第14話 買い出し
ドーラさんに依頼書を用意してもらって、前金として金貨三枚を渡した。
宿〈真昼の月〉に逗留していることを伝え、護衛をしてくれる冒険者パーティが決まったら連絡をしてもらえることに。
話を終えて、礼を言って個室から出た。
冒険者ギルドを出る前に長旅や野営に必要なものが売っているかと思って、ギルド内の売店を覗くことにした。
広さ的には田舎の八百屋くらいか。それでも武器、防具、携帯食、薬品、調理具、なんでも揃っているようだ。
商店をあちこち回って、気に入るもの、お得なものを探すほうがいいのだろうが、面倒くさいので、ここで揃えられるだけ揃えよう。ギルド内でぼったくりはないだろうし。
店番は、いかにも元冒険者っぽいイカツいおっさんだった。
「ちょっと見せてくれ」
「ほいよ」
一声かけてから、必要そうなものを見て回る。
テント、寝袋、水筒、鍋、フライパン、携帯食。
武器と防具はどうしようかと一瞬考えたが、護衛が付いていて自分が戦う状況になったら、魔法を使うだろうなと思って、買うのはやめた。
ファンタジー名物ポーションは店番の後ろの棚に並んでいる。
あれこれと欲しいものを決めて店番の前に運んでいく。
「なんだぁ?たくさん買ってくれるなぁ」
テントや寝袋はともかく、これだけまとめて買うのは珍しいってさ。
「少し前に魔獣に襲われてね」
荷物をダメにしたと簡単に説明した。
「そりゃ、難儀だったな」
店番は商品を手際よく縄でまとめてくれる。
「ポーションもいくつか欲しいのだが」
「……ギルドタグを見せてくれ」
おっと、もしかしてこの売店って冒険者専用だったか?
「俺は行商人だから身分証しかない」
「商品は一割高くなるぞ。ポーションは冒険者限定だ」
あらら。ギルド会員の互助システムでもあるのかな。
「そうか。あちこち買い出しに行くのが面倒くさいからここで済ませられたら助かったんだが」
店番に少し呆れた顔をされた。
「ギルドを出て一本奥に入った道を右に行けば、ポーションを売ってる薬屋がある。うちのより少し品質は下がるが冒険者じゃないならそっちに行ってくれ」
「助かる。ありがとう」
ここで買えないのは残念だが買える場所を教えてもらえたのはありがたい。
携帯食は雑穀シリアルとジャーキーのような見た目だった。味はどんなだろう。とりあえず、二種類を十本ずつ頼んだ。
これでポーションと薬以外は買えた。一割増で、合計銀貨七十三枚で済んだ。金貨数枚はいるかと思っていたが、初期装備くらいの品物なのだろうか。一割増でも安いと思う俺は金銭感覚バグっているのかもしれない。
店番は俺のリュックを見て入れられるようにまとめてくれた。俺はそれをリュックに詰めた。フライパンと鍋はサイドに括った……後で見栄え良く入れなおそう。
「ありがとう、助かった」
「おう、またな」
ポーションを買いに教えてもらった薬局に向かうことにする。
ギルドを出て一本奥の道に入ろうとすると、広場が騒がしくなった。
「勇者さまと剣聖さまが現れたぞー。国王陛下が魔国との戦いを本格化すると発表なされた!!戦争に参加して功績を上げたら褒賞が出るんだぁ!!」
軍隊の制服っぽい衣装の男が大声を張り上げながら走り回る。
あーあー……戦争か。やっぱり〈勇者〉って都合よく使われるんじゃないか。
「魔族に対抗できる戦力を得た!!俺たちは勝てる!!あの肥沃な大地を手に入れられれば暮らしが豊かになるんだ!!」
……魔国のほうが豊かなのか。
「はっ、何度も仕掛けて負けているのにこりないね」
「戦争のたびに税金が上がっていくのに、お貴族様は金にも暮らしにも困らないからお気楽なもんだよ」
下町の住人らしき奥さんたちが苦々しい顔でボヤいている。
「魔国から仕掛けてきたことなんてないのにねぇ」
お?なにもされていないのに戦争吹っ掛けて、〈勇者〉まで投入するのか!?
「なぁ、今回の召喚では聖女様は来てくださらなかったのか?」
「聖女様がいなけりゃ勇者様だって困るよなぁ」
下町の警ら隊らしき男たちが困惑顔で話している。
そういえば、あのツインテールギャルの話は出てないな。〈巡礼者〉は〈聖女〉の枠に当てはまらないのか。
「さぁ、お前たち!!勇者様と剣聖様のもとに集え!!我らはついに勝利への道を進むのだ。栄光をこの手に!」
なんだかな……狂信者みたいな。
猛々しい演説に呼応しているのは一部の若い青年たちだけで、周囲の年嵩のいった者は複雑な顔をしている。
やっぱり、早く王都から出たほうが良さそうだ。
俺はススッと気配を消して奥の道に進んだ。




