んでいる。カウンターテーブルには生ハムの原木と大きな半円のチーズが置いてある。
前の世界の飲み屋とそんなに変わらないな……
「何を飲みたい?」
マスターは俺の前にナッツと干したデーツを出してきた。お通しだろうか。
「んー……あの瓶はブランデー?」
「ああ、俺の一番のお気に入りだ」
お、お高い酒か?だが俺には金の粒の売り上げがあるから心配ない。
「じゃ、それを頼む。マスターにも一杯」
俺の言葉にマスターは一瞬、目を見開いて右の口角を上げた。なんかイチイチ渋くてかっこいいぞ。




