第15話 裏道での買い出し
ギルドのあった大通りから一本奥の道に入っただけで雰囲気がガラッと変わる。表の見栄えだけ整えているような……そんな印象だ。
下町だから……貴族や貴族の従者が買い物に来るからか。
貴族街は世界がまったく違うのかもしれない。ワザワザ見に行く気はないが。
目当ての薬屋はすぐに見つかった。店のほうから鼻に突く独特の……薬草のような香りが漂っている。入口のドアは開いたままだったので声をかけながら入った。
「こんにちは」
挨拶があっているのか、わからないが無言で入るよりはマシだろう。
「らっしゃい。何をご所望かね」
奥から白髪のおじいさんが出てきた。
「ポーションと旅の間に必要になりそうな薬を買いに来た」
俺ひとりなら、風邪や腹痛くらいは元の世界の薬を〈生成〉してやり過ごせるだろうが、それなりに備えておいたほうが良いだろう。
ポーションはただの興味本位だ。異世界アルアル系はやっぱ気になる。
大ケガなんかしてもサブスキルの〈治癒〉あたりでどうにかなりそうだから無くてもいいんだ。でも見たい。
……治療魔法系は、あの〈巡礼者〉ゆあちのスキルなんだろうなぁ。俺、〈治癒〉〈再生〉〈浄化〉〈結界〉とか全部貰っちゃっている。多分、本来ならあの子が持つものだった。人から奪えばいいって簡単に言っちゃう子だから自業自得か。
「ポーションは傷用、魔力回復用どっちもかね。ランクは?」
「両方、ランクは下級を五本ずつ、中級を三本ずつでいいかな」
護衛してくれる冒険者パーティは自前で持ってるだろうけど、一応持っておくほうがいいだろう。
おじいさんは、腹痛、解熱の丸薬、解毒、止血、傷薬の軟膏、気付け薬、虫除けを出してくれた。「欲しいものを言え」って感じだったけど、俺は出してくれた薬を全種類、買うことにした。なんとなく、祖母の家にあった置き薬、あの懸場箱を思い出した。ちょっとだけノスタルジーな気分だ。
薬屋では合計銀貨六十七枚分の買い物をした。思ったより安いのは庶民向けの薬屋だからかな。ポーションは上級と超級は桁が違うらしいぞ。うっかり欲しいって言わなくて良かったな。
おじいさんは買ったものを中古の木箱に入れてくれた。薬草の匂いと汁が染みついているがこれも味わいか。
「ありがとう」
「またどうぞ……」
礼を言って外に出る。
人通りは表より少ないがそれなりだ。ちょっと影に入って薬の木箱をアイテムボックスに入れた。
この通りを来た時とは逆方向に進んで、通り沿いの店を眺めて歩くことにした。
表通りは客を呼び込むための店が並んでいて、こっちはここで暮らす人たちのための店が並んでいる。
肉屋、酒屋、パン屋、総菜屋……下町商店街っぽくて、表よりこっちのほうが居心地がいい。
ついでなので、移動中に必要な食材と酒を買い込むことにした。
肉は……量り売り、得体のしれない……ネズミともぐら、オーク……味が想像できないんだが、売っているなら普通に食えるだろうと適当に買ってみた。葉っぱで包んでくれた。ベーコンとソーセージも買う。
五人分で二週間くらい……どれくらい要るのか、全部出さなくてもいいだろうから、生肉15キロ、干し肉五キロあたりで買ってみた。
「たくさん買ってくれるねー」
お店のおばさんが驚きと喜びの声をあげた。代金は銀貨25枚と銅貨八枚だった。お買い得な気がするがどうなんだろうな。
次は酒屋を覗く。低価格帯のエール、ワイン、蒸留酒が並んでいるようだ。エール中樽三つ、ワインはボトル三本、蒸留酒は瓶詰めのものを二本選んだ。
……運ぶのめんどくさいな……と、少し考え込んでいたら宿に届けてくれると言ってくれた。最終的にはアイテムボックスに入れるんだが、ここでやるわけにはいかないので頼んだ。
支払いは銀貨四十三枚と銅貨五枚。運び賃はいらないというので、チップとして足して銀貨四十五枚払った。千五百円程度なのにとても感謝されてしまった。
「じゃ、よろしく頼む」
「ありがとうございましたぁ」
気持ちよく見送ってもらって、次はパン屋に入った。
丸くて素朴なパンが並んでいる。種類は少ない。雑穀と大麦、干し果物が入っているもの……全種類買ってしまおう。買い占めて他の人が困らない程度にな。
パンの代金は銀貨二十三枚と銅貨四枚だった。激安。
「まぁ、こんなにたくさん、ありがとうございます」
店員の女性が中古の麻袋に詰めてくれた。袋は大麦か何かのやつで洗って再利用っぽい。さすがに洗ってなかったら……怖いな。
パンの入った大袋を抱えて店を出る。焼きたてのパンの香りに包まれて腹が減ってきたぞ。
歩きながらパンを一つ、咥えてみた。
うまい。少し硬めのパン。歯ごたえがあって、でも中はむっちり詰まっていて好きな味だった。
まだ買うべきものがあるような気がするが、冒険者ギルドが連絡をくれるまで、二、三日あるから一旦宿に戻ろう。




