第12話 ボロい儲け
「あとは石鹸と……行商先に持っていく普通の塩や雑貨が入っています」
石鹸はもう売らなくていいかなって。
そして、ウォリスさんの荷物の一部、行商セットみたいなのしか持っていないのは事実なのだ。
ヨアキムさんもタイラーさんも俺の言葉に途端にしょんぼりした。営業スマイル、忘れてるぞ。
「はっ!!石鹸……石鹸は村などに持っていくものではないですよね!?」
確かに石鹸が高いなら庶民が相手では売れないね。
「気になるので見せてほしいのですが」
さすがと言うべきか、嗅覚が鋭いということか。
嫌がるのも変なので、リュックから出すふりをしてアイテムボックスから石鹸を出す。
ケースに入れるのを忘れたので、バラのものを数個ずつテーブルに出すというめんどくさいことをしてしまった。
「……触ってもいいですか?」
「包みを剥いてもいいかね?」
二人は少し怪訝な顔で石鹸を見つめる。
「どうぞ?」
リュックから最後の石鹸を取り出し終わったので二人の様子を窺う。
ヨアキムさんが包みを開いて目を見開いた。
「……これはヨーカンではありませんか!?」
ん?開かれた中身を見るとパッと見、羊羹に見えないこともない。どちらかというば、琥珀糖か淡雪に見えなくもない。
ヨアキムさんの喉がゴクリと動く。相当好きなんだな。羊羹。
「石鹸ですよ。食べられるものではないです」
うっかり口に入れたら大変だ。
「こんなに美しいものが石鹸ですと!?」
タイラーさんは石鹸を縦から横からと角度を変えて見つめる。
羊羹でないことを納得しきれないのか、ヨアキムさんが切ない顔でクンクンと臭いを嗅いだ。
「タイラー!!花の香りがするぞ」
「言われてみれば……指にも香りがついて……」
何のことはない、ただの石鹸だから、二人のやり取りがコントに見えてくる。
「一回、手を洗うのにお使いになってみれば?」
と言うか、〈鑑定〉とかしてもいいんだぞ?さっきは多分したよな?
羊羹みたいな見た目に興奮して忘れてるのか?商売のプロが?
「……良いのですか?」
「いいのかね!?」
二人は驚愕して俺を見る。
「どんなものかわからずに買う人はいないでしょう」
二人して石鹸を一つ持って、部屋から出て行ってしまった。
「……」
まぁ、俺は客ではなく、営業できているわけだからいいけどさ。
しばらくして二人は恍惚した顔で戻ってきた。
「これは貴族のご婦人に売れますよ!!」
うわぁ。そんな御大層なもののつもりではなかったのに。
「泡立ちがよくて、香りがよく、程よく肌には花の香りが残っている上に、手がしっとりしているのだよ!!」
ヨアキムさんが興奮状態だ。
「ご存じでしょうが……こちらが貴族の使われるもの、こちらが私たちが普段使うもの、こちらが庶民が洗濯につかうものです」
俺の出した石鹸と比べるために商品を持ってきてくれたようだ。
貴族用は形が楕円に整っていて淡いクリーム色で香水で香り付けしてある。
裕福層は少し黄色がかった色合いで素材に使っている木の実が少し香っているもの、庶民のものは灰色っぽくて雑に切り分けてあるもの。
俺の出した手作り石鹸はハーブと着色料で綺麗な薄紫とオレンジ色の二品だ。
お菓子と思っても仕方ないかもしれない。
出すならば、市販のあの有名なミルクの石鹸にしておけばよかったのか!!
「こちらはぜひ売ってください。おひとつ、銀貨五枚でいかがでしょうか?」
固形石鹸一つ、五千円!? せいぜい五百円だろう。
「いいです……」
「ところでこちらの包んでいる紙は見たことがないほど薄く、きめ細かく、ツルリとした感触なのですが!!お付けくださったままでいいのですか!?」
もはや体裁もなにもなくなっているみたいなタイラーさん。鼻の穴がピクピクしている。
「あ、包むものが他になかったので使ったのだけど……包みがないと不便だろうからそのままで」
ただのキッチンペーパーだし、スーパーで買える安いやつだ。おしゃれなものとかかわいい柄入りにしなくて良かったな。
「包みは一枚銀貨一枚でよろしいですか?」
え!?折り紙サイズなのに千円もくれるの!!
俺はコクコクと頷く。タイラーさんもヨアキムさんもちょっと怖い。
「こちらの包みはまだお持ちですか?」
「もうないです!!」
ここで〈生成〉するわけにはいかないから、無理だ。
「そうですか……」
タイラーさんがめっちゃテンション下がった。
結局石鹸二十個を金貨一枚、銀貨二十枚で買ってもらえた。
金の粒を売った後なので「そんなものか」と思ってしまった。感覚が狂いそうだ。
また契約書にサインして、指を切った。テンション下がるわー……
「また仕入れて持ってきてくださいね。大歓迎ですので」
「ぜひとも頼むぞ。ほかにも君の慧眼に期待している」
予想より長居してしまったので、欲しかった情報を得ずに出ることにした。ドッと疲れた。
情報は冒険者ギルドでも得ることができるはずだ。
タイラーさんも興奮のあまり俺の最初の言葉を忘れているようなので、逃げるように商業ギルドを後にした。
思っていたよりも稼いだし、旅支度をして王都を出よう。




